小型月着実証機「SLIM」が1月に月面着陸に成功

2024年は日本にとって「宇宙開発元年」と称される年になる可能性が大きい。JAXA(宇宙航空研究開発機構)が打ち上げていた小型月着実証機「SLIM(スリム)」が、2024年1月20日に月面着陸に成功した。JAXAが開発した月探査機であるSLIMは、独自の画像処理技術を駆使して、月面の狙った場所に、誤差100メートル以内の高い精度でピンポイントに着陸した。月面着陸成功は、米、旧ソ連、中国、インドに次いで5ヶ国目となる。従来は1キロメートル以上の幅での着陸だった点から、日本の技術力が実証されたことになる。

2023年も期待がかかっていたが、失敗が相次いだ。2023年3月、JAXAの次世代「H3」ロケットの初号機が打ち上げられたものの、2段ロケットに着火せずに失敗。民間の宇宙開発ベンチャー企業であるispace(9348)は、月面まであと一歩のところまで迫りながら着地に失敗している。7月にはJAXAの次世代小型固体燃料ロケット「イプシロンS」が燃焼試験中に爆発を起こした。なお、旧モデルの「イプシロン」6号機は2022年10月に打ち上げが失敗している。

JAXAは「2024年度中」としていた「イプシロンS」初号機の打ち上げ時期を、爆発を受けて「2024年度下期」に修正し、来年度中には実現する見通し。ベトナムの宇宙観測衛星を載せる予定としている。イプシロンSは日本の主力ロケットの一つで、JAXAとIHIエアロスペースが開発している。前モデルのイプシロンに比べて打ち上げ能力が向上し、従来に比べ200キロほど高い、高さ700キロメートル付近まで人工衛星を運ぶことができるという。

「H3」ロケットの再打ち上げや民間ベンチャーispaceのミッション2も

次の期待は「H3」だ。「H3」ロケットは2024年2月15日に再打ち上げを予定している。H3は次世代の大型基幹ロケットで、H2Aの後継機として開発されている。日本が宇宙への輸送手段で優位性を示すもので、毎年6機程度を打ち上げ産業基盤を維持することを目指す。低価格や高信頼性に加え、迅速に打ち上げるという柔軟性も狙いだ。衛星のロケット搭載など射場整備期間はH2Aの半分以下に短縮される。

さらに、ispaceは2023年に続く民間月面探査プログラム「HAKUTO-R」のミッション2を2024年冬に行う予定となっている。ミッション1で得た成果を踏まえた月着陸船(ランダー)の設計・技術、月面輸送サービスおよび月面データサービスの提供という事業モデルのさらなる検証と強化を目的としている。前回と同様の運搬で、成功確率が高く、打ち上げ費用は前回よりも大幅に安く済むという。なお、より大型の荷物を運ぶミッション3 は当初よりも1年遅れの2026年に実施される計画だ。
 
また、2024年はスペースデブリ(宇宙ゴミ)除去サービスの開発に取り組む世界初の民間企業アストロスケールのIPO(株式の新規公開)が観測されている。スペースデブリは役割を終えた人工衛星や打ち上げロケットの上段などから発生するが、気象衛星などがデブリに衝突した場合、壊滅的な被害になる恐れがある。同社が2021年3月に打ち上げた技術実証衛星「ELSA-d」(エルサディー)は、デブリ除去に必要なコア技術の実証に成功したという。

米国が主導する月探査計画「アルテミス」では、日本人宇宙飛行士2名が月面での活動に参加する方向で最終調整。計画は当初の2025年12月から延期されたが、2026年9月に宇宙飛行士の月面着陸を目指す。成功すれば1972年のアポロ17号以来約半世紀ぶりとなる。日本はトヨタ自動車(7203)などが開発している月面探査車を活用して技術面で協力する予定である。

今後の動向が気になる宇宙関連銘柄

ここからは、SLIMやH3に関連する企業ほか、宇宙関連銘柄をピックアップする。

SLIM関連
・三菱重工業(7011)、京セラ(6971) メーンエンジン(エンジンにセラミック燃焼器を使用)
・IHI(7013) IHIエアロスペースがスラスター(姿勢制御)担当
・三菱電機(6503) 着陸レーダー
・シャープ(6753) 薄膜太陽電池
・古河電池(6937) ステンレス箔のラミネート電池
・セック(3741)  リアルタイムソフトウエア技術でSLIMをサポート。これは人を介さないソフト技術で、故障の原因などをあらかじめ予測し対応することができる。
・タカラトミー(7867) 同社とJAXAなどが共同開発した超小型の変形型月面ロボット「SORA-Q」(ソラキュー)」が今回月面に到達。内蔵カメラで見事にSLIMを撮影。

「H3」関連
 ・三菱重工業(7011) エンジン、ロケット射点設備など
 ・IHI(7013) 液体酸素、液体水素ターボポンプ、固体ロケットブースター
 ・日本航空電子工業(6807) ロケット用慣性センサユニットなど

その他宇宙関連銘柄

セック(3741)

リアルタイムソフトウエア技術に強み。これは人手を介さないソフトで、あらかじめトラブルなどを予測して対処する。

【図表1】週足チャート
出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年2月1日時点)

QPS研究所(5595)

九州大学発の人工衛星ベンチャー企業。SAR(合成開口レーダー)技術搭載の小型衛星の開発・製造している。一般的な光学レーダーは雨や曇りでは見えにくいが、SARなら可能。気象や災害などの用途に期待されている。

【図表2】週足チャート
出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年2月1日時点)

ジェノバ(5570) 

高精度な位置情報サービスを展開。米国のGPSをはじめ全ての衛星システムに対応。建設現場のICTやIT農業、ドローン点検などにも期待感あり。

【図表3】週足チャート
出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年2月1日時点)

Ridge-i(リッジアイ)(5572) 

AI活用コンサルを行う。環境・安全保障関連の人工衛星データ解析も手掛けている。

【図表4】週足チャート
出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年2月1日時点)

日揮ホールディングス(1963)

2023年12月に月面で水素を製造する実証プラントの建設に向け検討開始と発表。これはJAXAからの受託で、レゴリス(月の砂)から取り出した水を電気分解し、水素と酸素を作るというもの。

【図表5】週足チャート
出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年2月1日時点)