共同創業者の和田晃一良と私は、2014年8月に暗号資産取引サービス「Coincheck」を立ち上げました。

オフィスは、渋谷区桜丘町の古びたマンションの一室。その狭い空間で、朝から深夜まで、コードを書き、仕組みを整え、お客様1件1件の問い合わせに対応する日々が続いていました。

当時、暗号資産の将来に確信を持つ人など、ほとんどいませんでした。世間の目は冷たく、「危ない」「怪しい」とさえ言われました。私たち自身も、「本当にこの事業を続けるべきなのか」「この市場に未来はあるのか」と、自問する日々が続いていたのです。

LinkedInの創業者、リード・ホフマンは「起業とは、崖から飛び降りながら飛行機を組み立てるようなものだ」と語っています。Coincheckの創業期は、まさにその言葉通りでした。

ベンチャーキャピタルから調達した資金は残りわずか。銀行口座の残高が一日ごとに減っていく恐怖。しかし、やるべきことは山積みで、立ち止まっている余裕などありませんでした。

目の前にあるバグを1つずつ修正し、寄せられるお客様の声に1件ずつ返信する。地味で、終わりの見えない作業。それが果たして前進なのか、後退なのかすら分からない。進んでいると思ったら、翌日は別の壁にぶつかる。そんな毎日でした。

イノベーションの初期段階に、華やかさはありません。あるのは、地道な積み上げと、試行錯誤の繰り返しです。2歩進んで1歩下がる──そのリズムの中で、わずかな光を探すように、前に進んでいました。

この状況は、およそ2年間、続きました。