ゲーム業界首位を誇るプラットフォーマー、任天堂とソニー
今回はゲーム業界関連銘柄について解説したいと思います。
まず結論として、プラットフォームとしてのゲーム機ハードは販売金額、販売台数ともに任天堂(7974)が圧倒的な存在として君臨しています。2022年、任天堂は1社で年間のゲームソフト販売本数が1000万本を上回り、市場全体の2割以上のシェアを獲得しています。しかもハード、ソフトともに前年から拡大させています。
これは「Nintendo Switch」という2017年に発売した大ヒットゲーム機によってもたらされています。とはいえ、圧勝を誇った「Switch」も、プロダクトのライフサイクルとしてはそろそろ終盤に差し掛かっています。今後は縮小に向かうとの見方が強いため、次世代機の開発が待たれるところです。
また、対抗するソニー・インタラクティブエンタテインメント(ソニーグループ(6758))の「PlayStation5」は、2020年末に発売した直後の足踏みがようやく改善しつつあります。この大きなタイムロスをどこまで吸収していくのか。「PlayStation4」との世代交代が今も課題として突き付けられています。
拡大傾向にある、日本におけるゲームユーザーの実態
ゲーム業界を代表する「一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)」が行った「2023一般生活者調査報告書~日本ゲームユーザー&非ユーザー調査~」によれば、2022年の一般家庭における家庭用ゲーム機の保有状況は、家庭での保有率が52.7%、そのうち個人の保有率が33.6%となっています(有効回数2,520サンプルの抽出調査に基づいて実人口に換算した推計値。調査実施日は2023年1月24日)。
ここでいう「家庭用ゲーム機」とは「Wii U、Nintendo Switch、Nintendo Switch Lite、ニンテンドー3DS、PlayStation4、PlayStation5、PlayStation Vita、Xbox One、Xbox XIS、その他」を指します。
日本では家庭の半数がゲーム機を保有し、個人では人口の3人に1人が所有していることになります。そうなると家庭用ゲーム機の所有者は全国で5792万人にのぼり、アクティブユーザーは3951万人、継続プレーヤーは1886万人に達すると推計されます(アクティブユーザーとは「家庭用ゲーム機をプレイすることがある人たち」を指し、継続プレーヤーとは「家庭用ゲームを継続的にプレイしている人たち」のことを意味します)。
所有する家庭用ゲーム機とそのプレイ状況は、圧倒的に多かったのが「Nintendo Switch」で、家庭での保有率は32.8%、プレイ率は22.8%でした。
それに続くのが「ニンテンドー3DS」で家庭での保有率は26.9%、プレイ率は10.2%です。さらにその次が「PlayStation4」で家庭の保有率は15.2%、プレイ率は6.6%となっています。
「PlayStation5」は出だしの供給不足が尾を引き、家庭での保有率は4.4%、プレイ率も2.4%にとどまっています。マイクロソフト[MSFT]の「Xbox One」は保有率が0.4%、プレイ率も0.1%に過ぎません。
ゲームの遊び方としては、「有料のパッケージソフトをお店や通販で購入して遊ぶゲーム」が64.5%でトップです。次に「有料のダウンロードソフトを購入して遊ぶゲーム」が41.5%で続き、「基本プレイ無料+ゲーム内課金制のゲーム」が30.8%、「完全無料のゲーム」が25.8%、です。
ゲームに使う1ヶ月あたりの金額(平均)は、「ゼロ円」が56.1%で最も多く、次いで「5,000円以上」が25.0%、「5,000円未満」が21.7%、「1,000円未満」が4.5%となります。
1年間に購入したゲームソフトの数(2022年)は、「ゼロ本」が26.4%でトップ、次が「5本以上」が19.6%、「1本」が18.7%、「2本」が18.1%、「3本」が12.9%です。
家庭用ゲームを週に何日くらいプレイするか(単数回答)との問いに、「ほとんど毎日」と答えた人が39.3%でトップ。次いで「週に2~3日」が24.8%、「週に4~5日」が18.5%、「週に1日」が9.4%、となっています。
好きなゲームのジャンル(複数回答)は、「ロールプレイング」が40.7%、「アクション」が33.4%、「アドベンチャー」が27.5%、「育成・目標達成シミュレーション」が27.5%、「パズル」が22.4%、ということです。
コロナ禍前と後、ゲーム業界を取り巻く世界はどう変わったのか
2020年に新型コロナウイルスが世界中に蔓延し、ゲーム業界は大きな変化を余儀なくされました。そこで、その前後5年間の動きを振り返りましょう。
