過去最大の伸び率となった防衛費、その内訳とは
今回は防衛関連株について解説します。暑かった2023年の8月は歴史に残る画期的な出来事が2つ、とても印象に残りました。1つは日本の2024年度予算での防衛費の特出ぶり、もう1つは米国のキャンプデービッドにおける日米韓3ヶ国による首脳会談です。
まず日本の防衛予算です。8月末で締め切られた2024年度予算の概算要求で、飛び抜けて伸びが目立っているのが防衛費です。防衛省は過去最大となる7.7兆億円の防衛予算を計上し、2023年度の当初予算と比べて+13%もの増加となりました。金額としても伸び率でも過去最大です。
2024年度予算は一般会計の総額で110兆円を超え、10年連続で100兆円を突破するまでに達しています。高騰するガソリン価格をはじめ物価・賃金対策や少子化、介護、医療費への対策など、予算総額はさらに膨らむ可能性があります。
その中でも防衛費の伸びは特出しています。目玉となるのが「統合防空ミサイル防衛」です。
射程3,000kmの極超音速誘導弾の製造に1.2兆円、反撃能力となる長射程ミサイルの開発に7500億円、海上から迎撃する「イージス・システム搭載艦」2隻の建造に3800億円、無人機(ドローン)による空中・水上・海中の防衛に1200億円を計上しました。さらに2030年代までに国産初となる次期戦闘機も英国、イタリアとの共同で開発します。
これだけではありません。サイバー防御に2300億円、宇宙空間の監視・通信衛星の整備に1650億円を各々要求しました。これらを統合する「統合司令部」を東京・市ヶ谷に新設し陸・海・空の部隊を一体で指揮する体制を整えます。
近年脅威となっている外国からのサイバー攻撃への対処策として、電磁波で相手からの通信を妨害する作戦機の開発も進めます。さらに日本電信電話(NTT)(9432)が2030年の実用化を目指す「IOWN(アイオン)」、光伝送による次世代データ通信規格の活用も見込んでいます。
また従来は手薄だった南西諸島への展開、防御を強化するために5950億円を求めています。ヘリコプターを活用した「自衛隊海上輸送群」を新設して、陸・海・空の共同部隊として物資輸送を強化します。台湾海峡での有事を念頭に置いて、機動的に対処しうる最新の戦車も取得する計画です。
戦闘を継戦させる弾薬確保に9300億円、輸送船舶の整備費に2.3兆円、火薬庫の増設・改修に8000億円、中央指揮システムの整備に6800億円、各々要望しました。
日米韓の3ヶ国首脳会談により、安全保障体制は新たな時代の幕開けへ
このような防衛費増強の背後にあるのが、日米安保体制の抜本的な見直しと見られています。8月半ばにバイデン米大統領は、キャンプデービッドに岸田首相と韓国のユン・ソンニョル大統領を招き、日米韓3ヶ国の首脳会談を開きました。
会談後の記者会見でバイデン米大統領は、台湾海峡の有事を念頭において、中国を名指しすることはなかったものの、3ヶ国が「前例のないレベルで協力し、情報を共有する」と明確に表明しました。
岸田首相も「3ヶ国の戦略的な連携を開花させることが時代の要請」、「安全保障協力を新たな高みへ引き上げていく」と強調しました。ユン大統領は「域内で懸案が発生した場合、迅速に協議して対応する」と述べました。
これによって日米韓による防衛協力は新たな時代へと突入したと見られます。今後は年1回以上、3ヶ国の首脳レベルが会合を開き、北朝鮮と中国を念頭に広い領域での協議を続けていくことになります。
戦後80年近くが経過して、日本の安全保障体制が歴史的にも明確に変化したことが強く印象づけられた8月となったのです。
多岐にわたる日本の防衛体制
日本の防衛体制は極めて多岐にわたります。例えば、陸上自衛隊で運営されている車両を例にとると40種類以上に及び、それらの用途は戦闘車両、建設・土木(架設橋、障害構成用)の施設車両、(器資材の運搬用のトラックなど)一般車両に大別されます
代表的な戦闘車両でも、(1)近接戦闘用(戦車、装甲戦闘車)、(2)火力戦闘用(自走榴弾砲、自走高射機関砲、自走追撃砲、砲側弾薬車)、(3)その他車両(偵察警戒車、指揮通信車、装甲車、装輪装甲車、高機動車、戦車回収車)、に分かれます。
実戦で最前線に配備され、戦況を決定的に左右するとされるのが近接戦闘用の「戦車」です。戦車は「火力」、「防護力」、「機動力」の3つの要素が高度なレベルでバランスが取れていることが求められます。火力戦闘用とされる自走榴弾砲であれば火力が最優先され、指揮・戦場輸送用の車両では高速の機動力に重点が置かれます。
日本を代表する「90式戦車」の場合、重量は50トン、最高出力は1500ps(ps=馬力、1馬力は75キログラムの物体を1メートル動かす力)、最高車速は時速70km、乗員3名、搭載火器は120ミリ戦車砲、という仕様です。
