今日は久しぶりのマネックス・メール・スペシャルです。「何か特別なことを書かなくては」とずっと悩んでいたのですが、昨晩聴いたライブの感動があまりにも強すぎるので、今日はやはりそのことを書かせて下さい。昨日の晩、東大の伊藤元重先生と私の無二の親友など、数名の音楽好き仲間で東京・青山のブルー・ノートに行きました。演奏者はハイラム・ブロックとウィル・リー、プラス若手3人のクインテットでした。ハイラムを生で観るのは約15年ぶり。確か大学生の時に小雨降る田園コロシアムで聴いたのが最後でしょう。ウィルもやはり15年ぶりぐらいでしょうか。生まれて初めての海外旅行で、ニュー・ヨークの、今はもう潰れてしまった、セブンス・アヴェニュー・サウスというとても小さなライブ・ハウスで(と言うよりは殆ど喫茶店とかスナックと言った方がいいくらいの大きさの店でしたが)誰か他のバンドの演奏を聴いていたら、彼が乱入してきて階段の手摺りの上に乗って弾いたのを覚えています。当時のウィルはそれはもう売れっ子で、レコードでもライブ・ハウスでも、どこでも彼の名前を見ないことはないと言った感じでした。彼らは既に45歳あたりでしょうが、昨日の演奏はそれはもう元気で楽しくって、そして滅法うまくて、最高のものでした。15年前と同じようにハイラムは会場を歩き回って、ワイヤレスをつけてギターを弾きまくっていました(随分太りましたが、あとは一緒です)。ウィルも相変わらず高いところが好きなようで客席のテーブルの上に乗ってかっこよくベースを弾いていました。基本的な演奏のパターンは前と同じです。とても上手な技術をさらに磨いた上で、実際の演奏はあまり理論や型にこだわらないで、おいしく、かっこよくする。2人は歌もとても上手で、漫才のように掛け合いながら、そしてかっこよく歌う。ウィルが常にハイラムに対しての脇役としての立場を節度良く保っているのも印象的でしたし、若手のドラマーにソロをさせるときの、2人の優しそうな眼差しも素敵でした。圧巻はジョー・ウォルシュのロッキー・マウンテイン・ウェイの演奏です。ジャンルにこだわらずにあの滅茶苦茶アメリカ的な歌を、会場のお客さんを全員巻き込んで熱演したのでした。彼らの演奏に酔いしれながら、私は「スタイル」のことを考えていました。2人ともきちんとしたスタイルがあります。少しずつ、常に新しい試みを取り入れることも忘れませんが、彼らのスタイルというものはくっきりと鮮明で、そしてそれを堅持しています。彼らのスタイルは、しかし独りよがりではありません。お客さんとの間合いを常にとても神経質に測って、自らのスタイルが受け容れられるように細心の注意を払い、微調整しながら、スタイルを構築しているように見えます。それでも尚鮮明なイメージのスタイルを持ち、それを実行し続ける。人を動かすにはこの「スタイル」が必要なのではないでしょうか?しっかりとコミュニュケートして受け容れられるようにし、外部からの異物ではなく、内側からの力となること。同時にいろいろなベクトルに力を発散させないで、1つの方向(スタイル)に力を集中させ、かつ倦まず弛まずそれを実行すること。慣性にうち勝って、大きなものの方向を変えて行くことは容易ではありません。マネックスも日本の資本市場のあり方、個人金融サービスのあり方をいい方向に変えたいと願っています。そのためにはやはり皆様の声を聴いて独りよがりにならないようにしながらも、スタイルはきちんと持ってそれを実行し続けることが必要でしょう。演奏とお酒に酔いながらも、また決意を新たにした夜なのでした。