過去最高を更新した「60兆円の待機資金」、これは「弱気サイン」なのか?

バークシャー・ハサウェイ[BRK.B]は、5月2日の株主総会開始直前に、第1四半期決算も発表しました。営業利益は113億5,000万ドルとなり、前年同期比で18%増加しました。事業そのものは引き続き堅調です。しかし、今回の決算で最も注目されたのは、利益の伸び以上に、バークシャーの現金・短期国債の残高が過去最高水準に積み上がったことでした。

第1四半期末時点で、バークシャーの現金・短期国債は約3,970億ドルに達しました。アベルさんは、実質的な待機資金としては約3,800億ドルに近いと説明していますが、いずれにせよ円換算ではおよそ60兆円規模です。一企業の手元資金としては、異例の大きさと言えます。

マーケットでは、この巨額の現金残高について、「バークシャーは現在の株式市場を割高だと見ているのではないか」という受け止め方もあります。たしかに、バークシャーが現金比率を高め、株式投資を大きく増やしていないことは、現在の市場価格に対する慎重な姿勢を示しているようにも見えます。

ただし、僕は、必ずしもバークシャーの現金保有を単純な弱気サインとして見るべきではないと思っています。バークシャーの資本配分は、長年にわたるバフェットさんの投資哲学に基づいています。彼らは、ただ安いから買うのではありません。自分たちが理解でき、長期的に保有したいと思えるビジネスであり、なおかつ本来の企業価値と比べて十分に割安だと判断できる場合にだけ投資します。逆に言えば、そのような機会が見つからなければ、何もしません。現金を抱えたまま、じっと待つのです。

これは、常に現金を使って投資を続けなければならない投資信託などのファンドとは大きく異なる点です。バークシャーにとって、現金は単なる余剰資金ではありません。将来、本当に魅力的な機会が訪れたときに、誰よりも早く、誰よりも大きく動くための選択肢なのです。

時価総額1兆ドル超の巨大企業バークシャー、株式投資は慎重な姿勢を継続

また、約4,000億ドルという現金残高の大きさだけが一人歩きしがちですが、この数字の見方にも注意が必要です。バークシャーは現在、時価総額が1兆ドルを超える巨大企業です。加えて、鉄道、保険、エネルギー、製造、サービス、小売など、多くの事業会社が安定した営業利益を生み出しています。

つまり、現金残高そのものは過去最高であっても、バークシャー全体の規模から見れば、かつてほど極端に大きな比率ではありません。むしろ、営業事業の規模と収益力が以前よりはるかに大きくなっているため、バークシャー全体に占める事業会社の存在感は増しています。

しかも、これは新CEOであるグレッグ・アベルさんが、バークシャーの最高経営責任者となって最初の四半期決算です。投資家にとっては、単なる決算の数字ではありません。バフェット後のバークシャーが、この巨額の資本を今後どのように配分していくのか。その最初の手がかりとして見られていたのです。

提出書類によると、バークシャーは第1四半期に240億ドル強の株式を売却しました。一方で、購入額は約160億ドルでした。その結果、この四半期も約81億ドルの株式を純売却したことになります。
バークシャーはすでに3,000億ドル規模の上場株式ポートフォリオを持っていますが、その中身をさらに大きく増やすというより、引き続き慎重な姿勢を維持していることが分かります。主要5保有銘柄は、アメリカン・エキスプレス[AXP]、アップル[AAPL]、バンク・オブ・アメリカ[BAC]、コカ・コーラ[KO]、シェブロン[CVX]で変わっていません。

久しぶりの「自社株買い」が意味するものは?

一方で、注目すべき動きもありました。バークシャーは第1四半期に、自社株を合計2億3,500万ドル買い戻しました。これは2024年第2四半期以来、初めての自社株買いです。

バークシャーの自社株買いは、一般的な株主還元とは少し意味合いが違います。バークシャーでは、CEOが取締役会議長と協議したうえで、株価が保守的に見積もった本源的価値を下回っていると判断した場合に、自社株を買い戻すことができます。買戻しの上限額や期限は設けられていません。ただし、自社株買いによって、現金・現金同等物・米国短期国債の合計が300億ドルを下回ることはない、というルールがあります。

つまり、バークシャーにとって自社株買いとは、単に余ったお金を株主に返す行為ではありません。自社株が割安だと判断したときにだけ行う、資本配分の一手なのです。

報酬全額を自社株へ、新CEOアベル氏が示した「株主と同じ船に乗る」覚悟

さらに興味深かったのは、アベルさん自身の行動です。2026年3月4日、アベルさんはバークシャー・ハサウェイのクラスA株を21株購入しました。購入価格は1株あたりおよそ72万5,000ドルから73万3,000ドルで、総額は約1,531万ドル、円換算で約24億円です。SEC(米証券取引委員会)のForm 4では、購入後の保有株数はクラスA株249株と記載されています。

2026年5月1日時点のクラスA株の価格は約71万ドルでしたから、アベルさんは現時点でおよそ280億円相当のバークシャー株を保有している計算になります。

重要なのは、この購入が会社による自社株買いとは別で、アベルさん個人による購入だったことです。彼は自分の報酬を受け取り、その税引き後資金を公開市場でバークシャー株の購入に振り向ける意向を示しています。つまり、自らの資産をバークシャー株に結びつけることで、株主と同じ船に乗る姿勢を明確に示したのです。

さらにアベルさんは、CEOである限り、毎年の税引き後報酬の全額をバークシャー株の購入に充てる意向も示しました。これは、株主との「完全な利害一致」を示すためのものです。ポスト・バフェット時代のバークシャーに対する自らの信頼を、言葉ではなく自己資金で示す行動と言えるでしょう。
はたして、これだけのことを普通の日本企業のCEOができるでしょうか。もちろん、日本企業のCEOでも、自社株を購入すること自体は可能です。しかし、税引き後報酬の全額を継続的に自社株に投じると公言し、実際に実行する経営者は、ほとんどいないのではないでしょうか。

アベルさんの行動は、単なるインサイダー買いではありません。自分の個人的な経済的運命を、株主と同じ方向に置くという宣言です。バフェット後のバークシャーを率いる新CEOが、自らの資本でその覚悟を示したことは、投資家にとって非常に大きな意味を持つと思います。

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