円高を材料に日本株は続落

円高を材料に日本株が下げている。為替市場というのは投機の場だから、とやかく言うつもりはないが、一時141円まで突っ込んだのが、日銀の植田総裁の「年末から来年にかけて一段とチャレンジングになると思っている」という発言が材料だというのだから、呆れてしまう。一部の報道に、コンピューター・プログラムの多くは植田氏の「チャレンジング」というコメントを十分には咀嚼できなかったとあったが、実際その通りなのだろう。「マイナス金利解除へ」と市場が捉えても無理はない。今週月曜日にあった日銀の多角的レビューの有識者による初めてのワークショップ、続いて氷見野良三副総裁が金利上昇が家計に金利収入をもたらす可能性に言及、そして植田総裁による参議院の財政金融委員会でのこの発言とくれば、まあ、こういう流れにもなるだろう。しかし、おおもとのところは、マイナス金利解除でもゼロ金利になるだけだろう。So what? ではないか。まあ、いい。為替市場というのは投機の場だから、そんな理屈を言っても仕方ない。

理屈が通用しないなら、テクニカルは有効か?141円まで突っ込んだところで急速に戻ったが、「200日移動平均線にワンタッチしたから」との見方がある。

【ドル/円チャートとドル/円の200日移動平均線(2022年12月~2023年12月)】
出所:Bloomeberg

200日移動平均線は3月、5月の上昇時には上値抵抗になり、7月の急落時には下値支持になった。今回もここで支えられる可能性はあるが、あまり期待はできない。

【ドル/円チャートとドル/円の200日移動平均線(2021年4月~2022年12月)】
出所:Bloomeberg

このグラフはちょうど1年前のものだ。今と同じに年末にかけて急速に円高に巻き戻ったが、いったんは200日移動平均線で止まる。しかし、200日移動平均線がサポートになったのは、ほんのわずかの間ですぐにブレークされ、下値を探った。底を入れたのは年明け1月の半ばであった。

【ドル/円チャートとドル/円の200日移動平均線(2021年4月~2023年3月)】
出所:Bloomeberg

急速な円高への巻き戻しに見られる要因

円高への巻き戻しは2022年の秋から年末年始にかけても見られたことから、背景にあるのは投機筋の年末を控えてのポジションの手仕舞いである。日米金利差縮小云々というのは、彼らの取引を促す材料(カタリスト)であって、為替レートの決定要因ではない(この話は長くなるので別の機会に)。

2022年は投機筋のポジション調整は大掛かりなものになり、2023年1月過ぎまで続いたし、ドル/円の下落も130円割れまでいった。

【ドル/円(青)と投機筋のポジション(白)(2021年11月~2023年11月)】
出所:Bloomeberg

今回はそこまでいかないだろう。

200日移動平均線程度のテクニカルでは効かないが、一目均衡表の週足の雲は強力なサポートになる。140円割れには雲の上旬があり、まずは140円が大きな抵抗ラインとなるだろう。

【ドル/円チャートと一目均衡表(2018年12月~2023年12月)】
出所:Bloomeberg

金利差云々で相場が反転するとすればFOMC(米連邦公開市場委員会)で市場の早期利下げ期待が裏切られること。市場は来年1%超の利下げを織り込んでおり、明らかに行き過ぎである。

出所:Bloomeberg

来週のFOMCにおける市場のリアクションを考えよう。二者択一である。

ケース1)FOMCで大幅な利下げが示唆される
ケース2)FOMCではそれほど大きな利下げが示唆されない

ケース1)の場合、市場はどう反応するか?すでに織り込み済みだから、大きくは反応しないと考えるのが普通だろう。ケース2)はどうか?市場の期待が裏切られるのだからネガティブな反応になるのが普通だろう。

そう考えれば、ドル/円はドルが買い戻される可能性がじゅうぶんある。

日本株とドル円相場の関係

日本株はそもそもドル/円とは関係ない。論より証拠、グラフをご覧ください。2022年、ドル/円が150円に向かって一本調子に円安で動いたとき、日経平均はまったくの横ばいだった(グラフの「1」のエリア)。今年の6月~7月に株価が高値を付けた時、円相場はいまより円高だった。その後、円安が進む中でも株価は全く連動せず、10月にダブルボトムをつけている(グラフの「2」のエリア)。

足元で、とってつけたような円高理由の株の弱気論は、いつもの気迷い事と聞き流すに限る。

【ドル/円(青)と日経平均株価(白)、(2021年12月~2023年12月)】
出所:Bloomeberg