5年MA、金利差、投機円売りとの関係を検証
5年MA
まずは、米ドル/円と過去5年の平均値である5年MA(移動平均線)との関係を確認してみよう。米ドル/円の5年MAは足下で125円程度。このままのペースで米ドル高・円安が進んだ場合、年末までに5年MAは127円近くまで上昇する見通しになる(図表1参照)。
170円/127円=1.338なので、170円まで米ドル高・円安が進んだ場合、5年MAかい離率は34%近くまで拡大する計算になる。1980年以降で、5年MAかい離率の最高は2015年に記録した34%(図表2参照)。これは、5年MAとの関係で見た時、「行き過ぎた米ドル高・円安」の最高記録になっているが、170円まで米ドル高・円安になるということは、その記録にほぼ並ぶという意味になる。
これをどう解釈するかは悩ましいところだ。170円まで米ドル高・円安になるということは、過去最高の「行き過ぎた米ドル高・円安」が再現するという意味の一方で、「行き過ぎ」ではあるものの、必ずしも未体験のものではなかったということだ。
日米金利差
次に日米金利差との関係で考えてみる。2023年までの米ドル/円と日米10年債利回り差の関係からすると、170円まで米ドル高・円安になるためには、日米金利差米ドル優位・円劣位は5%以上への拡大が必要という見通しになっている(図表3参照)。
日本の10年債利回りも最近は1%以上に上昇しているので、金利差米ドル優位・円劣位が5%以上に拡大するためには、米10年債利回りが6%以上に上昇することが必要になる。米10年債利回りは2023年に約16年ぶりに5%まで上昇したが、それをさらに1%以上も上回るのは普通に考えてかなり難しいのではないか(図表4参照)。
ただし、2024年に入ってから米ドル/円と日米金利差の関係は大きく崩れている。その意味では、米10年債利回りの6%以上への上昇、それに伴う日米金利差米ドル優位・円劣位の一段の拡大は、米ドル高・円安が170円を達成するための必要十分条件ではなくなっている可能性はあるだろう。
投機円売り
金利差からかい離して160円を超える米ドル高・円安を正当化してきた大きな要因は、絶対的に大幅な金利差を拠り所とした投機筋の米ドル買い・円売りの可能性があった。この関係を前提にした場合、米ドル高・円安が170円に達するためには、CFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円売り越し(米ドル買い越し)は、過去最高を大きく更新し30万枚近くまで拡大する必要があるという見通しになる(図表5参照)。では、それは実現可能なのか。
投機筋の円売り越しの過去最高は、2007年6月に記録した18.8万枚。30万枚まで円売り越しが拡大するためには、過去最高からさらに6割程度も売り越しが拡大する必要がある (図表6参照)。
この統計では、普通は円売り越しが10万枚を超えると「行き過ぎ」懸念が強くなる。従って、過去最高の18万枚の売り越しも、極端な「行き過ぎ」、つまり「バブル」と言ってよさそうな記録だった。そんな「バブル」をさらに大きく上回る売り越し拡大、普通の「行き過ぎ」の3倍の売り越し拡大が、米ドル高・円安の170円到達には必要になりそうだ。