かつて日本の土地バブルが崩壊した頃、苗場等でディスコ施設に隣接する「ナウい」リゾートマンションが、ほぼゼロ円で売却されていたことがありました。

こうした投げ売りのエピソードは、バブル崩壊時につきもの。今デジャヴなのはアメリカの商業用不動産です。7月末、マンハッタンのオフィスビルが、2006年の取得時から97%引きで売却されたとの報道がありました。少し前には別のビルが1ドルで売却されたというニュースも市場の不安を掻き立てました。

通常、商業用不動産は、住宅から遅行して悪化する傾向があります。金利上昇等でまず住宅が下落、消費が落ち込み、企業収益を圧迫し、オフィスがやられます。典型はサブプライム危機です。しかし今回は別。背景は、急激な利上げに加えて、コロナによるリモートワークに加えて、地域によっては、治安悪化で自宅の方が安全なのでオフィスに行かないという、日本では考えにくい状況もあるようです。

となると、やや構造的な問題もありますが、一方で、金利低下が効きやすいのもこの分野。大規模不動産プロジェクトは、固定金利のプロジェクト融資が多い印象もありますが、近年の米国の不動産は、利上げを予想した貸し手側のニーズもあって、変動型ローンが多くなっています。このため、米FRBの利下げが速攻で効く可能性があります。

ただし、既にオフィス向けローンの延滞率は、7%台後半と、リーマンショック後の2011年頃の水準まで上昇してしまっています。年末から来年にかけて、ローンの借り換えも増加します。不動産価格は、直近の取引事例が参照されますので、下落が(上昇も)波及しやすい性質があります。果たして、利下げが商業用不動産市場の崩壊に間に合うのか。それともやはり「ビハインド・ザ・カーブ」なのか。利下げ効果をみる試金石として、米オフィス市場からは当面目が離せません。