モトリーフール米国本社、2023年5月30日投稿記事より

主なポイント

・オープンAIへ投資したことにより、マイクロソフトの幅広い製品とサービスのポートフォリオは強化される見通し
・エヌビディアはGPUアーキテクチャで大きくリードし、高い競争優位性を得ているため、複数年にわたる大幅成長が見込まれる

マイクロソフトとエヌビディアの株価は年初来で市場を大きくアウトパフォーム。懐疑的な見方もあるが、未来に向けたビジネスの可能性は非常にエキサイティングである

人工知能(AI)関連銘柄は投資業界に旋風を巻き起こしており、2022年に大きく落ち込んだ大手ハイテク企業や半導体企業の株価は2023年に急騰しています。

しかし、現在のAIブームをハイテクバブルと比較し、足元の熱狂が終われば、これらの企業の株価は下落するはずだと警告する見方もあります。

確かに、一部のAI銘柄でバリュエーションが上昇し、割高感があることは間違いありませんが、現在のAIブームと1990年代後半のハイテクバブルとの間にはかなり大きな違いがあります。例えば、利益が出ていない、あるいは売上すら上げていないスタートアップ企業が、社名に「ドットコム」が付いているという理由だけで上場していた当時と異なり、現在の主要なAI企業の多くは、規模が大きく、地位を確立し、利益を生み出しています。

さらに、AIの可能性は、マイクロソフトやエヌビディアのような大手企業にも、今後数年間にわたって大きな成長をもたらすと思われます。

マイクロソフト

ソフトウェアとクラウドの最有力企業であるマイクロソフトは、投資先であるオープンAIが2022年11月にChatGPTをリリースしたことで、昨今のAIブームの火蓋を切りました。ChatGPTの登場は、ハイテク業界だけでなく、ほぼありとあらゆる企業に対して、AIが持つ変革の可能性を認識させました。

ChatGPTの衝撃的なデビューに続き、マイクロソフトは2023年1月、オープンAIへの初期投資に100億ドルを追加することを明らかにしました。これにより、投資総額は130億ドルとなり、当時のオープンAIの企業価値290億ドルの50%弱に相当します。

マイクロソフトは現在、自社のビジネスインフラ、プラットフォーム、ソフトウェア製品のすべてにオープンAIの技術を注入しています。それだけでなく、マイクロソフトは新たに獲得したAI能力を活用することで、検索エンジンの「Bing」といった、市場をリードできていない既存製品の強化にも取り組んでいます。

マイクロソフトは2月に開催したイベントで、オープンAIとChatGPTによって、Bingや自社のウェブブラウザ「Edge」の機能性や精度が大幅に向上したと説明しました。これは重要なポイントです。なぜなら、市場規模の大きいデジタル広告業界においてマイクロソフトの市場シェアは小さく、この分野で何らかの改善があれば、既に大手企業であるマイクロソフトにとっても大きな影響をもたらす可能性があるからです。マイクロソフトのエイミー・フッドCFOはイベントの中で、検索市場におけるシェアが1%ポイント上昇するだけで、収入が20億ドル増加し、そこからは高い利益率が期待できると指摘しました。マイクロソフトの過去12ヶ月間の売上高は2000億ドル強であり、世界の検索市場におけるBingのシェアがわずか2.8%であることから、市場シェアが数ポイント上昇するだけでも大きな意味を持つと思われます。

しかし、もしそうならなかったとしても、マイクロソフトがオープンAIに投資したことで、クラウドインフラ分野のみならず、企業資源計画(ERP)パッケージの「Dynamics」、ソフトウェア開発者向けプラットフォームの「GitHub」、オートメーションツールの「Power」、その他の企業向け最先端ツールなど、企業の生産性向上を目的とした既存製品における同社の競争力は高まるはずです。

エヌビディア

エヌビディアは、おそらくマイクロソフト以上に、AI革命における代表的存在であり、それには正当な理由があります。先日行われた2024年1月期第1四半期(2023年2~4月期)の決算発表の中で、エヌビディアの経営陣は、売上高110億ドルという、コンセンサス予想を55%近く上回る第2四半期ガイダンスを発表してアナリストを驚かせました。ちなみに、第1四半期の売上高は72億ドルでした。

さまざまな企業がAIを取り入れようと積極的に投資を決める中、エヌビディアはAI「武器」商人として圧倒的な存在感を示しており、同社の汎用画像処理装置(GPU)はアクセラレーテッドコンピューティングの根幹を成しています。従来のデータセンターには中央演算装置(CPU)が搭載されていましたが、AIの訓練と推論のための膨大な演算処理に対応するには、GPUの並列処理能力が必要です。

エヌビディアのジェンスン・フアンCEOは先日のアナリスト向け説明会で、同社の高い成長見通しを後押しする2つの重要なポイントを挙げました。1つ目は、世界全体で約1兆ドル規模のデータセンターが設置されており、その大半が主にCPUアーキテクチャで構築されていることです。フアンCEOは、生成AIやアクセラレーテッドコンピューティングが最新のおもちゃから定番へと変わるにつれて、データセンターインフラのほとんどがいずれ、GPUを搭載したアクセラレーテッドサーバーに取って代わられると推測しています。

これには一理あると思われます。というのも、調査会社のトレンドフォースは5月中旬に、AIサーバーの力強い成長にもかかわらず、サーバー全体の出荷台数のうちAI関連のサーバーが占める割合はいまだ10%未満にすぎないため、サーバー市場全体は2023年に縮小する可能性があると指摘しました。これは、エヌビディアが驚異のガイダンスを発表する前のことであり、最終的にサーバー出荷台数がトレンドフォースの予想を上回るかどうかは分かりません。

フアンCEOが指摘した2つ目のポイントは、エヌビディアには新興の競合他社と比べて優位性があることです。AIの台頭により、より多くのスタートアップ企業や大手半導体メーカーが間違いなく、この分野に参入してくるでしょう。しかし、エヌビディアはプログラミングプラットフォームの「CUDA」で、既に大きくリードし、高い優位性を得ています。CUDAは、ソフトウェア、プログラミングライブラリ、APIの集合体で、元々はコンピューターグラフィックス用に作られたGPU を、開発者がアクセラレーテッドコンピューティング向けにプログラムできるように、エヌビディアが2006年に開発したものです。

マイクロソフトのWindowsがパソコン用基本ソフト(OS)の標準であるように、CUDAは今や、AIをプログラムする際の標準となっています。さらに、フアンCEOは、エヌビディアの汎用GPUをさまざまな用途にプログラムできるということは、高価な同社製チップが常に利用されることを意味している、と指摘しました。対照的に、エヌビディア製チップの代替品の中には、単一のタスクに特化し、特定の目的でしか利用できないものもあるかもしれません。これは、コストのかかるデータセンターのサーバーが、常にフル活用されるわけではなく、そのためにデータセンターの運営者にとっては、総所有コストが増加することを意味します。

つまり、CUDAソフトウェアの技術的優位性を考えれば、エヌビディアが高く評価されているのは不思議なことではありません。

免責事項と開示事項  記事は一般的な情報提供のみを目的としたものであり、投資家に対する投資アドバイスではありません。元記事の筆者Billy Dubersteinは、マイクロソフトの株式を保有しています。同氏の顧客は、記載されている企業の株式を所有している可能性があります。モトリーフール米国本社はマイクロソフト、エヌビディアの株式を保有し、推奨しています。モトリーフールは情報開示方針を定めています。