株式市場は遂に日経平均で34,000円を望む展開となってきました。実に33年ぶりの高値水準です。アベノミクス初期以来となる、久々の大型相場になってきたと言えるでしょう。

私もこのコラムでは4月から強気の見方を示してきました。この結果に少しホッとする一方、ここまでの上昇は予想を遥かに上回るものとも受け止めています。ただし、国内金利の落ち着きや経済活動水準の上昇、東証改革などを見る限り、追い風はまだ継続するのではとも感じています。随時、ネガティブな材料に反応してスピード調整が入ることにはなるのでしょうが、それらはむしろ健全な動きと捉えたいところです。

私が今後、もっとも警戒しなければならないのは相場格言にある「靴磨きの少年」の出現である、と考えています。最近は相場格言を引用することが増えました。機を見て、また相場格言もテーマに採り上げてみたいと思います。

重要でありながら投資魅力度に欠けていた日本のSPE産業

さて、今回は「半導体製造装置(SPE)」をテーマに採り上げてみましょう。長くこのコラムを書いていますが、日本を代表する業種でありながら、実はこのテーマを採り上げるのは今回が初めてとなります。

これまでテーマに挙げ難かったのは、この業界における日本のプレーヤーはほぼ固まっており、注目点はシリコンサイクルという半導体業界の好不況の波に結局のところ尽きてしまっていたためです。そして、それ以上に大きな理由として、この業界における日本企業のプレゼンスが2015年頃からじりじりと低下していたという背景もあります。

かつて、日本企業はSPEの世界市場でおよそ3分の1のシェアを占有していたものの、2022年にはそれが20%程度まで縮小してしまったとの指摘もあるのです。その要因はいろいろあるのですが、先端領域における技術革新の波にやや出遅れた感も否めません。

やはり、ハイテク領域においてグローバルのプレゼンス低下は投資魅力度には逆風とならざるを得ません。依然として日本のSPE産業は成長を続けており、国内においても世界においても非常に重要な地位にあることは論を待たないのですが、投資のテーマにはなかなかなり難かったのです。

半導体需要が拡大。SPE業界が新たに注目される2つの理由

そのような中、大きな動きが2つ出てきました。1つは、ChatGPTに代表されるAI技術の急激な進化です。先日も、AIチップ領域で8割ともいわれるシェアを有する米エヌビディア(NVDA)の時価総額が1兆ドルを超えたというニュースがありました。このような新しい領域における半導体需要の拡大は、当然ながらSPE業界にも(これまでのシリコンサイクルを越えた)大きな追い風が吹くだろうと推測されます。

もう1つは、2022年設立のラピダスに代表される国内の最先端半導体に対する投資意欲の高まりです。日本のSPE業界は技術革新の波にやや出遅れた感もありましたが、このような投資がそのギャップを一気に埋めていく起爆剤になるのではという期待が出てきたのです。

現時点ではまだ予測の範疇を出ませんが、日本のSPEが再び世界のトップ企業と伍していくシナリオが鮮明になれば、当然、株式市場における投資魅力度も大きく向上するものと予想します。

SPE業界を形成するビジネス構造とは

なお、SPEはかなり広い領域を示しており、シリコンウェハに回路を書き込み、それを多層に積み重ねて半導体チップに仕上げるまでに要する製造装置全般を示す概念です。具体的には露光装置(回路パターンの転写)、エッチング装置(回路溝の形成)、成膜装置(薄膜形成)などにとどまらず、半導体テスターやシリコンウェハのダイサー、クリーンルームなどもこの範疇にあるのですが、大きくは回路形成するまでの前工程と、そこから半導体チップとして切り出し、IC(集積回路)やLSI(大規模集積回路)に仕上げるという後工程に分けることができます。

各工程においても何段階にも及ぶ加工/検査/洗浄ステップを繰り返し踏む必要があり、それぞれに専門的で最先端の装置が求められているというのが現状です。そのため、SPEメーカーといっても、工程内のあるプロセスに特化した製造装置を手掛けているメーカー、というケースがほとんどで、半導体メーカーはそういったプロセス毎に異なる製造装置を各々別々のSPEメーカーから調達し、大きな半導体工場を作っていることになります。

このことは、最先端半導体を製造するには、やはり最先端のSPEが必要であるということに他なりません。しかも、それは全プロセスにおいて一定のレベルアップがなされて初めて全体の最先端化が実現できることでもあり、それがさらに各プロセスの専門化を加速させるという構造にもなっているのです。

現在、SPE業界では日米欧の企業が圧倒的な存在感にあります。韓国・中国の企業も急速に伸びてはいるものの、このように専門化が進む中では伸ばせる領域はまだ限定的とも言えます。つまり、既存企業はまだまだアドバンテージを有しているということなのでしょう。

SPE業界を取り巻く、投資妙味のある日本のプレーヤー企業

では、SPE業界における主な日本のプレーヤーはどういった企業になるのでしょうか。上場企業では、エッチング装置や成膜装置で世界的シェアも高い東京エレクトロン(8035)を筆頭に、テスター領域で世界2強の一角であるアドバンテスト(6857)、ウェハ洗浄領域で存在感を放つSCREENホールディングス(7735)などがその代表的な企業群と言えます。

この他、東京精密(7729)、ディスコ(6146)、レーザーテック(6920)、ニコン(7731)なども挙げられるでしょう。ただし、SPE専業ではなく、他の事業を手掛けている企業も少なくありません。銘柄選択の際にはそれらをしっかりと確認してください。