「自分の目利きで選んだ銘柄で、大きな資産を築きたい」と考えている人は多いのではないでしょうか。そこで今回は、中学2年生の時に40万円を元手に株式投資を始め、日本のバリュー株投資で資産を1,000倍以上に増やしたベテラン個人投資家のかぶ1000さんに、累積利益5億円達成までの道のりや、銘柄選びのコツ、資産バリュー株投資にこだわる理由、これから投資を始める人へのアドバイスなどをうかがいました。
 
●かぶ1000さんプロフィール●
岐阜県在住40代。専業投資家歴30年以上の大ベテラン。Twitterのフォロワーは21万人(2023年1月現在)を超え、個人投資家の間で絶大な人気を誇る。投資スタイルはPMV(事業家的市場価値)とカタリストを重視したネットネット株、資産バリュー株がメイン。株主資本成長率を最も重視している。著書『賢明なる個人投資家への道』『貯金40万円が株式投資で4億円〜元手を1000倍に増やしたボクの投資術』(どちらもダイヤモンド社)がある。

高校2年で1,500万円まで資産を増やすも200万円に激減

――かぶ1000さんが投資を始められたきっかけを教えてください。

恥ずかしながら実家が裕福ではなかったので、幼い頃からおこづかいやお年玉は、なるべく使わずに貯金していました。当時は郵便貯金の金利が7%あり、10年定額貯金の金利が11%あった時代でした。そのお陰もあって、郵便局に預けていた定額貯金は順調に増えていき満期になる頃には40万円まで増えていました。ところが、中学2年生となる1988年になると預金金利が1%台半ばに下がってしまったのです。少なからず衝撃を受け、もっと金利のいいものはないか…と探していました。ちょうどその頃、祖母が営む喫茶店に置いてある新聞で利回り30%の投資信託があることを知り、「これを買おう!」と思いました。

とはいえ、どこで投資信託を買えるのかもわからない(笑)。そこで以前から株式投資をしていた祖父に「投資信託を買いたいんだけど…」と相談したら、「投資に興味があるなら、自分で『これだ』という個別銘柄を見つけて勝負してみたらどうだ?」と言われ、個別株に投資することにしました。

――初めて投資した銘柄について教えてください。

最初に投資したのは、日之出汽船(現在は日本郵船の子会社)です。ファミコンゲームが大好きだったので、本当は任天堂に投資したかったのですが、当時は1単元が1,000株の時代。株価が1株8,000円以上だったので800万円以上のお金が必要ですから、元手40万円しかない僕にはとても買えなかった。次に、その頃は愛知県に住んでいたこともあり、地元の有力企業を応援したいと思い、トヨタ自動車(7203)の株を買おうと考えましたが、任天堂同様に株価が高かったため資金不足のため手が出ませんでした。

自分なりにいろいろ考え、「島国の日本はモノを輸出するにも輸入するにも船が必要だ。日本経済が伸びれば、海運会社の株も上がるはずだ」と考え、日之出汽船を買いました。その次に買ったのは、日本発条(5991)という自動車のバネの会社です。トヨタの株は買えなくても、そこに部品を納める会社なら買えるかもしれないと思って探した銘柄です。

――1990年代初頭のバブル崩壊の影響は受けられませんでしたか?

僕が株に興味を持った1987年に、ブラックマンデーと呼ばれる世界的な株価暴落がありましたが、日本の株式市場と経済は、その落ち込みからいち早く立ち直りました。その時に「日本の経済と株価は強い」と実感しましたね。

初めて買った日之出汽船は買った翌日にストップ高になるなど、ビギナーズラックとバブル景気のおかげで、中学3年のときには株式資産が300万円になり、その後も増え続けました。当時子どもながらに「株式投資でお金を増やすことできる!」と感じ、学校の勉強そっちのけでのめり込んでいきましたね。

日経平均株価は、1989年をピークに下落トレンドになりましたが、当時「店頭株」と呼ばれていた小型株市場は、その後も高値を更新していました。資金が増えると買える株の選択肢も増えますので、僕も資金を小型株に移行し、投資を続けた結果、高校1年で1,000万円、高校2年で1,500万円まで資産を加速度的に増やすことができました。

ところが、1990年8月にイラクによるクウェートへの侵攻後、株価が暴落し、1992年には僅か200万円まで資産が減ってしまいました。その時に僕は「株で、こんなに損をすることもあるんだな」と痛感しました。

――学生時代に大きな資産を築かれたわけですが、どのようにして一般的な金銭感覚を身につけたのでしょうか?

