モトリーフール米国本社、2023年1月23日 投稿記事より
主なポイント
・ズーム・ビデオ・コミュニケーションズの株価は下落しているが、完全に終わったわけではない
・マクロ経済の大きな逆風にもかかわらず、テレビ会議のパイオニアは着実に増収増益を達成し続けている
・キャシー・ウッド氏の目標株価は奇抜に見えるかもしれないが、ズーム・ビデオ・コミュニケーションズの株価がここから急騰すると信じるに足る多くの理由がある
ズーム・ビデオ・コミュニケーションズは時代の寵児から一気に転落したが、これもいつか終わりが来る
2020年、キャシー・ウッド氏の銘柄選択は間違いないと思われていました。同氏が運用する上場投資信託(ETF)のアーク・イノベーションETFは1年間に149%も上昇し、同氏は一躍、ウォール街のスターとなりました。その後、ハイテクセクターの牙城が崩れ、かつては不死身と思われていた同ETFは急落し、現在では最高値から77%安の水準にあります。しかし、ひるむことはありません。同氏は最も破壊的で革新的な企業を買うという戦略を、これまで以上に積極的に推し進めています。同氏によれば、過去の弱気相場は、長期的視野を持つ投資家に素晴らしい機会をもたらしてきました。
ウッド氏にとって特に強気な銘柄の1つが、ズーム・ビデオ・コミュニケーションズです。同社はアーク・イノベーションETFの中で2番目に大きな保有銘柄で、ポートフォリオの約9%を占めています。ウッド氏はズーム・ビデオ・コミュニケーションズの2026年の目標株価を1,500ドルとしており、これは現在の株価から2,000%以上の上昇を意味します。さらに驚くことに、ウッド氏の強気シナリオの下では、ズーム・ビデオ・コミュニケーションズの株価は2,000ドルが見込まれており、これは2,700%の上昇に相当します。
果たしてズーム・ビデオ・コミュニケーションズは、経済再開後の後遺症と足元のマクロ経済の逆風を跳ね返し、奇抜とも思えるウッド氏の目標株価を達成することができるでしょうか。ここでは一歩下がって、広い視点で考えてみましょう。
誰もが認識している明白な事実
ウッド氏と、同氏が率いるアーク・インベストメント・マネジメントの投資チームは2022年半ばに、ズーム・ビデオ・コミュニケーションズに関する調査レポートを発表しました。当時はまだ、その後に待ち受けている経済的試練について十分に認識されていませんでしたが、それでもズーム・ビデオ・コミュニケーションズの株価は高値から70%も下落していました。残念なことに、大胆とも言える同レポートが発表された2022年6月8日から数日間で、同社の株価はさらに31%下落しました。
アーク・インベストメント・マネジメントはレポートの中で、ズーム・ビデオ・コミュニケーションズの株価は今後4年間の間に、年率76%で上昇する可能性があると書きました。2022年末時点の株価は31ドル強だったため、今からそのペースで上昇しても、2026年には300ドル程度にしかならず、ウッド氏の目標からは程遠い数字です。このことは、ウッド氏の目標株価が(今のところ)はるかに手の届かないものであることを示唆しています。
パンデミックで余儀なくされたロックダウンは、ズーム・ビデオ・コミュニケーションズの初期の成長を大きく後押ししましたが、その後、状況は劇的に変化しています。自粛要請はほぼ解除され、多くの企業が、リモートワークをしていた従業員に対してオフィスへの復帰を求め始めています。前年比の厳しいベース効果に需要の減退も重なり、ズーム・ビデオ・コミュニケーションズの業績は悪い方向に歪められています。
その上、ウッド氏の強気な主張の多くは、リモートワークやハイブリッドワークを取り入れる世界のナレッジワーカーが増加し続けるとの見方に依存しています。この点に関して、オフィス回帰の流れはマイナスです。これで望みが断たれるわけではありませんが、この傾向がズーム・ビデオ・コミュニケーションズの成長に重くのしかかるのは確実であり、ウッド氏の野心的なスケジュール通りに目標株価に到達するのは難しいと思われます。