最新式の戦車には、さらに目標捕捉用・照準用眼鏡(前方監視赤外線装置、多機能レーザ、レーダ、高解像度テレビ付き)、敵味方識別システム(ミリ波使用)、化学剤検知器、ミサイル警報センサ、レーザ照射警報センサ、おとり発生機、などが装備され、動力源として1,250馬力のガスタービンエンジンが搭載されます。1両当たりの価格は5~7億円にのぼります。
続くウクライナでの攻防戦、世界の防衛事情とは
2022年2月、ウクライナに対してロシアが大規模な武装攻撃を開始しました。第2次世界大戦後、武力による初めての国境線変更を目指した行為として、世界中がロシアを避難しています。
ウクライナは必死の防戦で耐え、多大な被害を出しながらもすでに1年半以上もロシアの攻撃を防いでいます。ウクライナ軍の戦意の高さが存在するのはもちろんですが、その要となっているのが、米国とNATOを中心に西側陣営から大規模な武器と軍事物資が継続的に供給されていることです。
そのウクライナ軍が最も要求している武器が、ドイツの最新式戦車「レオパルト2」、そして米国の「M1エイブラムス」です。どちらも1970~80年代に開発された戦車で現在も「世界最強の戦車」と恐れられています。装備は日本の「90式戦車」とほぼ同じレベルです。
戦場に初めて戦車が出現した第1次世界大戦の頃、戦車の「防護力」を担う装甲の厚さはせいぜい十数ミリでした。
それが第2次世界大戦になると、戦場での優位性を決めるのに戦車が決定的な役割を担うと認識され、そこで敵味方ともに対戦車砲の威力が増して、対戦車砲や成形炸裂薬などの火砲が用いられるようになりました。そして、第2次大戦の末期になると、戦車の主要部分は100ミリ以上の厚さを持つ装甲を配した戦車も現れるようになったとされます。
しかし、戦車の防護力を高めると大型化、重量化が進み、その分「機動力」が低下します。敵から発見されやすくなり攻撃の対象となりやすくなるため、装甲の材質や形状に工夫を加えるようになりました。
ドイツの「レオパルト2」は、2種以上の材質を重ねてはさむ「複合装甲」が採用されています。これは鋼鉄の装甲板にセラミック、チタン合金、強化プラスチックなどをサンドイッチ状にはさんで構成したもので、それも「世界最強」のレベルを維持するのに貢献しています。
軽武装によって戦後の高度成長を上り詰めた日本ですが、新冷戦の下で今後は自国での防衛力の増強に力を入れざるを得ません。この状況は数年単位では変わらず、おそらく数十年~百年単位で起こる時代の大きな変化に組み込まれているのでしょう。それでは、以下で日本の防衛関連銘柄を見ていきましょう。
時代の変化に合わせ、日本の防衛力増強が期待される注目銘柄
三菱重工業(7011)
日本を代表する総合重機メーカー。発電所の大型ガスタービン、原子力発電、ロケット、産業機械、化学プラントなどを手がけ、戦車、戦闘機、護衛艦、潜水艦、ミサイルなど日本の防衛産業の頂点に君臨する。防衛産業を支える装備品メーカーの多くは要素技術は確かでも中小企業が大多数を占め経営的に厳しい。それらの企業を多数、傘下に収めて技術の流出を保持している。
川崎重工業(7012)
三菱重工業と並ぶ総合重機メーカーの大手。世界では「KAWASAKI」ブランドの大型2輪で知られる。国内トップの鉄道車両をはじめ航空機、造船、ガスタービンにも強い。宇宙ロケットの推進力である液体水素は歴史的に1社で担ってきた。潜水艦、航空機にも強く、南西諸島方面の防衛で重視されるヘリコプターで同社の技術力が注視されると見られる。
日本電気(NEC)(6701)
情報システム構築、通信インフラで国内トップ。官公庁、通信キャリア、上場企業向けにシステム構築、運用・保守を行う。中でも官公庁およびNTTグループと密接。顔認証や虹彩認識など生体認証に力を入れ、無人店舗の構築で強力な推進力を持つ。防衛力の要は通信にあり。サイバー攻撃への防御システム、情報漏洩、AI技術に関する高度人材を多数有する。
日本電信電話(NTT)(9432)
傘下にNTTドコモ、NTT東西、NTTデータグループ、国際通信のNTTコミュニケーションズを有する持株会社。現在の新中期経営戦略で「IOWNによる新たな価値創造」を推進。その一環として電気信号と光信号を融合する「光電融合技術」を前面に打ち出す。激増するデータ通信量、電力負荷問題の解決に正面から取り組み、防衛軍事を含む日本社会の屋台骨を支えている。NTT法改正で政府保有株の売却が予想されるが、その分経営の自由度が増すと見られる。
参考文献
『防衛技術選書:陸上装備の最新技術』(2017年、防衛技術協会)