高校生の頃は、金銭感覚がおかしくなっていたと思いますよ(笑)。1日で100万円儲かった時もあり、同じクラスメートを連れて私の奢りでご飯を食べに行ったりもしました。

金銭感覚は、失敗から学ぶことが多いと思います。僕自身も高校時代に暴落を経験したことをきっかけに株式投資のやり方を見直すことを決意。そういったこともあって、高校卒業後は会計の専門学校に進学しました。

かぶ1000さんの投資年表

出所:マネクリ編集部作成
1988年 中学2年生、定期預金で貯めていた40万円を元手に株式投資を開始
1989年 バブル絶頂で日経平均株価が史上最高値を更新、中学3年生で資産額300万円
1990年 店頭株の高騰により高校2年生で資産1,500万円に増加
1992年 湾岸戦争の影響で店頭株も暴落。資産は200万円に激減
1998年 アジア通貨危機による株価急落を投資チャンスと捉え、バリュー株投資を開始
2000年 ベンジャミン・グレアムの『賢明なる投資家』(パンローリング)を読み、バリュー株投資の研究を深める
2004年 当初目標としていた累計利益3,000万円を達成
2011年 東日本大震災後、急落した東京電力(9501)株を購入。その後の株価上昇で、累計利益1億円を突破
2013年 日本商業開発(現社名:地主)(3252)株で、初のテンバガーを達成。累計利益2億円を突破
2016年 累計利益3億円を突破
2017年 年間の運用利回りが初めて指数に負けたことを機に投資戦略を見直す
2019年 累計利益4億円を突破
2022年 累計利益5億円を突破
出所:マネクリ編集部作成

日本のバリュー株投資にこだわる理由

――その後、ずっと日本の個別株のみに投資されているのでしょうか?

外国株にも投資したことはあります。ただ、僕は日本の資産バリュー株に投資し、なるべく会社の現場を視察してから投資するようにしています。外国株の場合は、それができませんし、割安な株も多くはなく、投資対象を探すのが難しい。そういった理由で、日本株に投資しています。

――投資先を探す上でのポイントは?

僕は日常生活でも、「価値」に対して割安なものに投資することを重視しています。自分で会社情報を調べ、「お値打ち」「お買い得」と思える会社の株式を買っています。株価が上がるかどうかは二の次。いいものを買えば、いずれ必ず価値がついてくると思っているからです。

それに、経済の先行きを正確に予想するのはとても難しく、例えば、2020年春に新型コロナ感染拡大によって世界経済が混乱することも、株価が暴落することも、こんなに早く回復することも予測できた人はいないでしょう。

将来は予測できない。そのため、いま持っているポテンシャルや資産、営業力、ノウハウなど、その企業の総合的な評価と時価総額を比べて、「これだけの資産を持っていて、これだけの収益を上げられる会社なら、この時価総額は安い」と考えられる会社に投資しています。時価総額と企業価値のギャップの大きいところが大前提です。

5億円達成を導いた投資戦略

――2022年11月に累積利益5億円を達成されたそうですね。現在、実践されている投資戦略について教えていただけますか。

2017年に現在の投資戦略であるコアとサテライト戦略を新たに採用しました。その年、グロース株が上がり、僕の年間の運用利回りが初めて指数(日経平均)に負けてしまったのです。僕の運用利回りが15.2%だったのに対し、日経平均は19.1%。「これは問題だ!」と思って投資戦略を見直すことにしました。指数に負けるぐらいなら、単純に指数を買ったほうがいいことになってしまいます。この課題を解決するために、コア・サテライト戦略を取り入れました。

サテライトでは、スキャルピングやスイングトレードなど短期的に利益が得られそうな事象があった時に回転売買や、同じ銘柄を繰り返し売買することで利鞘を稼ぐ戦略。コアでは、従来通りの資産バリュー株に投資する戦略です。メインが資産バリュー株投資であることに変わりはありません。

 出所:かぶ1000さんブログ「かぶ1000投資日記」(2022年11月11日掲載)より

――バリュー株投資をメインに実践している理由を教えてください。

バリュー株はいくつかのメリットがあると考えていて、株価変動率が低い場合が多く、そのためより多くの資産を株式で保有できるメリットがあります。また、資産バリュー株は株価が割安なためMBO(マネジメント・バイアウト)やTOB(株式公開買付)の期待も持てます。またバリュー株は注目している人が少ないからバリュー株になるのであり、仮に悪材料が出たり、業績予想が未達となっても、もともと株価が割安のため大きく下落するリスクが低いというメリットがあります。

ちなみに、スキャルピングは信用取引のみ、スイングトレードは現物取引と信用を併用しています。最近は、スキャルピングはやっていません。

信用取引では、建玉の単価ごとに損益を計算できます。つまり、現物取引では取得単価が平均化されるのに対し、信用取引では取得単価がそのまま残ります。そのため、取得単価が高いものから売却して、取得単価が低いものを残すことができる。信用取引で買建てて、取得単価が低く、「長期で持ってもいいな」と思えるポジションは、現引き(現金を渡して、株式を引き取る決済方法)することもあります。なお、サテライトは、資産全体の1~2割程度におさえるようにしています。

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※本インタビューは2022年12月7日に実施しました。
※本内容は、個人の経験に基づく見解であり、当社の意見を表明するものではありません。
※投資にかかる最終決定は、お客様ご自身の判断と責任でなさるようにお願いいたします。