◆元禄2年3月27日、松尾芭蕉は深川六間堀の庵を出て奥州へ向かう。千住大橋で、見送りの弟子たちに矢立の句を贈った。
行く春や鳥啼き魚の目は泪
「奥の細道」の旅立ちである。
◆ある詩人の詩を、「これは詩ではない」と言った。昨日の小欄の続きである。「これが詩でないとすれば、あなたの詩の定義は何か」と問われて言葉に詰まった。詩とはなんだろう。数多ある詩論を紐解き、思いつく限り「定義の候補」を並べても空しいだけだ。詩とは何か。自分の心に問い、自分の言葉で答えなければ意味がない。僕の答えは - 詩は抒情である。感情の吐露である。そう考えれば、写真も絵画も舞踏も、およそすべての芸術表現は抒情である。抑制の程度に差があるだけだ。
◆日本株相場は今日から実質新年度入り。目先は日経平均2万円、そしてさらにその先の高値を目指していく年の始まりである。昨日も触れた高村光太郎のあまりにも有名な「道程」の一節を引こう。
僕の前に道はない/僕の後に道はできる
欧米の株式市場のように、早く日本株相場も、そう言える日が来ることを願う。いずれにせよ、春は旅立ちの季節。新しいステージに切り替わる季節とも言える。
◆だから春休みは特別な休みである。夏休みも冬休みも休みが終われば、また同じ友に会える。しかし、春休みはそうではない。【新潮流】第189回「卒業」で、いちばん好きな卒業の歌は、ユーミンの『卒業写真』だと書いたが、もうひとつ、『最後の春休み』も好きである。春休みの学校に忘れたものを取りに行った。忘れ物ではない。「忘れたもの」である。このリリシズム。ジャンル分けが歌謡曲だろうがポップスだろうが、これは僕のなかでは「詩」である。
◆夏休みは「Summer Vacation」、冬休みは「Winter Holidays」、そして春休みは「Spring Break」。Breakである。欧米では小休止の意味だが、新年度が春から始まる日本では違った意味になる。春から、もう制服を着ないひとがいるように、日本株の相場も一歩階段を上がり別次元のものとなるだろう。その意味の「Break」だ。だから春休みは特別なのである。
来週、1週間、春休みのため【新潮流】は休載します。
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