利便性を高める直通運転の延伸による遅延が増加

最近、電車の遅れが目立つとよく耳にします。国土交通省によれば、2023年度の輸送障害(30分以上の遅れ)は7,088件で1年前と比べて+159件増えました。5年前との比較では+24%も増えています(2025年4月26日付、日本経済新聞より)。

30分よりも短い時間の遅延はさらに増えていて、東京・大阪を運行する主要74路線の遅れは2024年で8,050件。5年間で+77%も増えました。

自然災害や車両故障、乗客のホーム転落、救護、荷物のはさまり、動物による遅れなど理由はさまざまですが、他の路線との接続が増え、線路が延伸されたことが遅れの発生につながっているとの指摘もあります。

JR東日本の東海道線(高崎線、宇都宮線と接続)、神奈川地盤の相鉄線(JR東日本、東急線と接続)など、直通運転を始めた路線は便利になりましたが、延伸した分だけ遅延も増えているようです。路線が長くなった分だけ、ひとつの路線で安全運行システムが作動するケースも増えていると考えられます。

運転士が信号を見落としてもブレーキが作動する「ATS」

現在の鉄道の安全な運行を支えている基本的なシステムは、ATS(Automatic Train Stop、自動列車停止装置)とATC(Automatic Train Operation、自動列車運転装置)です。ATSは「運転士が万が一、信号を見落とした時でも自動的にブレーキを作動させて列車を止める」ための装置です。これは人間のミスを補う安全装置という位置づけです。

地上には信号機の手前にトランスポンダが設置され、車両側にはATSを受信する装置があり、赤信号や制限速度の超過などが検知されると警報音が鳴って運転士に知らせます。運転士がすぐにブレーキをかけないと、自動的に非常ブレーキが作動して列車を停止する仕組みになっています。

旧国鉄が開発しJR東日本などで広く採用されていますが、あくまで運転士の判断が前提であり、自動運転を行うものではありません。列車の速度を制御するものではなく、高速運転にも対応しづらい仕組みです。

列車の速度制御を自動で行う「ATC」、自動で加速や停止も行う「ATO」

これに対してATCは、「信号機そのものをなくして列車の速度制御を自動で行う」装置です。ATSよりも大掛かりなシステムで、新幹線や大都市の地下鉄で使われています。

ATCは地上の設備から線路回路を通じて「許容最高速度」などをリアルタイムで列車に送信し、それを電車上の装置が受信して、現在位置と速度をもとに自動的に最適な制御(減速、停止)を行うものです。

運転士は常に電車の運行を監視する必要がありますが、運転士がブレーキをかけなくてもATCが自動で速度を制御するため、信号機なしの運転が可能です。このシステムは新幹線などの高速鉄道や自動運転区間には不可欠です。

ATCよりさらに進んだシステムがATO(Automatic Train Operation、自動列車運転装置)です。ATCの上位にあり、自動的に加速し、ホームの定められた位置に停車することも可能です。ワンマン運転の「ゆりかもめ」、「つくばエクスプレス」、「日暮里舎人ライナー」などで採用されています。

電車の運行の正確さは、日本が世界に誇れる際立った特質のひとつです。大幅な遅延を防ぎつつ、安全第一の運行であってほしいですね。

鉄道の運行システム関連株をピックアップ

以下に鉄道の運行システムに関連する企業をピックアップします。

日本信号(6741)

鉄道信号や交通信号など3大信号メーカーのトップ。独立系で鉄道会社とは幅広く取引実績がある。同社が開発した既存のATSをベースとしたATCは、高度な自動運転を実現している。現在はJR九州とともに完全自動運転システムを開発中であり、国土交通省が定める自動運転の分類(GoA:Grades of Automation)において「2.5」レベルを目指している。

【図表1】日本信号(6741):週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2025年10月23日時点)

京三製作所(6742)

信号大手3社のひとつ。鉄道信号システムと交通管理システムで数々の「日本初」、「世界初」となる製品を送り出してきた。ATS、ATCと連携させた無人運転のATOシステムも開発。駅のホームドアや半導体、液晶パネル製造装置用の電源装置にも強く、2000年代からはインド、台湾、ポーランドなど海外市場でも実績が豊富にある。

【図表2】京三製作所(6742):週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2025年10月23日時点)

大同信号(6743)東証スタンダード

信号大手第3位。筆頭株主は日本電設工業(13.2%)だが取引関係は少なく、JR東日本との関係が深い。列車の位置把握、信号機の自動制御、列車速度自動制御、踏切保安設備制御など鉄道の信号保安設備に強い。赤字ローカル線の存続にも配慮した省力化・低コストの無線式列車制御システムを成長戦略の筆頭に掲げる。

【図表3】大同信号(6743):週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2025年10月23日時点)

日本リーテック(1938)

総合電気設備工事会社。北は北海道から南は九州まで、全国の鉄道電化工事、新幹線の建設を手がけてきた鉄道電気設備工事のパイオニアである。筆頭株主がJR東日本で18%の株式を保有している。鉄道や駅ビルの設備工事などJR東日本への依存度は5割を超え、鉄道信号に強みを持つ保安工業と強電部門に強い千歳電気工業が2009年に合併して発足した。電力会社向けの送電線工事も行う。

【図表4】日本リーテック(1938):週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2025年10月23日時点)