「バフェット後」の幕開け、新体制への注目が集まったオマハ

2026年もゴールデンウィーク期間中の5月2日、ネブラスカ州オマハで、バークシャー・ハサウェイ[BRK.B]の年次株主総会が開催されました。この時期になると、「投資の神様」とも呼ばれるウォーレン・バフェットさんを一目見ようと、世界中から投資家やファンがオマハに集まります。普段は静かな人口約49万人の街が、数日間だけ投資家の熱気に包まれるのです。

2025年の参加者は4万人を超えたようです。当時94歳だったバフェットさんがCEOとして最後にホストを務める株主総会だったこともあり、「最後のバフェットさん」を見たいという投資家が例年以上に集まりました。

一方、2026年の会場を見渡すと、2025年より少なくとも2割ほど参加者が少なかったように感じました。ただし、それは2026年の総会の重要性が薄れたということではありません。グレッグ・アベルさんが新CEOとして初めて迎える株主総会で、投資家が注目していたのは、バークシャーが「バフェット後」の時代をどのように見せるのか、という点だったのです。

今回、バフェットさんは主役として壇上には上がりませんでした。会場フロアの最前列で、バークシャーの取締役たちと並んで座り、短く話をしただけでした。会の中心は、明確にグレッグ・アベルさんとバークシャーの幹部たちに移っていました。

これまでのバークシャー株主総会では、バフェットさんが株主からのあらゆる質問に答えることが最大の見どころでした。質問は事前にメールで送る方法と、当日会場で抽選により直接質問する方法があります。実は僕も3年前、この会場でバフェットさんに直接質問する機会を得ました。今思うと、非常に幸運だったと思います。

今回も挑戦してみましたが、残念ながら抽選には外れてしまいました。近年アジア系の投資家による質問が増えており、2026年は質問者の半分くらいが中国系の参加者でした。バークシャーへの関心が、米国だけでなくアジアでもいかに強いかを改めて感じさせられました。

個人のカリスマから「チーム・バークシャー」へ、原点としての1991年

CEOとして初登壇したアベルさんの株主総会では、彼が自分自身を前面に押し出すのではなく、あえて「チーム・バークシャー」を見せようとしていました。

これまでのバークシャーでは、「バークシャー=バフェット」「バフェット=バークシャー」という構図がほぼ成立していました。しかし、まだ「アベル=バークシャー」「バークシャー=アベル」とまでは言えません。だからこそ、アベルさんにとって必要だったのは、自分がバフェットさんの代わりになることではなく、バフェットさんが築いてきたバークシャーの哲学を継承する姿勢を示すことでした。

その象徴が、総会の冒頭近くで流された1991年の映像でした。ソロモン・ブラザーズ事件をめぐり、バフェットさんが米議会で証言した時の映像です。アベルさんはこの映像を、バークシャーにとっての「アンセム」、つまり企業文化を象徴する精神的な原点のように位置づけました。

ソロモン・ブラザーズ事件とは、当時のソロモン・ブラザーズ証券の債券トレーダーが米国債入札ルールに違反し、さらに経営陣がその問題への対応を誤った事件です。当時、ソロモンの株主だったバフェットさんは、暫定的に同社を率いる立場となり、議会で証言することになったのです。

バフェットさんはその証言を、次のような謝罪から始めました。「私はソロモンの従業員を代表し、アメリカ国民の皆さん、議会の皆さんにお詫びします」。そして、特に有名になったのが、次の趣旨の言葉です。「会社のために損を出したなら理解する。しかし、会社の評判を少しでも傷つけたなら、私は容赦しない」。最終的に、バフェットさんはソロモンという会社を救いました。

個人的な話で恐縮ですが、この事件が起きた当時、僕は問題となったソロモン・ブラザーズ証券のニューヨーク本社の株式部で働いていました。もしバフェットさんがソロモンを救っていなければ、僕自身も職を失っていたはずです。そういう意味で、バフェットさんは僕にとっても恩人です。

そのため、3年前にこの株主総会でバフェットさんに直接質問する機会を得たとき、僕はソロモン・ブラザーズの件について、どうしてもお礼を伝えたいと思っていました。30年以上も前の出来事について突然感謝を伝えられ、バフェットさんは少し驚きながらも、とても喜んでくださいました。そして、僕に向かって「ありがとう」と2度言ってくれました。あの瞬間、僕にとってバークシャーの株主総会は、単なる投資イベントではなくなりました。自分の人生の一部と、バフェットさんの言葉がつながった瞬間だったのです。

新CEOアベル氏が示したバークシャーの不変的な3つの哲学

では、なぜ2026年の総会で、あえてこの映像が流されたのでしょうか。アベルさんは、バフェット後のバークシャーにおいても、資本配分や事業運営の前提にあるのは「評判を守ること」だと、株主、従業員、そして子会社の経営者に示したのです。

バークシャーは、非常に分権的な会社です。多くの子会社は、日常業務について本社から細かく管理されていません。経営者には高い自由度が与えられています。しかし、その自由は、絶対に評判を毀損してはならないという強い規律と表裏一体です。

バークシャーでは、本社が細かく命令しない代わりに、すべての子会社経営者が共有すべき最大のルールがあります。それは、短期的な利益よりも、長期的な信頼を守ることです。

つまり、あの映像が伝えていたのは、バフェットさんはCEOではなくなったものの、バークシャーの最も重要なルールは変わらない。利益よりも評判、成長よりも誠実さ、短期的な成果よりも長期的な信頼を優先するということです。これは、単なる回顧映像ではありませんでした。バフェット後のバークシャーにおいても、企業文化の中核は「評判を絶対に守ること」にあるという宣言だったのです。

事業トップが顔を揃えた壇上、受け継がれる文化と次なる時代

その後の進行も、これまでとは違っていました。CEOのグレッグ・アベルさんに加え、保険事業担当副会長のアジット・ジャインさん、ネットジェッツ(プライベート航空サービス)CEOであり、消費財・サービス・小売事業を担当するアダム・ジョンソンさん、そしてバークシャー・ハサウェイ傘下のBNSF(鉄道貨物輸送)CEOのケイティ・ファーマーさんが壇上で質疑応答に参加しました。

保険、航空サービス、鉄道というバークシャーの主要事業を担う幹部たちを前面に出した点に、2026年の総会の大きな変化がありました。アベルさんは、バークシャーを「バフェット個人の会社」としてではなく、「優れた事業群と経営陣の集合体」として見せようとしていたのです。

もちろん、バフェットさんの存在感は今なお圧倒的です。会場にいるだけで、空気が変わります。しかし、総会で明確になったのは、バークシャーが少しずつ次の時代に移行し始めているということでした。バークシャーはすでに、アベルさんを中心とした新しい運営体制を株主に見せ始めているのです。

そういった意味で、2026年の総会は「バフェット不在の総会」ではありませんでした。むしろ、バフェットさんが築いた文化を、アベルさんがどのように受け継ぎ、バークシャーを次の時代へ移行させていくのかを示す、最初の大きな舞台だったのです。
 

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