昨晩、IMF(国際通貨基金)が世界の経済見通しを更新しました。世界の経済成長率はやや強気化した程度だったのですが、なんといっても目立ったのが、米国の成長率予想の引き上げです。
前回1月時点の今年の米経済成長の見通しは2.1%だったのが、今回、2.7%まで一気に引き上げられました。好景気に沸いた2023年の成長(2.5%)を上回るレベルですから、昨年までの大幅利上げが、景気抑制にはあまり効いていないということになります。因みに、先日発表された米国のGDPナウも、現在のエコノミスト・コンセンサスを上回る強さを示すものでした。
強さの要因としては、移民の増加や想定以上の個人消費等、いろいろ挙げられています。一部では、バイデン大統領がこれまで打ってきたCHIPS法等の政策の効果が出てきた、という見方もあります。結局、金融を引き締めても財政は引き締め切れていなかったので、景気の持ちがよいという面もあるかもしれません。
では日本への影響はどうでしょう。こうした経済予想が現実になれば、米国の利下げは9月か、それより後ろ倒しになる可能性もあるでしょう。為替については、日銀の動きにもよりますが、やはり円安は止まりにくいのではと思います。
では、円安なら日本株にはプラスか、というとそうでもありません。この数日間の動きにも表れている通り、円安が株高には直結しなくなっています。そもそも、この数年の日経平均株価の円安効果は過大評価されているかもしれません。構成銘柄の株価とドル円の相関を2000年以降で調べてみると、大半の業種でプラスなのですがEPS成長率との相関はほとんど有意ではありません。つまり、円安だと、利益成長以上に株価が上昇してきたように見えます。ましてこのレベルの円安だと、原材料費の高騰や、インフレ高止まりによる国内消費への影響が懸念材料となります。
地政学リスクも高まっており、まだまだ米国経済には変動がありそうですが、しばらくはマクロ環境をしっかり見ておく必要がありそうです。
- 大槻 奈那
- ピクテ・ジャパン株式会社 シニアフェロー
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内外の金融機関、格付機関にて金融に関する調査研究に従事。Institutional Investors誌によるグローバル・アナリストランキングの銀行部門にて2014年第一位を始め上位。政府のデジタル臨時行政調査会、財政制度等審議会委員、規制改革推進会議議長、中小企業庁金融小委員会委員、ロンドン証券取引所グループ(LSEG)のアドバイザー等を勤める。日本経済新聞「十字路」、日経ヴェリタス「プロの羅針盤」、ロイター為替フォーラム等で連載。日経Think!エキスパート・コメンテーター、テレビ東京「モーニングサテライト」で解説。名古屋商科大学大学院 マネジメント研究科教授 東京大学文学部卒、ロンドンビジネススクールMBA、一橋大学博士(経営学)
著書:
『本当にわかる債券と金利』(日本実業出版社)、
『1000円からできるお金のふやし方』 (ワニブックス)
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