大企業から中小企業まで、平均賃上げ率は3%以上

記録的な物価高を背景に賃上げの気運が高まる中、2023年の春季生活闘争(春闘)は大企業を中心に満額回答が相次いだ。日本労働組合総連合会が公表した第4回集計時点の平均賃上げ率は3.69%(うちベースアップ分2.11%)と、2022年(2.11%)や新型コロナウイルス(以下、コロナ)前の2019年(2.13%)を大きく上回った。最終集計時点との比較では1993年(3.90%)以来、30年ぶりの高水準となっている。

中小企業や非正規雇用にも賃上げの勢いが波及するか注目される中、第4回集計時点における中小組合の平均賃上げ率は3.39%(うちベースアップ分2.07%)と高い水準を維持している。

日本商工会議所と東京商工会議所が実施した「最低賃金および中小企業の賃金・雇用に関する調査」によると、2023年度に賃上げを実施予定の中小企業の割合は約6割近くに上り、そのうち賃上げ率を2%以上とする企業の割合は約6割と2022年に比べて広がりを見せている。賃上げを実施する理由として、物価高への対応だけでなく、従業員のモチベーション向上や人手不足への対応といった回答が多くみられた。

【図表1】2023年春闘における賃上げ率
出所:左/日本労働組合総連合会より丸紅経済研究所作成 右/日本商工会議所・東京商工会議所より丸紅経済研究所作成
※ 左/1989~2022年のデータは最終集計結果、2023年のデータは第4回集計結果に基づく。

業種別の賃上げ率、物価高のみならず人手不足問題も賃上げ要因に

業種別にみても、物価高や人手不足などを背景に幅広い業種で賃上げ率が上昇している。賃上げの判断材料は一様ではなく、物価動向以外にも企業収益や生産性の向上など様々な要素が影響するものの、コロナ禍からの回復に伴う人手不足問題は賃上げの支援材料となっている模様だ。

日銀短観の雇用人員判断DIをみると、コロナ禍における経済活動の停滞で一時的に余剰感が増したものの、足元では段階的な経済活動の回復に伴ってコロナ前の水準と同程度まで不足超となっている。

特に宿泊・飲食などのサービス業では、全国旅行支援による国内旅行需要の増加や水際対策の緩和に伴うインバウンドの急回復を背景に、人手確保のため賃上げに踏み切る動きもみられる。今後、5月8日に新型コロナウイルスの感染法上の分類を「5類」に移行することや、中国からのインバウンドの回復が見込まれることなどを背景に、サービス業の人手不足感が一段と増す公算が大きい。

【図表2】業種別の賃上げ率と人手不足感
出所:左/日本労働組合総連合会より丸紅経済研究所作成 右/日本銀行より丸紅経済研究所作成
※ 左/第3回集計結果に基づく。右/「過剰」―「不足」の回答割合。2023年6月は見通し。

このように2023年の春闘は、物価高や人手不足などを背景に大企業だけでなく中小企業や幅広い業種にも賃上げの勢いが波及しつつある。

春闘の賃上げ率は、所定内給与の伸び率との連動性が高く、少なくとも2023年度の名目賃金は上昇率を高める可能性が高い。一方で、重要なのはその持続性であり、今後は賃金上昇分が適切に価格転嫁されるかどうか、実質賃金がプラス転化するかどうか、需要の増加を伴う持続的な物価上昇の好循環に繋げられるかどうか、などが焦点となるだろう。

 

コラム執筆:浦野 愛理/丸紅株式会社 丸紅経済研究所