円安への影響も懸念か=円金利上昇阻止

日本の長期金利、10年債利回りが一時0.8%を大きく上回ったが、これは米10年債利回りの上昇に連れた面が大きそうだ(図表1参照)。日銀の植田総裁は、10年債利回りの上限の柔軟化を決めた7月28日の金融政策決定会合終了後の記者会見で、「長期金利が 1%まで上昇することは想定していない」と語っていた。その意味では、米10年債利回りの上昇の影響により、植田総裁にとってはむしろ想定以上の日本の金利上昇になった可能性もあったのではないか。

【図表1】日米の10年債利回りの推移(2023年6月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

もともと、日本の10年債利回りは米10年債利回りの影響を強く受けるものであり、日銀ももちろんそれは十分理解していたと考えられる。2022年12月に、当時の黒田総裁の下で日銀は10年債利回りの上限を0.25%から0.5%へ拡大することを決めたが、当時は米10年債利回りがピークアウトし、低下傾向となっていた局面だった。米10年債利回りの上昇が終わったなら、日本の10年債利回りの上限を緩和しても金利上昇は限られるとの判断があったと見られ、実際にその後の日本の10年債利回りの動きはそのようになった(図表2参照)。

【図表2】日米の10年債利回りの推移(2021年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

こうした中で、7月28日植田総裁に代わった日銀は、日本10年債利回りの0.5%という上限を超える動きにも1%までは柔軟に対応すると政策を修正した。そしてその後は、10年債利回りは上昇傾向が続き、0.8%も大きく上回ってきた。

植田総裁が、7月28日の記者会見で、「長期金利が 1%まで上昇することは想定していない」と語ったのは、米長期金利との関係も理解していたなら、米10年債利回りもさすがに5%まで上昇することはないとの想定が前提だったのではないか。仮にそうであるなら、想定以上の米10年債利回りの上昇により、日本の10年債利回りも想定以上になったと考えている可能性があるだろう。

「想定外」の日米長期金利上昇、米金利のピークアウトをどう解釈するか

このような想定以上の日本の金利上昇は、デフレ脱却まで辛抱強く金融緩和を続けるといった植田総裁の考え方からすると、悪影響をもたらす懸念もあるのではないか。10年債利回りといった長期金利だけでなく、金融政策を反映する2年債利回りも上昇傾向が続いており、マイナス金利の解除を織り込むような動きになっている(図表3参照)。

【図表3】米ドル/円と日2年債利回り(2022年12月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

このまま日本の金利上昇が続くようなら、植田総裁の方針に支障をきたすことになりかねない。一時3万4千円近くまで上昇した日経平均が最近にかけて大きく反落したのは、中東情勢への懸念や米金利の大幅な上昇といった国外要因の影響が大きそうだが、国内金利の「上がり過ぎ」も一因ではないか。

ただ、上限にこだわり円金利上昇阻止を強化すれば、円売り材料とされる懸念がある。また、米10年債利回りも5%の大台を突破したところで、さすがにピークアウト感も浮上してきたと見られ、日本の10年債利回りの上限を柔軟化しても、目先的には上昇余地も限られるといった判断があるのではないか。

そもそも円金利上昇が限られるなら、円が売られるリスクは残るだろう。その意味では日本の通貨当局による円安阻止介入の必要性も当面は残ることになるのではないか。