個人投資家が50万円未満で投資できる銘柄は増加傾向

どの株式も1株から購入できる米国株と違い、日本株は取引所で100株からの売買となる単元株制度を導入しています。1月23日時点で、株価が10,000円以上の東証上場株式は41銘柄あるので、41銘柄については現物で買い付けるために100万円以上の資金が必要ということになります。このうち32銘柄は株価が12,000円以上、つまり120万円以上の資金が必要ですので、現行のNISA制度の年120万円の投資枠を超えることとなり、NISAでの単元株の買付が不可能ということになります。

2024年から始まる新NISA制度では、「成長投資枠」として株式に年240万円の投資が可能になるので、多くの株式が買付可能になりますが、それでも9銘柄は株価が24,000円以上、つまり240万円以上の資金が必要ですので買付できません。もちろん、単元未満株での買付など方法はなくはないのですが、取引所での買付が可能な単元株が購入できないというのはやや面倒な話です。

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しかも、このような株価の高い銘柄は、株価の性格から必然ですが優良株が多く、たとえばソニーグループ(6758)、キーエンス(6861)、ファーストリテイリング(9983)、東京エレクトロン(8035)、信越化学工業(4063)が含まれます。この他にもダイキン工業(6367)、ファナック(6954)、SMC(6273)、シマノ(7309)、ニトリホールディングス(9843)などの優良株もすべて株価10,000円以上です。

アクティビストの活動も目立つ中、多くの上場企業では個人投資家に経営方針を理解してもらい、株主層となってほしいという考えは強そうです。東京証券取引所でも投資単位の引き下げに取り組んでおり、5万円以上50万円未満で単元株に投資できるように取り組んでいます。東証の取り組みは功を奏しており、東証上場で単元価格が50万円を超える銘柄は2005年ころには30%程度でしたが、2022年9月末では5%を切っているとのことです。

【図表1】東証発表の「上場会社の投資単位の推移」
出所:東京証券取引所ウェブサイト

ファーストリテイリングが株式分割を発表した背景

そうした中、単元価格が高い銘柄の代表であったファーストリテイリングが株式分割を発表したことが注目を集めています。ファーストリテイリングは企業の成長に伴い、高株価が続いています。同社の1月23日の終値は77,450円ですので、100株を買うには774万5千円必要となり、個人投資家には手が遠いです。それもあってファーストリテイリングの株主数は6,000人程度にとどまります。「洋服の青山」の青山商事(8219)の株主数が20,000人以上、ライトオン(7445)の株主数が50,000人以上であることを考えると、いかにも少ない水準でした。

そのファーストリテイリングが2002年以来、実に20年ぶりの株式分割を2022年12月に発表し、2023年2月末をもって1株を3株に分割します。1月23日の株価77,450円を3分割しても分割後の株価は25,000円強ということになります。引き続き個人投資家から手が遠いことに変わりはないものの、だいぶ身近な存在になることも事実です。同社は株式分割について「株式の流動性をさらに高め、当社株式を保有される投資家層の拡大を図ることを目的としております」と述べています。この文言をそのまま受け取れば、個人投資家の拡大を意図していると考えても良さそうです。

2022年には同じく高株価の代表と言えた任天堂(7974)が1株を10株に分割しています。1月23日終値の任天堂の株価は5,535円なので、100株買うには約50万円と個人投資家にも買いやすい水準です。それが、分割前だと500万円を超えていたわけですから、だいぶ買いやすくなったと言えそうです。任天堂の株主数は分割前で約35,000人です。ソニーグループの株主数はその10倍ほどですので、ソニーグループの時価総額が任天堂の2倍であることを考えると少なすぎると言ってもいいでしょう。

「Switch」を開発する任天堂や「ユニクロ」で有名なファーストリテイリングのような日本を代表する企業に個人投資家が投資しにくいのは悲しい状況ですし、任天堂の10分割は英断のように思います。2023年3月末の任天堂の株主数が分かるのが楽しみです。

単元価格によって株主数に大きな変化が

こういった動きの背景には2021年のトヨタ自動車の株式分割がありそうです。トヨタは同時期に1株を5株に分割しました。直近トヨタの株価は2,000円前後で推移しているので、もともとは5倍の10,000円、つまり100株買うのに100万円必要だったのが、現在は20万円で買えるということになります。

分割前(2020年3月末)のトヨタの株主数は約46万人でしたが、2022年3月末には約75万人と大きく増加しています。実はトヨタの株主数は2010年3月末で約62万人でした。その頃の株価は3,000円ほど、つまり30万円で買える株でした。しかし、2015年3月末には6,700円、つまり60万円以上が必要になります。もともと保有している株主からしたら株価が倍になったわけです。このとき、株主数は約47万人と、2010年3月末から15万人以上も減っています。単元価格が上がるにつれて、個人の買い手は減り、売り手が増えることが如実に現れています。

【図表2】トヨタ自動車の単元価格と個人株主数、個人所有比率の推移
出所:トヨタ自動車の有価証券報告書をもとにマネックス証券作成

上記のように単元価格の推移が株主数に大きな影響を与えることは明らかと言えそうです。そしてトヨタの株価は2021年の株式分割時期に大きく上昇しています。トヨタ株は上記の株主数の推移から分かるように2012年から2015年にかけて大きく上昇したものの、それ以降は低迷が続いていました。しかし、2021年には大きく上昇し、2022年3月には過去最高値を記録しています。

【図表3】トヨタ自動車の20年チャート
出所:マネックス証券(2023年1月24日時点)

もちろん、同時期は株式全般が好調だったと言えそうです。しかし、10年間のチャートを比較してみると、2016年以降TOPIX(赤色)に劣っていたトヨタ自動車株(青色)は2021年10月のちょうど株式分割時期にTOPIXのパフォーマンスを上回っていることが分かります。その頃、日産自動車(7201)、本田技研工業(7267)、マツダ(7261)のパフォーマンスがよかったわけでもないのです(図表4参照)。

【図表4】トヨタ自動車とTOPIX、日産自動車、本田技研工業、マツダの10年比較チャート
出所:マネックス証券(2023年1月24日時点)

また、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、業績予想を出していなかった時期がありますが、PER(株価収益率)とPBR(株価純資産倍率)の観点で見ても、トヨタ自動車のPERは分割前後で上昇しており(つまり株価が利益に対して上昇)、PBRも2021年には上昇傾向(つまり株価が資産に対して上昇)だったことが分かります。もちろん、コロナ禍やトヨタ自動車自体への評価も影響していますから一概には言えませんし、事実PBRは直近で下落傾向です。しかし、2年間で個人株主が30万人増えているのですから、一定の株価の上昇要因になったことは間違いないでしょう。

【図表5】トヨタ自動車のPER推移(予想ベース)
出所:マネックス証券「銘柄スカウター」(2023年1月24日時点)
【図表6】トヨタ自動車のPBR推移(実績ベース)
出所:マネックス証券「銘柄スカウター」(2023年1月24日時点)

ファーストリテイリングの株式分割は2月末に予定されています。これは同社が2月末決算のためです。今後、3月末決算に合わせた分割発表などもありそうです。同社の分割発表直後の株価推移は軟調でした。しかし、一定の個人の買付も考慮できる高株価銘柄の分割を考慮した投資は注目できるように思います。