2023年の日本株相場を展望する。

まずマクロ環境の想定から始めたい。2022年に世界経済の大きな問題としてクローズアップされたインフレは、完全には収まらないものの、物価上昇の伸び率という点ではピークアウトが明確になるだろう。その理由として、

1)前年の既に高くなった水準と比較するベース効果

2)コロナ禍で生じた供給制約の一部改善

3)これまでの金融引き締めによる需要抑制

が挙げられる。緩やかなインフレの沈静化を受けて世界の金融引き締めのペースは減速に向かい、米国の長期金利も低下するだろう。このような金融環境は株式相場にとってのプラス要因である一方、景気後退の懸念が高まっており、「世界景気敏感株」とされる日本株にとっては悪材料となる。ただし、前述の通り、供給制約の一部改善やこれまでの金融引き締めによる需要鈍化などによって、エネルギーや金属、コンテナ船の運賃などの市況価格は一時の高値から相当程度調整している。これらは企業業績にとってコスト改善の要因として働き、景気減速による減収というマイナス面をある程度相殺するだろう。

為替レートについては、FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げ減速、さらには利上げ停止が予想されることからこれ以上の円安進行は想定しにくい。一方、日本では日銀総裁人事にかかわらず日銀の金融政策はYCC(イールドカーブ・コントロール)の微修正程度にとどまり大きな変更は当面ないだろう。従って、日米金利差はすぐには大きく縮小せず円高への巻き戻りも限定的だろう。ドル円相場は130円台~140円台程度のレンジでの推移を想定する。企業の想定為替レートはドル円で138円程度とみられ、業績に与える影響はニュートラルだろう。国内ではウイズ・コロナの生活が定着し、内需産業は堅調にビジネスを展開するだろう。

これまで見たように、世界景気の減速、コスト増の一服、為替レートの影響中立、国内景気堅調という仮定をおけば、2023年度の我が国上場企業の業績は全体としては22年度対比横ばいで、日経平均の予想EPS(1株当たり利益)を2400円と予想する。日本株のPER(株価収益率)は世界的な利上げ打ち止めによって上昇することが期待される。来年の日経平均のPERは過去10年間の平均並みの14倍に戻るだろう。強含む局面では15倍程度もあり得るだろう。よって日経平均の上値目途は32200円-34500円とする。

*中間決算終了段階で、日経平均の予想EPSは2200円強だが、これが4-12月期決算そして3月本決算で上方修正され、最終的に22年3月期は2400円で着地すると想定。

需給面では近年売り越し基調が続いてきた海外投資家の日本株回帰が期待される。IMF(国際通貨基金)の世界経済見通し(22年10月)によれば、23年も成長率横ばいを保つのは先進国で日本だけだ。世界景気が減速に向かう中、日本の景気の底堅さは海外投資家の資金を引き付ける要因になるだろう。円安が止まる見通しであることもタイミング的に海外投資家の日本株投資を後押しするだろう。検討されているNISA(少額投資非課税制度)の拡充、継続的な企業の自社株買いも需給面のプラス材料だ。

2023年最大の不透明要因としては中国の政情不安が挙げられる。コロナ政策への抗議活動が異例の盛り上がりを見せたが、これが果たして一時的なもので収まるのか、あるいはより大きな民主化、反政府の動きへと発展するか予断を許さない。またそうなった場合、3期目に入った習政権の対応も気がかりである。台湾問題も含めて、2023年は中国の動向がこれまで以上に相場のリスクファクターとして意識されるだろう。ただし、これは悪材料ばかりではなく、グローバル投資家の中国離れを助長し、日本がその受け皿として選択肢になる可能性もある。かつて日本の魅力度が低下し、グローバルマネーが日本を素通りして成長著しい中国に向かった時は「ジャパン・パッシング」と言われた。今度はその巻き戻しが始まるかもしれない。また、最近の報道によれば中国政府は厳格なコロナ政策の見直しを検討しているという。中国がコロナ政策を見直せば世界景気にとっても、無論、日本企業の業績にとってもポジティブである。

上振れシナリオとしては相場サイクルが早期に金融相場入りする可能性が挙げられる。FRBが金融緩和に転じるのはまだ当分先と想定しているが、米国景気の先行き次第では23年後半に「予防的緩和」に転じる可能性もあり、その場合は「不景気の株高」の様相が色濃く出るだろう。また、その逆もあり得る。米国景気が粘り腰を見せ、それほど景気が悪化しないというシナリオである。すでにISM製造業景気指数は拡大・縮小の境である50を下回り企業の景況感で測れば米国は不況に突入している。ただし、同指数の50割れは通常の不況では(つまりリーマンショックなどの超ド級の景気後退でなければ)6ヶ月未満に収まるのが過去のパターン。今回、景気減速を招いている要因である利上げが減速・停止に向かえば景気減速そのものも止まってくるだろう。意外に景気の底が浅く、早い底入れ~回復となる可能性も捨てきれない。なにしろ労働市場が堅調で、これは構造変化によるところも大きく、過去の景気後退局面で見られたような失業率の上昇は今回はないかもしれない。そうなると「景気後退」という認定がなされない、ただの「景気減速」で乗り切ってしまうシナリオは充分あり得るだろう。

いずれにせよ、景気減速のなか利上げの打ち止め、さらにその先の金融緩和期待で上げる相場になる。いわゆる「不景気の株高」である。

23年の有望セクターとしては、FRBの利上げ停止・長期金利の低下をメインシナリオとすれば22年に金利上昇で売られたグロース株の戻りに賭ける戦略に妙味があるだろう。加えて、世界景気減速に対する安全策として内需ディフェンシブ・セクターも有望だ。この両セクターへの投資は分散効果の点からも魅力的だと考える。