米国の大手商業銀行(※)の決算が出そろいました。利益はアナリスト予想を上回ったこと、見通しも堅調ということで、シティグループを除く全行で株価は決算後に上昇しました。主因は、投資銀行とトレーディング収益で、多くの銀行で前年比2桁増を計上するなど好調でした。M&Aの増加や、市場のボラティリティの増加が主因です。(※:JPモルガン・チェース、バンク・オブ・アメリカ、シティグループ、ウェルズ・ファーゴの4行)
ただ、こうした収益は、一過性のものも多いのが難点。むしろ、今後の米経済を占う上で重要なのは、与信費用と貸出のトレンドです。
まず与信費用については、 JPモルガンは、(昨年が低かったこともありますが)前期比+125%、シティグループは+45%の大幅増。 JPモルガンがとりわけ突出しているのは特に気になります。資本に最も余裕がある同行は、他行よりも予防的な引き当てが積みやすい状況。他行の与信費用の先行指標になる可能性もあります。
銀行の与信費用は、貸出方針にも影響をあたえます。3Qの大手4行の合計の貸出の伸び率は、わずか1%。実は少し前から、米国の銀行貸出の伸びが米企業全体の借入の伸び率を下回っています。銀行が貸出に慎重になる分、企業は、社債やファンド等からのいわゆるプライベートデットでの調達を増やしているとみられます。
こうした貸し手の多様化は、金融市場の安定化につながるというプラス面もあります。しかしもし、今後景気が減速した場合、銀行以外の貸し手は、銀行より早く撤収する可能性があります。プライベートデット等は投資家保護のためにはよいことなのですが、結果として、景気後退時にその底を深くする、プロシクリカリティ(景気変動を増幅させる)を持つとも考えられます。
米銀行貸出や与信費用の動向、さらに銀行貸出と企業の借り入れの差などは、普段あまり注目されないデータではありますが、本当に米経済の減速がないのかどうかを見極める上で、その動向には当面注目しておきたいと思います。