スイスフランと金の歴史的上昇相場=共通点は代表的「安全資産」
スイスフラン/円の上昇が止まらない。特に2025年3月から2026年2月までの1年間では、1ヶ月を除いてすべて陽線(スイスフラン高・円安)となった。まさに歴史的なスイスフラン上昇相場が展開している(図表1参照)。スイスの政策金利は現在ゼロで、政策金利で比較すると日本(0.75%)より低い超低金利通貨である。それにもかかわらず歴史的スイスフラン高が続いている背景は何か。
改めてスイスフラン/円のチャートを見ると、2025年後半から上昇が加速し、2026年に入るとついに200円の大台を超える動きとなった(図表2参照)。これは、同じように歴史的上昇相場が続く金相場の値動きと重なっているように見える。
3月に起こった金相場の急落=「中東有事」でも安全資産はなぜ急落?
歴史的な金相場上昇の背景として、2025年のトランプ政権発足後、それまでの国際秩序が大きく動揺し、基軸通貨米ドルへの不信感が広がった結果、「究極の安全資産」である金が選好されていることが挙げられる。そしてスイスフランも、通貨の中では代表的な安全資産と位置づけられてきた。このため、世界的な安全資産シフトの流れの中で、金相場とスイスフランが同じような「歴史的上昇相場」を展開した可能性はあるだろう(図表3参照)。
ところが、金相場は3月に入ってから急落した。最大で17%以上、1000米ドル近くもの大幅な下落となった。3月に入り、イラン情勢が緊迫化し、「中東有事」への懸念が急拡大した。「有事」において安全資産は選好されそうだが、逆に代表的な安全資産の金が急落したのはなぜか。
要因としては、イランが戦費を捻出するために保有している金の売却を拡大した影響が挙げられる。加えて、世界的に株安が広がったことから、損失を被った投資家が損失をカバーする目的で、これまでの大幅な上昇により利益が出ていた金を売却した影響も指摘されている。
一因は「上がり過ぎ」反動=それだけなら4,000米ドル大きく割れず?
またテクニカルにみると、さすがに「上がり過ぎ」の反動が影響した可能性はありそうだ。金相場の90日MA(移動平均線)かい離率は一時プラス20%以上に拡大し、2000年以降では最も「上がり過ぎ」懸念が強くなっていた(図表4参照)。その修正が急落の一因になった可能性はあるだろう。
ただ、これまでの急落により、すでに金相場の90日MAかい離率はマイナスに転じた。その意味では「上がり過ぎ」はほぼ是正されたようだ。それでも勢い余って「下がり過ぎ」が拡大する可能性はあるだろう。その場合、これまでの実績を参考にすると、90日MAかい離率がマイナス20%近くまで拡大する可能性はありそうだ。
足下の金相場の90日MAは4,670米ドル程度。これを2割近く下回ると、4,000米ドルを割れる計算になる。ただ、あくまで「下がり過ぎ」の反動であれば、目一杯の下落でもその程度にとどまる、という見通しが基本になるのではないか。ただし金相場には過去、「バブル崩壊」という歴史もあった。
1980年からの「金バブル崩壊」=約2年半で最大7割近い大暴落
金相場は1980年1月に天井を打つと、その後わずか2ヶ月で5割近くもの暴落を演じた。そして最終的には約2年半で7割近い大暴落となった(図表5参照)。これこそが、1980年から始まった「金バブル崩壊」として知られる出来事だった。
金バブルがピークを迎える頃、金相場は5年MAを200%以上も上回っていた(図表6参照)。これを見ると、まさに極端に行き過ぎた上昇、つまり「バブル」だったことが確認できそうだ。ところで今回の金相場の上昇により、金相場は5年MAを200%以上上回るほどではないものの、1980年以来となる100%以上上回る動きとなっていた。
極端な「上がり過ぎ」の相場が転換する水準は、必ずしも5年MAのかい離率が200%以上である必要はないだろう。300%以上まで続く可能性もあるのかもしれないが、逆に200%まで拡大する前に、行き過ぎの修正が本格化する可能性もあるのではないか。
金バブル崩壊のきっかけはFRB大幅利上げ=今回はどうか?
1980年からの金バブル崩壊の背景には、ボルカーFRB(米連邦準備制度理事会)議長の登場により、米国がインフレ対策で大幅利上げに動いたこと、そうした中で米ドルの信認回復に向かったことなどがあっただろう。それが「究極の安全資産」金からの資金の逆流を拡大させると、歴史的金上昇相場は一転「バブル崩壊」に向かったということではないか。
足下では、国際秩序を無視したトランプ米大統領の言動が続く中、基軸通貨米ドルの信認低下の流れはむしろまだ終わりそうにない。そうした中で、安全資産である金やスイスフランへの資金シフトはまだ続くのか。それとも、3月に「中東有事」で金相場が急落したように、1980年とは違った理屈で、行き過ぎた金相場やスイスフラン上昇が転換に向かう可能性もあるのか。注目されるところではないか。
