薬の製造を外部委託する製薬メーカー、新薬開発に集中
製薬メーカーが、薬の製造を外部に委託する動きが強まっている。製造を請け負う企業はCDMO(Contract Development and Manufacturing Organization=医薬品受託開発製造機関)と呼ばれる。製造に伴うリスクやコストを低減させ、新薬開発に集中することができることが要因だ。
薬の製造には大きなリスクが伴う。薬のもとになるたんぱく質を大量に作るタンクや、不純物を取り除く設備などが不可欠で、これらには多額の投資が必要だ。しかも、これらは実用化以前の臨床試験(治験)の段階でも使われる。臨床試験が頓挫することや、他社に開発で先行されるケースもあり、この場合、損失が大きくなる。コスト的にも見合わないケースも出てくる。そもそも、製薬企業は薬の開発に経営資源を集中した方が、新薬開発の効率が高まる。
風邪薬のような低分子薬では製造は比較的容易だが、バイオテクノロジーを用いて創製されるバイオ医薬品では、製造の難易度も高まる。単に成分通り作るのではなく、人間の体内にある生体分子(酸素、ホルモン、後退など)を応用するためだ。報道などによれば、CDMO市場規模は2028年に約2580万ドル(約37兆円)と、2023年比で約5割増えるとみられている。
そこで、今回は主なCDMO関連企業をピックアップする。
富士フイルムホールディングス(4901)
2011年に米メルクからCMO(医薬品製造受託機関)を買収したことでCDMO事業に参入。2022年10月に同社として国内初のバイオCDMO拠点を富山県に新設すると発表。
AGC(5201)
中期経営計画「AGC Plus - 2023」でバイオ医薬品CDMOを含むライフサイエンス事業を戦略事業と位置付け、CDMOを日米欧の3極で展開している。
日東電工(6988)
核酸医薬品分野でCDMOの世界大手。2011年に米アシビア社の買収で核酸医薬のCDMOに参入している。核酸医薬品とは遺伝子を構成するRNA(リボ核酸)やDNA(デオキシリボ核酸)の成分を使った薬のこと。遺伝子の発現に直接作用することにより、従来は難しかった病気の治療を可能にする画期的な医薬品として商業化に向けた開発が進んでいる。
リコー(7752)
2022年5月に米エリクサジェン・サイエンティフィック(eSci)社を子会社化すると発表した。エリクサジェン社はiPS細胞やES細胞(胚性幹細胞)を様々な細胞へ高速分化誘導可能な独自の技術を有しており、iPS細胞を用いた創薬研究や疾患研究の効率化に貢献している。また、エリクサジェン社は2021年9月にアジア・パシフィック地域で初めてmRNA医薬品のCDMO事業を開始している。
味の素(2802)
2013年にバイオ医薬品の開発・製造を行う米アルテア・テクノロジーズ社を買収し、バイオ先端医療分野を強化。CDMOにも参入。味の素が培ってきたアミノ酸発酵技術を応用した独創的なたんぱく質製法開発受託「CORYNEX(コリネックス)」を展開。傘下の味の素・バイオファーマサービスがグローバルなCDMO事業を展開している。
シミックホールディングス(2309)
新薬開発の臨床試験(治験)支援(CRO)のパイオニア。製剤設計から治験薬製造、商用生産に至るまで、開発・製造のトータルソリューションを提供。具体的には静岡県の製剤開発センターで医薬品の製剤化検討や治験薬製造を行い、国内4拠点および海外2拠点(韓国、米国)で商用生産を行う。「固形製剤」、「半固形製剤」、「注射剤」のほぼすべてに対応している。
2023年4月に大日本印刷と戦略的事業提携を発表。大日印がシミック傘下のCMOに出資し、注射剤の共同開発や原薬製造拡充などCDMOでシナジー効果の発現などを狙う。
テルモ(4543)
2023年5月に甲府工場(山梨県)内にバイオ医薬品のCDMO工場を建設すると報じられている。それによると投資額は522億円で、延床面積は4万5,000平方メートル。2025年度に建設を終え、2027年度に生産を開始、製薬企業から受託したバイオ医薬などの薬剤の充填、滅菌作業などを担う予定。同社は2017年にCDMO事業を開始し、山口工場や富士宮工場で展開している。
カネカ(4118)
2025年度を最終年度とする中期経営計画でライフサイエンス分野に経営資源を振り向ける方針を示す。その中でバイオ医薬のCDMO事業を伸ばすことを目指す。
帝人(3401)
再生医療を手掛ける子会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J-TEC)と協力して、再生医療のCDMOに参入。報道では2030年にグループで約70億円の売上高を見込む。