台湾ドル、韓国ウォンの急騰劇で囁かれた米国からの圧力
5月に入り、一部のアジア通貨の米ドルに対しての急騰が目立ち始めた。台湾ドルは5月5日、一日の上昇率としては1988年以来の急騰劇を演じた。また韓国ウォンも何度か急騰する場面があったが、これらの背景はいずれも関税交渉において米国から通貨高を要請されたというものだった。ただその後台湾や韓国の政府は、基本的にその可能性を否定した。
そして先週5月21日に行われた日米財務相会談で、財務省は米国からの円高要請などはなかったと説明した。ではそれぞれの政府の説明のように、関税交渉での米国からの通貨高要請はなかったのか。それともマーケットに流れた憶測のように、台湾や韓国への米国からの通貨高要請は本当にあったのだろうか。
対米ドルで大きく上昇した円=小幅高だった台湾ドルと韓国ウォン
2025年に入ってからの対米ドルでの推移は、円と台湾ドル、韓国ウォンではかなり違う。米ドル/円は1月の158円から4月には139円まで1割以上と比較的大きく円高となった(図表1参照)。これに対して、台湾ドルと韓国ウォンの4月までの対米ドルでの最大上昇率は5%未満にとどまっていた。

ちなみに、1月の158円からの米ドルに対する円の上昇率が5%だったら、米ドル/円は150円程度との計算になる。つまり5月に入る時の台湾や韓国の立場は、日本に置き換えたら米ドル/円150円で関税交渉を迎えたということだろう。
米ドル/円が150円程度で推移している中で関税交渉を行ったら、「非関税障壁である円安が対米貿易黒字の一因のため関税率引き下げのためには円安の是正が必要」と米国側が主張した可能性はあったのではないか。ただ現実には、4月に一時139円まで米ドル安・円高となっていた。
以上からすると、対米ドルでの通貨安の是正が日本ほどではなかった台湾や韓国に対して米国からの通貨高要請があったとしてもおかしくはなかったのではないか。
米国の円高圧力は「米国売り」で変わった可能性
米ドル/円の場合も、3月に146円まで下落した後、4月にかけて一時150円まで米ドル高・円安へ戻していた。しかし、トランプ大統領の相互関税発表をきっかけに「関税ショック」が広がると、「米国売り」の様相も広がる中で上述のように一気に140円割れへ急落するところとなった。
「米国売り」が拡大する中で、ベッセント財務長官周辺は、「米ドル危機」に陥りかねないとの懸念も抱くようになった可能性があったようだ。その中で、関税交渉における相手国への通貨高圧力の位置づけも変わったのではないか。強引な通貨高圧力は、逆に「米ドル危機」の引き金を引くことになりかねない。こうした中で、日本への円高圧力は「棚上げ」することになったのではないか。
逆に言えば、「米国売り」が起こる以前の3月までは円高圧力があったのではないか。3月までに146円まで米ドル安・円高となったのは日米金利差(米ドル優位・円劣位)縮小でもたらされたものだったが、この金利差縮小を主導したのはかなり不自然な日本の金利急上昇だった(図表2参照)。それは、米国からの円高圧力を受けて、日本の通貨・金融当局が金利の高め誘導に動いた可能性を感じさせるものだ。

介入情報開示要請説の意味=通貨安誘導を懸念?
4月に入って「米国売り」が広がる中でも、円に比べて台湾ドルや韓国ウォンの米ドルに対する上昇は限られた。これを見て、米通貨当局内では、為替介入で不当に通貨高を阻止し通貨安へ誘導しているとの疑いも抱いた可能性があるのではないか。一部報道によると、米国から韓国に対して為替介入の情報開示の強化が要請されたというが、これまで見てきたことからすると辻褄が合うようにも感じられる。