中国全国人民代表大会とは

中国全国人民代表大会(全人代)は中国の国会に相当し、毎年全国から3,000名程度の人民代表(代議員)が北京に集まり、会合を開催する。通常はその年の経済成長率目標や国家予算などが審議・承認されるが、2023年は5年に1度の国家主要人事の刷新や機構改革も行われるため、特に注目を集めた。

【図表】2023年中国の主要経済目標及び政策方針
出所:「2022年国民経済社会発展計画の実行状況および2023年経済社会発展計画」より丸紅経済研究所作成
(※)赤色の表記は2022年目標比下方、緑色の表記は上方または緩和的に修正されたもの

2023年の実質GPD成長率目標を引き下げ。その背景にある下押しリスクとは

3月5日~13日に開催された全人代では、2023年の実質GDP成長率目標が2022年の前年比+5.5%前後から同+5.0%前後に引き下げられた。国際通貨基金(IMF)の1月時点の予測である同+5.2%や、+5%半ば程度あるとされる同国の潜在成長率を下回る保守的な設定となった。

2022年の経済成長率は、都市封鎖など厳格なゼロコロナ政策や、住宅市場の冷え込みを受け、前年比+3.0%と2022年の政府目標である+5.5%程度を大幅に割り込む結果となった。

2023年については、経済を大きく圧迫してきたゼロコロナ政策が2023年1月8日より撤廃されたことや、2022年秋から住宅部門へのテコ入れ策も相次ぎ打ち出されていることが好材料と言えるだろう。

その一方、国際的往来が活発化する中での感染再拡大の可能性や、住宅市場の回復遅れ、不確実性が深まる貿易環境が依然として当面の下押しリスクである。

すなわち、2022年、成長率目標の大幅未達を招いた要因の多くが依然残っており、潜在成長率に近い数字の達成は容易ではなく、景気刺激的な政策を一段と強化することが不可欠と言えるだろう。

財政赤字目標は引き上げ。民間消費や投資の拡大に期待

2023年の財政赤字目標(GDP比)は、2022年の2.8%から3.0%に引き上げられた。財政の持続性を重要視する方針の下、2022年はコロナ禍前の水準に抑制されていた財政赤字の拡大は予想外だった。

パンデミックが広がった2020年、中国政府は財政赤字目標をコロナ禍前にあたる2019年の2.8%から3.6%に大きく引き上げ、コロナ禍の影響を受ける消費者への対策やインフラ投資などの公共投資に充てた。一方で、その後、財政赤字目標を圧縮し、2022年にはコロナ禍前の2019年と同じ水準に抑えていた。

今般の支出増はインフラ建設や、中小零細企業への支援、民間消費に使われる他、完工遅れが社会問題となっている住宅の竣工促進や、影響力の大きい住宅企業へのテコ入れなどに投下されることが予想される。拡大分はGDP比0.2%と大規模と言えないが、民間の消費や投資の呼び水になることが期待されている。

習近平氏を取り巻く主要人事と機構改革における3つの主なポイント

習近平氏は国家主席に3選し、首脳外交を補佐する副主席には韓正前筆頭副総理が就任した。国会議長に相当する全人代委員長、国政助言・監督機関である政治協商会議主席は習氏に近いメンバーで固められ、ブレーキ役の不在が懸念される。

今回、政府を率いる総理および4人の副総理とも刷新されたが、いずれも中央政府での経験が浅く、経済運営は当面試行錯誤が続きそうだ。他方、中銀総裁や財政相を含む多くの経済閣僚が留任となり、政策の継続性を重要視する方針がうかがえる。また、ここ数年で最大の機構改革も行われたが、ポイントは以下の3つだ。

1.「科学技術部」の選択と集中。同部が管轄していた産業政策や関連財政支出を各々の産業を管轄する機構に移管、同部の機能を基礎研究から成果の商業化支援に絞ることによって、挙国体制での技術立国に一層集中する。
2.データ利用の制度設計や一元管理を担う「国家データ局」を新設。データを巡る内外の分断が一段と進むことが懸念される。
3.既存の組織をベースに「国家金融監督管理総局」を新設。長引く住宅不況を背景に金融リスクの一元管理、消費者・投資家保護を一層強化する形となった。

中国経済が依然多くの下押し圧力に直面しており、特に落ち込みが続く住宅市場への対策が待ったなしの状況である中、全人代で決定された経済成長目標の達成状況や、新たに選出された政府の経済運営手腕を一層注視する必要がある。


コラム執筆:李 雪連/丸紅株式会社 丸紅経済研究所 シニア・アナリスト