台湾ドル急騰劇の背景=米ドル資産損失回避が集中か
日本の経常黒字は、2024年度に30兆円を突破し過去最高を更新した(図表1参照)。それにもかかわらず、2024年7月には一時161円まで大きく円安が広がった。これは、この経常黒字の主役である第一次所得収支の黒字の大半が、米ドル預金や株式・債券などで運用されたままになっていることから、国内に還流することで円買いが発生する割合が限られたことも一因と見られている。

このような構図は、日本に限ったことではなく、中国や台湾など対米黒字を抱えている他のアジアの国でも基本的には同じと見られている。そして上述のように、5月5日に台湾ドルが対米ドルで1日の上昇率としては1988年以来とされる急騰劇を演じた。
しかし、それはまさにそうした米ドルでの運用資産の損失回避の動き、為替リスク・ヘッジ売りや処分売りが集中した影響が大きかったとの見方もあった。そうであるなら、似たような構図の日本の場合はどうなるのか。
過去最大の第一次所得黒字=円買い拡大に注目
日本が貿易などで稼いだ資金を、国内に還流させず米ドルなどで運用している大半が、経常収支の中の第一次所得収支にカウントされていると見られているが、それは2024年度に41兆7千億円となり、前年度から1割以上増加し、過去最高を大きく更新した。こうした第一次所得黒字は、ここ数年の米ドル高傾向が続く中で、米ドル下落の為替リスクをヘッジする割合も低めになっていた可能性がある。
ちなみに、米ドル/円の過去1年の平均値、52週MA(移動平均線)は足下で151円程度である(図表2参照)。その意味では、151円より米ドル安・円高水準で推移すると、2024年度の第一次所得黒字41兆円のうち、米ドルで運用している分については為替差損が発生している可能性がありそうだ。
この先151円を超えて米ドル高・円安になるとの見通しが広がらない限り、米ドルが大きく下がる前に、為替リスク回避などを目的とした米ドル売りが増えることで、米ドルの上値を抑制する可能性があるのではないか。

トランプ政策への不信感=米ドル上値を抑制か
関税政策に象徴されるトランプ大統領の政策に対する不信感、そしてトランプ氏自身が度々発言する米ドル安志向の強さなどから、海外の投資家からすると、米ドル建て資産のリスク回避への考えを一気に高めたようだ。米ドル下落の為替リスク・ヘッジ率を引き上げることや米ドル建てポートフォリオの見直しなどに伴う米ドル売りは、この先米ドルの上値を抑える要因になっていく可能性がある。