アルツハイマー病の治療薬として初の有用性を示す
エーザイ(4523)と米バイオジェン[BIIB]が開発したアルツハイマー型認知症治療薬「レカネマブ」について、米食品医薬品局(FDA)が7月に正式承認した。
病気の進行を緩やかにする効果を証明した初の医薬品となる。今回の承認で、米国の高齢者向け公的医療保険である「メディケア」で保険が適用される。比較的安価で使えるようになることで、普及が進む見通しにある。レカネマブは日本でも2023年9月末にも承認される可能性が大きい。
世界規模で普及し、ピーク時年商は1兆円超えの見通し
報道などによるとアルツハイマー型認知症の患者数は現在世界で5000万人程度おり、2050年には1億5000万人にまで増加するとみられている。レカネマブは2024年3月末には中国や欧州で、2023~2024年度にかけてはカナダ、英国、韓国でも承認される可能性がある。
アルツハイマー型認知症は患者の脳内に「アミロイドベータ(Aβ)」というたんぱく質が時間をかけて蓄積され、一定以上が蓄積されると神経細胞が破壊されて発症するメカニズムのこと。レカネマブはAβを除去する仕組みの薬で、症状の進行スピードを遅らせることができる。アナリストによれば、ピーク時年商は1兆円を優に超えると試算している。
エーザイとバイオジェンはAβ除去という類似したアルツハイマー型認知症薬「アデュカヌマブ」が2021年にFDAから迅速承認されたものの、2つの臨床試験のうち1つで有効性を示せず、保険適用が限定されていた。また、高い薬価もあって普及していない。レカネマブはFDAから制限のない「フル承認」を取得した世界初、かつ唯一の治療薬となる。
レカネマブは早期の認知症が適用対象であり、検査などへの重要性が増す。また、レカネマブに続くような日本の新薬候補にも関心が高まる可能性がある。そこで、今回はアルツハイマー型認知症薬に関連した銘柄をピックアップする。
エーザイ(4523)
「アデュカヌマブ」「レカネマブ」とアルツハイマー型認知症認知症薬で世界的に先行している。さらに現在開発中の「E2814」(開発コード)の研究が進んでいる。これまで発売したアルツハイマー型認知症薬は脳内のアミロイドベータ(Aβ)を取り除くという手法。「E2814」は脳内にたまるたんぱく質「タウ」の蓄積を防止することで認知機能の悪化を抑制するというメカニズムで、遺伝性のアルツハイマーとして知られる。海外で臨床第1相試験を実施中だ。
また、新規経口シナプス再生剤(疾患修復)の「E2511」(同)も控えている。脳の機能は電気信号を発して情報のやり取りを行う神経細胞のネットワークで成り立つ。そのネットワークを作る神経細胞と神経細胞の接続部がシナプスである。シナプスを再生することでアルツハイマー型認知症を治そうとするのが「E2811」であり、海外で臨床第1相試験を実施している。
シスメックス(6869)
検体検査機器・試薬に強みがある。米国など世界的に展開。2022年12月に血液中のアミロイドベータ(Aβ)を測定する検査試薬「HISCLβ-アミロイド1-42試薬」、「同40試薬」について、体外診断用医薬品として国内での製造販売承認を取得したと発表している。
シスメックスが今回承認を得た試薬は、同社の全自動免疫測定装置を用いて、脳内Aβの蓄積状態の把握を補助するもの。患者の負担が少なく、簡便な検査ができることで、企業側では早期の市場投入を狙う。エーザイとは2016年に診断薬創出に向けた包括契約を締結。同社の試薬が診断に活用される可能性が高い。
浜松ホトニクス(6965)
光検出機器で高い技術力を持ち、光電子増倍管でシェア9割を誇る。技術を活用し、がんの有無や転移がないかを調べるPET(陽電子放出断層撮影)検査装置を手掛ける。PETは脳内にアミロイドの蓄積があるかどうかを調べるのに有効だ。2022年には頭部の脳の状態を計測するPETで画像補正機能を備えた装置を開発と報じられている。計測精度を高め、認知症などの研究進展に期待感が持てる。
島津製作所(7701)
分析・計測器の大手。2020年12月に「血中アミロイドペプチド測定システム アミロイドMS CLI」が管理医療機器の承認を取得したと発表している。血中のアミロイドペプチド(アルツハイマー病の特徴であるアミロイド斑の主要成分)を測定し、Aβに関するバイオマーカーを提示する製品である。企業側の資料によると、PETよりも被験者の負担が小さい検査を実現するという。
H.U.グループホールディングス(4544)
持ち株会社傘下企業が臨床検査薬、受託臨床検査機器を展開。2022年3月に傘下の富士レビオがアルツハイマー病の検査試薬を発売したと発表した。これは血液を使って検査するもので、脳内Aβの蓄積状態を把握する補助として用いられる。
同社では現在主流の脳脊髄液(CSF)を使ってAβを調べる試薬を欧州や日本で販売しているが、今回の血液を使うタイプは身体への負担が小さいという。
富士フイルムホールディングス(4901)
アルツハイマー型認知症薬候補「T-817MA」が米・欧州で臨床第2相試験中。たんぱく質の一種であるリン酸タウの蓄積が認知機能の低下を招くが、臨床試験ではリン酸タウの減少が確認されている。神経細胞死に対する強い抑制作用がある。
中外製薬(4519)
アルツハイマー型認知症薬候補「RG6100」、「RG6102」が臨床第1相試験を実施中。