信越化学工業はじめ、半導体関連の設備投資が加速

今回は企業の設備投資をテーマとして取り上げます。一般に景気の良し悪しのバロメーターは3つあるとされています。「消費、生産、投資」がそれです。最近は企業による設備投資が活発に動いています。

このところ上場企業からのプレスリリースや新聞報道で、工場の新設、増設が盛んに発表されています。代表的なところでは半導体業界に関連する動きが最も盛んなようです。

4月9日、化学セクター最大手の信越化学工業(4063)は群馬県伊勢崎線市に国内4つ目となる半導体製造の材料の製造工場を建設すると発表しました。同社が日本国内で製造拠点を新たに建てるのは実に56年ぶりのことです。

信越化学工業の今回の工場新設は、伊勢崎市に新たに15万平方メートルの用地を取得し、そこで半導体の回路形成に欠かせないフォトレジストなど露光材料を生産する計画です。投資額は830億円にのぼり、全額を自己資金でまかなう計画です。

信越化学工業は塩ビ樹脂では米国に世界最大の製造拠点を有しています。また、半導体の基盤となるシリコンウエハーでも世界最大の供給拠点であり、他にも世界第1位の市場シェアを持つ強力な製品群を多数有しています。株価は2024年3月に上場来高値を更新しました。

生まれは日本ですが、今や日本を飛び出して世界で活動する代表的なグローバル企業です。その信越化学工業が日本に製造拠点を新設するというニュースは、株式市場にとどまらず世界中に大きなインパクトを投げかけました。

このように、日本に向かって製造拠点が回帰する動きが強まっています。物流大手の日本通運を傘下に持つNIPPON EXPRESSホールディングス(以下、NX)(9147)は、北海道や九州・佐賀県、滋賀県、岩手県など、全国5ヶ所に物流拠点を新たに設立します。

現在、北海道ではラピダスが、九州では熊本で台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング(TSMC)[TSM]が、それぞれ大規模な半導体製造工場を建設しています。それらの稼働時期が近づいて、国内外から新しい工場群が続々と集積しています。そこで完成した製品物流を担う役割を狙って、NXは物流拠点を急激に広げる意向で動いています。

産業ガス商社の岩谷産業(8088)も半導体の生産に欠かせないヘリウムガスの供給網を増強します。シリコンウエハーに回路を形成する工程でヘリウムガスは欠かせない素材ですが、ヘリウム自体は極めて希少な元素でほぼ全量を輸入に頼っています。

日本で今後、半導体の製造が活発化するとヘリウムガスが絶対的に不足する事態が予想されます。それを避けるために輸入量の5割を取り扱っている岩谷産業は、ヘリウムガスの備蓄設備を現行の2倍を超える規模に引き上げる計画です。

このような先端テクノロジーの領域に限らず、あらゆる産業で既存の設備を増強する動きが始まっています。

日本国内で設備投資が進む理由

企業が工場やサービス拠点を新たに建設する理由は実に様々です。

半導体のように、今や最重要の戦略物資と位置づけられるようになった最先端テクノロジーを、すべて海外からの輸入に頼ることは、産業政策のみならず、防衛軍事上でもこの上なく危険なことです。その半導体の製造を、日本国内だけで完結できるような生産体制を築くことは、日本や西側自由主義諸国の安全保障にとって喫緊の課題となりました。

最先端半導体の製造は経験に基づくノウハウの固まりと言われます。技術を国外に流出させず、国内に閉じ込めるために、先端半導体工場は国内に誘致しようと各国は競って補助金、支援金を支給しています。企業サイドもその要請に応えて、矢継ぎ早に新工場の建設計画を明らかにしてきました。それが近年の設備投資の活発化となって端的に表れています。

とはいえ、そのような動きは、最先端テクノロジーの分野ばかりではありません。日常のごく身近な分野でも同様の動きは始まっています。中でも温暖化ガス削減に資する、環境性能に優れた新しい設備の導入があらゆる産業で急ピッチに進められています。

小売店向けに冷凍・冷蔵ショーケースを製造するフクシマガリレイ(6420)は、国内2ヶ所目の冷凍・冷蔵ショーケースの生産拠点を新設すると3月に発表しました。滋賀県湖南市に4万平方メートルの土地を取得して、そこに100億円を投じて工場を新設します。完成すれば2つの拠点合わせて、生産能力は現在の1.3倍となる年6万台に増えます。

新型コロナウイルスが2類から5類に分類されて1年が経過しました。それでもコロナ禍で定着したいわゆる「新常態」、人々の行動様式の変化はコロナ以前にはすぐには戻りません。物価上昇も加わって、外食を極力控えて家で食事する習慣が世の中に定着しています。

食品スーパーやコンビニエンスストア、ドラッグストアで食材を買って、自宅で調理する機会が増えており、スーパー、コンビニ各社は新規出店の意向を強めています。既存店売り場も改装して省エネ性能の高い、新しい冷凍・冷蔵庫を据えつけるようになっており、冷凍・冷蔵ショーケースで国内3割シェアを持つフクシマガリレイも増産体制を強化して、世の中の流れに応えようとしています。

