ビットコインの成功から数年が経ち、Ethereum(イーサリアム)という新たな分散型プラットフォームが誕生しました。 Ethereumは、ブロックチェーン上でスマートコントラクトや分散型アプリケーション(DApps)を実行できる革新的なインフラです。

当時、世界中のエンジニアたちがEthereum上でどのようなアプリケーションを構築できるのかを競い合い、その動向は日々進化していました。私たちもまた、未来に何が生まれるのか、どのような社会が可能になるのかという期待を胸に、世界中のプロジェクトを熱心に追っていました。そんな中、当時、Augur(オーガー)という分散型アプリケーションが大きな注目を集めていることに気づきました。

Augurは、Ethereumのブロックチェーン上で動作する分散型の未来予測市場です。中央の管理者や「胴元」が存在せず、ユーザー同士がイベントの結果に対して自由に予測と賭けを行います。スポーツの勝敗、選挙結果、経済の動向、果ては天候まで、あらゆる事象に対して市場が「集合知」によって答えを出す。しかもそのすべてがEthereumのスマートコントラクトによって、透明かつ自動的に実行されるのです。

不正や操作のリスクを排除し、オープンで信頼できる市場をテクノロジーの力で実現する──Augurは、まさにEthereumの思想を体現するプロダクトでした。その革新性に私たちの心は強く揺さぶられ、「世界最速でAugurで流通する仮想通貨を取り扱おう」と決めました。

Coincheckでの取扱い開始は、2016年10月5日の深夜。エンジニアたちは、会社に泊まり込み、徹夜で準備に取りかかりました。

そしてその深夜のこと。開発作業の合間、ふと天井から水がポタポタと落ちてきているのに気がつきました。見上げると、あまもり。階段には水が溜まり、まるで小さな川のように流れていました。やがて天井の一部が水を吸って崩れ、剥がれ落ちてきたのです。

当時のオフィスは渋谷の築30年以上の古い雑居ビル。その一室でテクノロジーの最前線に挑む若者たちが濡れた床と天井の下で、世界最速でAugurの取扱いを実現したのです。

多くのエンジニアがまだ20代。体力も勢いも、そして未来への希望もあふれていました。あのとき、天井から落ちてきたのは、雨水だけではなかったのかもしれません。

「こんな場所からでも、世界を変えられるかもしれない」そう信じた夜の記憶は、今も胸に残り続けています。