2017年:3月発売のNintendo Switchが大ヒットし、家庭用ゲーム機の長く続いた縮小傾向がようやく底打ち
2000年代後半に携帯ゲーム機「ニンテンドーDS」の大ヒットがあり、それが勢いを失ったのが2017年です。スマートフォンの登場が家庭用ゲーム機の退潮に拍車をかけることとなりました。消費者の余暇時間をゲーム機とスマホが奪い合って、ゲーム業界はスマホの後塵を拝することとなり、市場が急速に縮小した時期です。
そこに登場したのが「Nintendo Switch」です。2017年3月に発売されて大ヒットとなり、この年は年末までに販売台数が331万台に達しました。「Switch」の成功は、発売当初の『ゼルダの伝説 プレスオブワイルド』から年末の『スーパーマリオ オデッセイ』まで、途切れることなく話題を集める人気ゲームソフトを投入し続けた点にあるとされています。
「Switch」は前世代の「Wii U」を大幅に上回るペースで普及し、メーカーの発売予測をはるかに上回る人気を博して、ハードの供給が需要にまったく追いつかないという機会損失まで見られました。2017年という年は「Switch」がカンフル剤となって、家庭用ゲーム市場が10年ぶりに前年実績を上回り、長く続いた縮小傾向がようやく底打ちした年となったのです。
しかし、「Switch」を除けば、「ニンテンドー3DS」や「プレイステーションVita」などの携帯ハード市場は、スマホのゲームアプリに押されて縮小の一途をたどっています。
2018年:「Switch」はソフト・ハードともに縮小へ、携帯ハード機にとっては厳しい年
「Switch」が2年目を迎えた2018年。「Switch」自体は350万台以上を販売して、ハード全体の6割を占めるほどの好調を持続していますが、「PS4」が1割減となって足を引っ張りました。前年に続く市場拡大とはならずに、ソフト・ハードともに早くも縮小の年を迎えたのです。
とりわけスマホのアプリゲームに浸食されている携帯ハード機は厳しい状況です。「PlayStation Vita」は前年比で半減、「ニンテンドー3DS」も前年の166万台から53万台へ3分の1に縮小しています。この年は携帯ハード機だけで前年比▲130万台ものマイナスとなりました。2000年代の記録的な「DSブーム」で家庭用ゲーム市場の中心を担った携帯ハード機も、今や販売台数を維持するだけでも難しい状況に陥っています。
2019年:退潮トレンド漂うゲーム市場、任天堂も市場シェアを5ポイント以上落とす
この厳しい状況は2019年も続きます。依然として「Switch」は好調ですが、スマホや動画視聴に押されてゲーム市場そのものが退潮トレンドに入っていることが明らかになりました。
ソフト全体の95%を「Switch」と「PS4」が占めている状況で、「Switch」が前年比+21.5%と大きく伸びているのに対して、「PS4」は▲15%と前年を大幅に割り込んでいます。発売から5年目を迎えた「PS4」のライフサイクルが終盤を迎えつつあり、世代交代が待ち望まれています。
市場の牽引役に踊り出た「Switch」も、販売台数の伸びは「3DS」の減少を補うだけにとどまっており、ゲーム市場全体の縮小を食い止めるには至りません。任天堂も市場シェアが5ポイント以上落ちました。
テレビゲーム市場全体としてこの時期は、新型ハードとして期待された「PS5」の早期の立ち上げに全面的な期待を寄せていました。
2020年:コロナ禍の「巣ごもり需要」で状況一変、『あつまれ どうぶつの森』が大ヒット
そのような状況で迎えたのが2020年です。春先の新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が人々に外出禁止、行動抑制を強いることとなりました。学校は休校、職場ではリモートワークが推奨され、世界中の人々が自宅にこもることでいわゆる「巣ごもり需要」が突如として発生しました。
外出を伴わない娯楽産業であるテレビゲーム市場は、これまで経験したことのない需要拡大を迎えたのです。業界全体に強い追い風が吹いた1年となりました。
しかし、状況が状況だけに、ゲーム業界にありがちなヒットが生まれた時の「イケイケムード」はまったくありませんでした。静かに業界全体でニーズが拡大したというのがこの時の状況です。
注目を集めたのが2020年3月に発売された『あつまれ どうぶつの森』です。この年の販売本数は643万本を記録しました。それまでの「Switch」向けタイトルの歴代トップは『大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL』の累計400万本超です。その最高記録を200万本以上も上回ったのです。このタイトル1つで、この年のすべてのソフト販売の2割を占めました。
