先日、青学講堂で開かれたビット・バレー・アソシエーション主催のフォーラムで、伊藤穣一さん、作家の田中康夫さんとパネル・ディスカッションをしました。その時の議論の一つにNPO的な形の、例えば寄付という形の出資的行為の是非がありました。現状のベンチャー・キャピタルによる出資行為が、対象となるネット・ベンチャーのビジネス・プランや意義とかを必ずしも解さない、あくまでも金銭的リターンを狙っての行動になりがちであり、そうであれば却って寄付的な出資行為の方がより良い方向にベンチャー・ビジネス群を導くのではないかという議論です。私はこの点については違う立場をとっています。一個人、もしくは一団体による寄付的行為は(それが仮に例えば国によるものであっても)、一見美しい調和を創り出すようで、然しながらある一個(人・団体)は常に正しくはあり続けられず、やはりマーケットという仕組みの中でこそ恣意を排除して予定調和に到達できるのではないかと私は思います。今の日本のマーケットが、正常、健全、効率的に機能しているかという議論と、マーケットという仕組みの是非の議論は違う問題だと思います。マーケットの仕組みを尊重しながら、マーケット自体の運営や参加者の意識を改善することなどにより、マーケットの機能を良くして行くことが大切だと思います。
- 松本 大
- マネックスグループ株式会社 取締役会議長 兼 代表執行役会長、マネックス証券 ファウンダー
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ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社を経て、ゴールドマン・サックス証券会社に勤務。1994年、30歳で当時同社最年少ゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任。1999年、ソニー株式会社との共同出資で株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)を設立。2004年にはマネックス・ビーンズ・ホールディングス株式会社(現マネックスグループ株式会社)を設立し、以来2023年6月までCEOを務め、現在代表執行役会長。株式会社東京証券取引所の社外取締役を2008年から2013年まで務めたほか、数社の上場企業の社外取締役を歴任。現在、米マスターカードの社外取締役、Human Rights Watchの国際理事会副会長、国際文化会館の評議員も務める。