過去2年間で、米ドル/円相場は一時50円程度の上昇となった。こうした急激な上昇は「米ドル高」と「円安」の双方の要因に支えられてきた。主要10通貨の2021年初めから、米ドル/円がピークをつけた10月半ばまでのパフォーマンスを見ると、最強通貨となっている米ドルは2番目に強い加ドルに対しても11%程度上昇している。

一方、最弱通貨となっている円は2番目に弱いスウェーデン・クローナに対しても6%程度下落している。スウェーデン・クローナも円同様弱いため、円の弱さがわかりにくいが、円は3番目に弱いNZドルに対して15%も下落している。

2023年を見通すと、米ドル高、円安双方の要因に変化が生じる可能性がある。その結果、今後は米ドル/円相場の上値が重くなり、緩やかな下落トレンドを続ける可能性が考えられる。

中長期的な「米ドル高の反落基調」が始まっている可能性

2023年3月にFRBの利上げは終了か

まず、「米ドル高」の要因について見ると、特に2022年に入ってからの米ドルの上昇は、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ期待の高まりによって支えられてきた。米ドルはFRBの利上げに沿って上昇するのではなく、利上げ期待が高まっている時に上昇する傾向が強い。それゆえ、市場が利上げを織り込んでしまえば、それに沿ってFRBが利上げを行っても米ドルは上昇せず、逆に利上げ期待が一定水準で止まると、ドルは反落する傾向がある。

市場はFRBが2023年前半に向けて、さらに100bp利上げを行うことを織り込んでいるが、J.P.モルガンの米国エコノミストは短期間での急激な利上げが金融環境を引き締め、米国経済は2023年後半にマイルドな景気後退に陥ると予想している。したがって、FRBの利上げは2023年3月で終了し、ターミナルレートは市場が織り込む5.0%となると予想している。こうした見通しが正しければ、米ドル高基調はすでに終了し、中長期的な反落基調が始まっている可能性が高くなる。

イールドカーブの形状も、こうした見方を裏付け始めている。米国債3ヶ月/10年のイールドカーブは、逆イールドになったまま戻らなくなっている。80年代後半以降、3ヶ月/10年のイールドカーブが逆転するタイミングではFRBの利上げは終了している。

また、過去の経験則上、FRBの利上げ局面ではターミナルレートがコアCPI前年比を上回っている。しかし、J.P.モルガンのエコノミストは2023年4〜6月期には米国のコアCPI前年比が5%を下回るところまで鈍化すると予想している。つまり、コアCPI前年比の方が低下して、ターミナルレートを下回る予想となる。

貿易赤字拡大の中、米ドル高を歓迎しない流れも

また、米ドルが割高となっているのも事実だ。米ドルは実質実効レートで見て、過去30年間の平均より20%程度割高で、1985年9月のプラザ合意前の水準までに、あと5~6%程度のところまで上昇している。米国が米ドル高懸念を表明する段階まではまだ遠いと考えられるものの、今後インフレ率が実際に大きく鈍化してきた場合、すでに貿易赤字拡大が顕著な中、米ドル高を歓迎しなくなる可能性もある。

短期的にでも、円安の流れを止める要素と考えられるもの

一方、円安の方も変化の兆しが現れている。円の弱さは急増する貿易赤字と世界との短期金利差といった構造的要因があるため、長期的な円安傾向が反転すると予想するのは難しい。しかし、ここから特に2023年前半の円相場を見通す際、短期的にせよ、それなりに円安の流れを止める可能性となる要素が見られ始めているのも事実だ。

消費者物価と賃金の上昇が円の買い戻しを誘発するか

一つは日銀の金融政策変更に対する思惑だ。日本の生鮮食品・エネルギーを除いたコアCPI前年比は+2.5%まで上昇し、消費税増税の影響を除くと、1992年以来30年ぶりに2%台に乗せた。物価上昇は広範に及んでおり、米国同様、食品・エネルギーを除いたベースでも前年比+1.5%まで上昇している。企業物価指数はすでに9%前後の上昇となっており、これまでコスト上昇を吸収してきた企業は徐々に消費者にコスト上昇分を転嫁し、その結果、日本の消費者物価が予想以上に上昇する可能性がある。

また、日本経済が新型コロナウイルス感染拡大による停滞を脱し、徐々に再稼働を進める中、賃金も堅調な伸びを示すようになっている。2022年7〜9月期の現金給与総額は前年比+1.7%上昇し、コロナ前の3年間の平均水準である同+0.6%を大きく上回っている。

こうした状況は日銀の金融政策変更の可能性に対する思惑を高め、円の買い戻しを誘発しやすくするだろう。

インバウンドの増加による円買いの可能性

また、インバウンドの増加はインフレと賃金の両方を押し上げ、さらに実際に円買いフローの増加にも繋がる。今や日本の賃金水準はOECDの中でも20番目程度の高さで、米国の平均賃金は日本の2.5倍にもなる。こうした購買力の非常に高い人々が大挙して日本を訪れれば、観光やサービス関連セクターの雇用は一段と逼迫し、賃金は上昇し、物価をさらに押し上げることになるだろう。

新型コロナ感染拡大前の2019年には3200万人が日本を訪れ、約5兆円の円買いを行った。円を大きく上昇させるにはインパクトに欠けるかもしれないが、それなりに円安の流れを食い止める可能性はある。

構造的な円の弱さは深刻、クロス円での円安基調は変わらずか

もっとも、繰り返しになるが円の構造的な弱さはかなり深刻であり、大幅な円高方向への修正は見込めないだろう。むしろ今後、日本は液化天然ガスなどの輸入に支障をきたし、エネルギー危機のような状況に陥ってしまうリスクもある。そうなれば、貿易赤字が一層拡大し、円安圧力を高めてしまうかもしれない。

また、日本の銀行が外貨建て貸出しを急増させている点も気になる。場合によっては、90年代後半のジャパンプレミアムと同じようなことが起きかねない。したがって、仮に米ドル安で米ドル/円相場が下落基調に入ったとしても、クロス円での円安基調は変わらないであろう。