『あつまれ どうぶつの森』は対戦するのでも競い合うのでもなく、ただゆるく触っているだけでゲームに参加できるという、それまでの分類ではゲームと言えないようなゲームです。コロナで外出がままならない状況で、人々のコミュニケーションツールとして人気を集めました。
久しくゲームから離れていたかつての任天堂ファンをもゲームに呼び戻す効果もあって、ソフト、ハードともに「Switch」が圧倒的なシェアを獲得するに至ったのです。この年、任天堂のソフト販売本数は1500万本に達し、前年の2倍近くまで拡大しました。
一方で、この年の年末に発売された「PS5」は、メーカーからの供給が僅少だったこともあって、期待されたほどの盛り上がりには至りませんでした。翌2021年も「巣ごもり需要」の反動と、コロナ危機による半導体不足という外部制約が重なってハードの供給が安定しませんでした。これがゲーム市場全体として再びマイナス成長に陥る契機となっています。
「Switch」に限れば上位機種の「有機ELモデル」が発売され、3ヶ月で90万台を販売して好調を維持しました。「Switch」全体でも年間500万台を販売したのですが、前年の「巣ごもり特需」は越えられず、前年比▲130万台近いマイナスとなりました。
それでも「Switch」はシェアをわずかに落としたものの、依然として市場全体の8割以上を占めていました。「PS5」はようやくメーカーの供給体制が整って、「PS4」からの移行が進むようになり、年間では100万台を販売しました。シェアも10%台半ばまで回復しました。
ソフトでは「Switch」が200万本を越えるヒットを複数出しましたが、前年に600万本を超えた『あつまれ どうぶつの森』は越えられず、前年比▲150万本以上の減少となりました。
2022年:「Switch」の1人勝ちに陰りが見えるも、「ポケモン」シリーズや『スプラトゥーン3』などソフト面でヒット連発
そして2022年。依然として「Switch」の1人勝ちの状態が続いていました。
テレビゲーム市場は新品ソフト、ハード、中古ソフトとハードを加えた全体で4386億円、前年比+2.2%になったと見られています。内訳は、新品ソフトが1863億円(+6.3%)、新品ハードが2053億円(+2.0%)、中古ソフトが318億円(▲17.0%)、中古ハードが151億円(+5.3%)です。
その「Switch」も2017年の発売から5年が経過して、さすがに陰りが見えてきました。「Switch」の販売台数は前年から▲75万台も減少しました。「PS5」は年間では前年比プラスを維持しているものの、「PS4」からの世代交代が進まない状況が続いていました。
ソフトでは「ポケモン」シリーズの新タイトル(2022年1月に『Pokemon LEGENDS アルセウス』、同11月に『ポケットモンスター スカーレット/バイオレット』)が発売されました。販売本数は前者が236万本、後者が461万本、ともに大ヒットを記録しました。特に後者は「Switch」向けの「ポケモン」タイトルとしては過去最高の販売本数を記録しました。
2022年9月には『スプラトゥーン3』が発売され、こちらも384万本のヒットとなりました。「Switch」向けには他にも『星のカービィ ディスカバリー』、『Nintendo Switch Sports』などミリオンタイトルが続出し、2022年も「Switch」ばかりがヒットを飛ばした年となりました。
ここで、ゲーム業界における2022年の販売額を下記にまとめました。
ハード販売額・構成比(2022年)
任天堂:1390億円(67.7%)
SIE:619億円(30.1%)
マイクロソフト:44億円(2.1%)
(SIE:ソニー・インタラクティブエンタテインメント)
新品ソフトの年間販売額(2022年)
任天堂:661億円(シェア:35.5%)
ポケモン:442億円(23.8%)
スクウェア・エニックス:135億円(7.3%)
バンダイナムコエンターテインメント:74億円(4.0%)
SIE:65億円(3.5%)
コナミ:58億円(3.1%)
コーエーテクモゲームス:43億円(2.3%)
カプコン:41億円(2.2%)
マイクロソフト:25億円(1.4%)
企業別の新品ソフトの年間販売額(2022年)
任天堂(8タイトル発売、1101万本)
(1)スプラトゥーン3:384万本(2022年9月発売)
(2)星のカービィ ディスカバリー:113万本(2022年3月)
(3)Nintendo Switch Sports:102万本(2022年4月)
(4)マリオカートデラックス:81万本(2017年4月)
(5)大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL:49万本(2018年12月)
ポケモン(4タイトル発売、672万本)
(1)Pokemon LEGENDSアルセウス:236万本(2022年1月発売)