基本情報のおさらい
この1年間、低迷しているように見えるズーム・ビデオ・コミュニケーションズですが、最近の業績について詳しく見てみましょう。
2022年度(2022年1月期)の売上高は前年比55%増の41億ドル、純利益は同105%増の13億8,000万ドルでした。ロックダウンやリモートワークを追い風に急成長したことで、翌年の前年比成長率は極めて厳しくなっています。
2023年度に関しては、ズーム・ビデオ・コミュニケーションズは苦境に立たされています。前年度に達成した急成長に基づく非現実的な期待だけでなく、マクロ経済の逆風を受けて企業が全体的に支出を控えていることも悪材料となっています。その結果、今年度第3四半期(2022年8-10月期)の売上高は、前年同期比でわずか5%増(為替の影響を除くと7%増)の11億ドルとなりました。顧客数の伸びは、同14%増に鈍化しました。
その一方、好材料としては、第3四半期の純利益は同86%減の4,840万ドルと大幅に落ち込みましたが、黒字を維持しています。これは、終わりの見えない赤字を生み出し続けている多くの中小ハイテク企業とは対照的です。
全体的な経済環境はズーム・ビデオ・コミュニケーションズにとって重石であり、ウッド氏の強気な目標株価を達成するのはますます難しくなると思われます。しかし、ズーム・ビデオ・コミュニケーションズ株を買いとする理由はまだあります。
成長の原動力
まず何よりも、業界をリードする地位があります。ズームは圧倒的なビデオ会議ソフトウエアであり、推計値にはばらつきがありますが、調査会社スタティスタによると、2022年の市場シェアは55%でした。これにより、ズーム・ビデオ・コミュニケーションズは新しい製品や従来製品を拡張した製品を、多くの既存顧客に販売することができ、既存顧客の顧客単価の増加につながります。
最近の革新的新製品としては、企業向けのクラウドベースの電話システムである「Zoom Phone」、営業ミーティングに実用的な洞察を提供する「Zoom IQ」、会議室でのビデオ会議やハイブリッド会議に利用可能な「Zoom Rooms」、ビデオコミュニケーション用に最適化された「Zoom Contact Center」などがあります。同社はオンライン会議ソフトウエアの機能を拡張し続けており、チャット、メール、カレンダー、電話、さらにはホワイトボードの機能などをプラットフォームに統合しています。
この戦略は功を奏しており、既存の企業顧客の売上高純増率が117%だったことからも明らかです。さらに重要なのは、過去12ヶ月間に10万ドル以上を同社に支払った顧客が3,286社あり、前年同期比で31%増加していることでしょう。つまり、最も収益性の高い上得意客のセグメントが、全体を上回るペースで成長しているのです。
さらに、世界のビデオ会議市場の市場規模は、2021年は62億8,000ドルでしたが、2030年にかけて年率12.5%で成長し、200億ドル近くに達すると見込まれています。市場のリーダーであるズーム・ビデオ・コミュニケーションズは、その成長の中で大きなシェアを獲得することができる優位な立場にあります。
株価は過去最低に近いバリュエーションで取引されており、株価売上高倍率(PSR)は約4倍となっています。株価がこれ以上下落しないとも言えませんが、ウッド氏の予想が現実味を帯びてくれば、ズーム・ビデオ・コミュニケーションズの株価はここから急上昇する可能性があります。
免責事項と開示事項 記事は一般的な情報提供のみを目的としたものであり、投資家に対する投資アドバイスではありません。元記事の筆者Danny Venaは、ズーム・ビデオ・コミュニケーションズの株式を保有しています。モトリーフール米国本社はズーム・ビデオ・コミュニケーションズの株式を保有し、推奨しています。モトリーフールは情報開示方針を定めています。