同様に、日本ハム(2282)のグループ企業である日本フードパッカーは、北海道に豚肉の処理・加工のために7つ目の工場を新設しました。最新の機械設備を装着して衛生面と自動化能力を強化して、旧工場との比較で4割も処理頭数を増やしました。

パック入りご飯「サトウのごはん」で知られるサトウ食品(2923)は、新潟県の既存工場の敷地内に新しい工場を建設し、パックご飯の増産体制を整えました。ほぼ無人の工場で、人手をほとんどかけずにパックご飯を増産する意向です。

共働き世帯や単身世帯が増え、今やパックご飯はかつての非常時の「備蓄食」から日常的な「常備食」へと変わりつつあります。社会の新しいニーズが高まっており、サトウ食品は工場を新設してまでその要請に応え、増産体制を整えています。

デフレからの脱却、人材不足など設備投資への意欲が高まる背景

日経平均は34年ぶりに史上最高値を更新しました。この間の日本は「失われた30年」と言われるように、長らくデフレかつ不況の時代を過ごしました。その過程で既存設備の更新はほとんど行われておらず、気がつけば日本の製造業は老朽化した旧来の設備に取り囲まれているのが現状です。

働き手が絶対的に足りない深刻な人手不足にも直面しており、自動化・省力化を取り入れた最新のロボット設備に切り替える必要が生じています。インフレ経済に突入し、今日よりも明日の方がモノの値段が上がる、という経済環境も後押ししています。

老朽化した設備を環境性能の高い新型設備に更新する動きも加わって、あらゆる観点から設備投資のニーズが噴出しています。新冷戦下における半導体工場の新設ラッシュもその一環ととらえるべきでしょう。

ひとたび火のついた企業家の投資マインドは、そう簡単には収まることはないように感じられます。設備投資と聞くと「工場建設」が最初に思い浮かびますが、超高層ビルの都市再開発、老朽化したマンションの建て替え、橋梁の架け替え、ソフトウエア投資など、社会全般に広くとらえるべきです。

そこで、以下に設備投資に関連する今後の注目銘柄を4つ紹介します。

設備投資の加速で今後の発展が見込まれる関連銘柄4選

DMG森精機(6141)

日本を代表する工作機械のトップメーカー。日本だけでなく、今や世界88ヶ国に113ヶ所の拠点を有し、製品を販売した後のサービス体制に力を入れる。機械と機械がネットを経由して繋がる「IoT」に早くから軸足を移し、最先端の5軸複合加工機などの提供に加えて、周辺装置やソフトウエアを含めた統合システムを全世界に供給する体制を整える。自らも三重県伊賀市に新工場を建設。小型・省力化の工作機械を世に送り出す。

【図表1】DMG森精機(6141)の週足チャート
出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年5月10日時点)

ユアサ商事(8074)

1666年に創業の老舗の工作機械商社。2026年には創業360年を迎える。切削工具、制御機器、測定機器からマテハンまで幅広く取り扱い、住設、管財、空調、エクステリア、建設機械までカバーする。中でも工作機械の取扱高は国内最大手。商社という立ち位置を活かして、単に製品を単体で提供するだけでなく、コンサルティングを重視し顧客の製造ライン全体の効率化、改善を提案する姿勢が高く評価される。前期に続いて今期も最高益更新の見通し(2024年3月期の決算発表は5月10日の予定)。

【図表2】ユアサ商事(8074)の週足チャート
出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年5月10日時点)

大和冷機工業(6459)

業務用の冷凍・冷蔵庫大手。省エネ型製品に力を入れており、製品ラインナップは1,300種類を超える。また「技術のダイワ」の訴求に力を入れており、自社で開発したトリプルインバーター冷蔵庫「エコ蔵くん」は自社従来機種との比較で8割近い電気代の削減を実現した。独特の提案力により、居酒屋、和洋菓子店、食料品店、生花店、酒販店、喫茶・カフェなど多くのクライアントで繁盛店を生み出している。無借金経営を貫き今期も最高益更新の見通し(2024年3月期の決算発表は5月14日の予定)。

【図表3】大和冷機工業(6459)の週足チャート
出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年5月10日時点)

エクシオグループ(1951)

NTT向けを中心とする電気通信工事の大手。主力の通信工事は5G後の一巡感が残るが、それに代わる事業として新たに電柱地中化などインフラ工事や企業向けIT関連工事が成長。データセンター向けの受注も急速に伸びる。洋上風力発電、太陽光発電、ビル空調、省エネビルへのリニューアル工事、ごみ焼却炉の熱エネルギー回収など、クライアントの省エネ投資を支える総合エンジニアリング企業へと脱皮を図る。

【図表4】エクシオグループ(1951)の週足チャート
出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年5月10日時点)