欧米諸国は石油を対象に対ロシア制裁を強化
2023年の石油市場における不確実性の1つが、ロシアによる石油供給量だ。ロシアのウクライナ侵攻後、欧米諸国は対ロシア制裁として、ロシア産の原油や石油製品の段階的な禁輸を決めた。
ロシア産への依存度が高いEUでは、禁輸導入まで一定の猶予が設けられていたが、原油は2022年12月5日、石油製品は2023年2月5日にその期限が切れた(※1)。
また、G7とEU、豪州によるロシア産の原油および石油製品に対する価格上限措置も、各々EUの猶予期限切れと同じタイミングで導入されるなど、足元では欧米諸国による石油を対象とした対ロシア制裁が強化されている。
欧米の目的はロシアの石油収入の抑制
欧米のロシア産石油を対象とした制裁の目的は、ロシアの石油収入の抑制であり、輸出量の抑制ではない。
なぜなら、ロシアは石油の生産量、輸出量ともに世界の1割強を占めるため、同国からの輸出の急減は、石油の深刻な供給不足を招き、価格を高騰させる要因となりうる。これは、高インフレに悩む欧米諸国にとっても得策ではない。
原油60ドル、石油製品100ドルと45ドルという上限価格が意味することとは
G7やEUが導入したロシア産石油輸出に対する上限価格は、原油が1バレル当たり60ドル、石油製品が100ドルと45ドルである(※2)。この価格上限措置は、設定した価格を上回るロシア産の石油輸出に対して、用船や港湾利用などの船舶関連サービスや保険の提供を原則禁止するというものだ。
米財務省によると、世界の海運に関連した保険や再保険の約9割は、G7に拠点を持つ企業が提供しているとされる。ロシア産の石油輸入に制限のない国であっても、上限価格を超える輸送に対しては、制裁導入国による海運サービスの提供が受けられなくなる。輸入国がロシア産を上限価格以下で購入し、ロシアがそれを受け入れれば、石油市場を過度にひっ迫させることなく、ロシアの歳入を抑制することができる。
もっとも、この思惑はロシアが輸出を許容できる価格でなければ成立しない。そのため、上限価格はロシア産の原油や主要な石油製品の価格よりも高いレベルに設定された。原油60ドル、石油製品100ドルと45ドルという上限価格は、ロシアの歳入を制限しつつ、同国の石油輸出量を急減させないレベルを狙ったものだ。
今後の見通しが読めないロシア産の石油供給量
しかし、上限価格はまず3月中旬、それ以降は2ヶ月毎に見直されることになっている。市場価格次第ではあるが(※3)、この先はロシアが輸出を許容できる上限価格が維持されるのかは、不透明だ。また、インドやトルコ向けの輸出は増加しているものの、ロシアはウクライナ侵攻前に石油輸出量の約半分を占めていたEU向けの輸出減少分を、他の国にすべて振り向けることは難しいだろう(※4)。
さらに、ロシアは価格上限措置に対応するため、減産をいとわない姿勢を鮮明にしている(※5)。2022年12月27日に、プーチン露大統領が、価格上限措置を適用する国に対し、自国の原油と石油製品の輸出を禁止する旨の大統領令(※6)を出したことも重要だ。ロシアの石油輸出量は、同国の思惑1つで急減する可能性も残る。
これまで、EUにおける禁輸の猶予期間の存在や、制裁を導入していないインドや中国などへの輸出量の増加などから、ロシアの石油輸出量は概ね維持されてきた。また、ロシアは自国のサービスを利用することで西側の価格上限措置を概ね回避できるとしており、制裁の導入効果を疑問視する見方も少なくない。
しかし、欧米の対ロシア制裁の強化と、それに対抗するロシアの禁輸措置が導入される中、この先のロシア産の石油供給量を見通すことは、今まで以上に難しくなっている。
※1 パイプライン輸入は禁輸措置の対象外。また、チェコ、ブルガリア、クロアチアには追加の猶予期間が存在する。
※2 ガソリンやディーゼルなど原油価格に対して割高な製品は1バレル当たり100ドル、燃料油など割安な製品は同45ドルに設定。
※3 上限価格は、国際エネルギー機関が計算した市場価格を少なくとも5%下回る水準を維持するとしている。
※4 ウクライナ侵攻前の2022年1-2月におけるロシアの石油輸出量に占めるEU向けの割合は、原油と石油製品の合計で49%。(ロイター 2023年1月19日)
※5 露ノヴァク副首相「自国産の原油・石油製品への西側諸国の価格上限措置に対応するため、2023年初めに石油生産を5-7%削減する可能性がある」と発言。(ロイター 2022年12月23日)
※6 原油は2023年2月1日、石油製品はそれ以降の政府が定めた日から効力を持つ。
コラム執筆:村井美恵/丸紅株式会社 丸紅経済研究所