(2)ポケットモンスターバイオレット:204万本(2022年11月)
(3)ポケットモンスター スカーレット:126万本(2022年11月)
(4)ポケットモンスター スカーレット/バイオレットダブルパック:65万本(2022年11月)
(5)ポケットモンスターブリリアントダイヤモンド:11万本(2021年11月)
スクウェア・エニックス(36タイトル発売、197万本)
(1)ドラゴンクエスト X目覚めし五つの種族:27万本(2022年9月発売)
(2)ドラゴンクエスト トレジャーズ 蒼き瞳と大空の羅針盤:22万本(2022年12月)
(3)トライアングルストラテジー:13万本(2022年3月)
バンダイナムコエンターテインメント(28タイトル発売、119万本)
(1)太鼓の達人 ドンダフルフェスティバル:13万本(2022年9月発売)
(2)釣りスピリッツ 釣って遊べる水族館:9万本(2022年10月)
(3)太鼓の達人 Nintendo Switchば~じょん!:9万本(2018年7月)
SIE(10タイトル発売、92万本)
(1)グランツーリスモ7(PS5):23万本(2022年3月発売)
(2)Horizon Forbidden West:15万本(2022年2月)
(3)グランツーリスモ7(PS4):12万本(2022年3月)
KONAMI(3タイトル発売、84万本)
(1)eBASEBALLパワフルプロ野球2022:31万本(2022年4月発売)
(2)桃太郎電鉄 ~昭和平成令和も定番!~:21万本(2020年11月)
(3)eBASEBALLパワフルプロ野球2022(PS4):14万本(2022年4月発売)
マイクロソフト(0タイトル発売、68万本)
(1)Minecraft:61万本(2018年6月発売)
(2)Minecraft Dungeons Ultimate Edition:7万本(2021年10月発売)
カプコン(12タイトル発売、62万本)
(1)モンスターハンターライズ:サンブレイク:30万本(2022年6月発売)
(2)モンスターハンターライズ:9万本(2021年12月発売)
(3)バイオハザード トリプル パック:2万本(2019年10月発売)
コーエーテクモゲームス(10タイトル発売、56万本)
(1)ファイアーエンブレム無双 風化雪月:14万本(2022年6月発売)
(2)信長の野望・新生:5万本(2022年7月発売)
(3)太閤立志伝V DX:4万本(2022年5月発売)
将来の安定的な事業拡大に期待したいゲーム関連銘柄
では、ゲーム業界を牽引する関連企業銘柄を紹介します。
任天堂(7974)
世界の「Nintendo」、家庭用ゲームの王者。1983年に発売した「ファミコン」で一世を風靡し家庭用ゲームでの地位を確固たるものとした。ソニーの「PlayStation」に追い上げられる時期もあったが、携帯ゲーム機「ニンテンドーDS」や据置型ゲーム機「Wii」と、新しい市場を開拓してヒットを飛ばし、主役の座を確立した。スーパーマリオブラザーズやポケモンといった人気キャラクターも生み出す。最新の「Nintendo Switch」も世界的なヒットとなり後継機が待たれる。
ソニーグループ(6758)
日本を代表するエレクトロニクスメーカー。今では祖業の電気機器ばかりでなく、ゲーム、映画、音楽、金融、半導体など、事業領域は多岐にわたる。1994年に初代「PlayStation」を発売。「ファミコン」のヒット以来、任天堂が独占していたゲーム機市場でトップシェアを奪った唯一の存在である。2000年にDVDをメディアとした「PlayStation2」、2006年にブルーレイ・ディスクを採用した「PlayStation3」、2013年にVR(ヴァーチャル)ゲーム対応の「PlayStation4」、2020年にVRゲームへの没入感を高めた「PlayStation5」を発売。いずれも世界的なヒットとなっている。
スクウェア・エニックス・ホールディングス(9684)
2003年にスクウェアとエニックスが合併して誕生。エニックスのゲーム『ドラゴンクエスト』は日本で初めて制作されたオリジナルタイトルのロールプレイングゲームとして知られている。1986年に発売されて以来、現在は2017年にシリーズ第11作がリリースされた。累計出荷本数は8300万本(2021年時点)に達する。スクウェアの『ファイナルファンタジー』は1987年に発売され、独特のファンタジーな世界観が高い評価を得た。2023年にシリーズ第16作目がリリースされ累計出荷本数は1億6400万本(2021年時点)にもなる。
参考文献:
「一般生活者調査報告書~日本ゲームユーザー&ユーザー調査~」(2023年、CESA)
『日本デジタルゲーム産業史』(2020年、人文書院)