リチウム、コバルト、ニッケルなどの鉱物の重要性の高まり

各国がクリーンなエネルギーシステムへの転換を進める中、電気自動車(EV)や蓄電池、風力タービンなどに使用されるリチウム、コバルト、ニッケルなどの鉱物の重要性が高まっている。

国際エネルギー機関(IEA)の見通しによると、脱炭素化に向けて各国が公表・実施している計画を反映したシナリオ(STEPS:Stated Policies Scenario)において、リチウムの世界需要は2030年までに2022年比2.4倍、コバルトは同1.4倍、ニッケルは同1.3倍に増加すると予想されている。

また、各国政府の公約が全て実施されると想定したシナリオ(APS:Announced Pledges Scenario)では、2030年までにリチウムの需要が同3.5倍、コバルトは同1.7倍、ニッケルは同1.5倍に達する見通しである。

【図表1】重要鉱物の需要見通し(シナリオ別)
出所:国際エネルギー機関(IEA)から丸紅経済研究所作成

重要鉱物の採掘や製錬は一部の国に偏在

脱炭素目標の達成には、リチウム、コバルト、ニッケルなどの重要鉱物の安定確保が不可欠である。しかし、現状では重要鉱物の採掘や製錬は一部の国に偏在しており、採掘において上位3ヶ国のシェアはリチウムとコバルトで各々80~90%、ニッケルで65%にも及んでいる。

製錬の段階においては中国が存在感を示しており、リチウムとコバルトでは全体の65~75%を占めている。さらに中国は採掘への投資も活発化させている。CMOCや浙江華友など中国主要鉱業企業の2022年の投資額合計は、前年比でほぼ倍増した。

また、復旦大学が公表した報告書によると、中国が推進する広域経済圏構想「一帯一路」において、金属・鉱業分野への投資額は2023年1~6月期に前年同期比+131%となった。インドネシアのニッケルや、ボリビア、ジンバブエのリチウムなどへの投資が高い伸びを牽引した。

2023年通年では、過去最高だった2018年の170億ドルを上回る投資額が見込まれており、中国が資源の確保に向けて上流投資を強化している姿勢が浮き彫りとなっている。

【図表2】重要鉱物の生産(採掘・製錬)における各国シェア(2022年)
出所:国際エネルギー機関(IEA)から丸紅経済研究所作成

欧米諸国も安定調達に向けた取り組みを加速

このような状況下で、欧米諸国も重要鉱物に関するサプライチェーンの強化を加速させている。米国では、2021年に成立したインフラ投資・雇用法の一環として、リチウム、コバルトなどのバッテリー原料の国内製造や、バッテリーのリサイクルなどに総額60億ドルの助成プログラムが提供されている。

また、2022年8月に成立したインフレ抑制法(IRA)には気候変動関連投資支援策が盛り込まれ、EVを購入する際に税額控除を受けられる条件として、米国または米国と自由貿易協定を締結する国で採掘あるいは製錬された重要鉱物が一定割合(2023年以降、段階的に上昇)利用されていることなどが示された。IRAの制定以降、鉱物の採掘やバッテリーの製造などに関して450億ドル以上の投資が発表されている。

同様に、欧州連合(EU)も2023年3月に重要原材料法案(EU CRM Act:EU Critical Raw Materials Act)を公表した。経済的に重要で供給上のリスクがある重要原材料(CRM:Critical Raw Materials)、及びその中でも特に戦略的重要性が高い原材料(SRM:Strategic Raw Materials)が特定され、2030年までにSRMのEU域内消費量の最低10%を域内で採掘、最低40%を域内で製錬し、1つの域外国からの輸入を65%以下に抑制することなどが努力目標とされている。

目標の達成に向けて、CRMに関連するプロジェクトの許認可手続きの簡素化や、資金調達支援などが行われる予定である。

このような各国・地域内での取り組みに加えて、2022年6月には米国主導で鉱物安全保障パートナーシップ(MSP:Minerals Security Partnership)が設立された。米国の他、日本やEU、オーストラリアなどが参加し、メンバー国間での情報共有や、鉱山開発・製錬施設への相互投資の促進を目指している。

8月以降、中国が半導体素材として利用するガリウムとゲルマニウムの関連製品の輸出を許可制にするなど、重要鉱物を特定国に依存するリスクが改めて意識される中、リサイクルも含めた自国内の供給力強化と国際協力体制の深化が求められる。

 

コラム執筆:伊勢 友理/丸紅株式会社 丸紅経済研究所 シニア・アナリスト