米ドル安・円高はどこまで続くのか

11月以降、米ドル/円の様相は一変しました。それまでの米ドル高・円安から米ドル安・円高へ大きく転換したわけです(図表1参照)。では、この米ドル安・円高はどこまで続くのか。結論を言うと、特に以下の2点に注目しています。1つは、ポジション調整の米ドル売りは年内で一巡するか、もう1つは米ドルの短期的な「下がり過ぎ」拡大がどこで一服するか、ということです。

ポジション調整の米ドル売りはいつまで続くか

11月以降、米ドル安・円高に大きく動くきっかけとなったのは主に2つ。1つは11月10日の米10月CPI(消費者物価指数)発表で、140円台後半で推移していた米ドル/円はほんの数日で140円を割れるまで急落しました。そして2つ目のきっかけは11月30日のパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長の発言。米ドル/円は139円台から12月2日には一時133円台までの急落となりました。

【図表1】米ドル/円の週足チャート (2022年1月~)
出所:マネックストレーダーFX

このように米ドル安・円高が急拡大した中での大きな特徴は、米金利とのかい離でした。10月まで記録的なペースで展開した米ドル高・円安は、インフレ対策の米利上げ、それに伴う米金利上昇とほぼ重なって推移しましたが、11月以降の米ドル安・円高は米金利から大きくかい離したものだったのです(図表2参照)。では、米金利で説明できない米ドル急落をもたらしたのは何だったのでしょうか。

【図表2】米ドル/円と米2年債利回り(2022年3月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

それは、ポジション調整の米ドル売りの影響が大きかったと思われます。例年、11月から年末にかけてはポジション調整が入る傾向があります。2022年の場合は、10月まで記録的ペースの米ドル高・円安が展開し、その中で米ドル買い・円売りは最も大きな利益を上げた取引の1つと見られました。このため、米ドル買い・円売り取引が膨らんでいたと見られることから、そのポジション調整は米ドル売り・円買いになると考えられます。

このようなポジション調整の米ドル売り・円買いは、米ドル/円の上値を抑えるとともに、上述のように11月以降何度か米ドル安・円高が加速する局面では、少しでも高いところで米ドルを売ろうとして、米ドルを売り急ぐ動きがさらに米ドル安・円高を加速させた可能性があったと考えられます。

以上のことから、米ドル安・円高の急拡大が一段落する1つの鍵は、ポジション調整の米ドル売りがいつ一段落するかということでしょう。それについて、一年前のケースを参考に考えてみましょう。

2021年秋以降米ドル買いのポジション調整が進んでいた可能性

ヘッジファンドの取引を反映するとされるCFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円ポジションを見ると、2021年の米ドル買い・円売りは11月初めにピークを打って、年末にかけて縮小に向かいました(図表3参照)。まさに、11月以降、米ドル買いのポジション調整が進んだ可能性を示していました。

しかし、そんな米ドル買い・円売りポジション縮小は2021年末で一巡し、2022年の年明け以降は再び拡大に向かいました。2021年11月末に、パウエル議長は「インフレは一時的とのこれまでの見解を撤回する」と発言し、インフレ対策の利上げを進めるタカ派への傾斜を強めました。こうした中で、越年前のポジション整理は教科書通りに年末で一巡し、年明けからは米金利上昇を手掛かりとした米ドル買い再開になったと考えられます。

【図表3】CFTC統計の投機筋の円ポジション (2021年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

2023年の年明け以降は米金利上昇を手掛かりとした米ドル買いが再開する可能性

CFTC統計の投機筋の円ポジションを見ると、2022年の場合も、米ドル買い・円売りは1年前とほぼ同じタイミングである10月末でピークを打って、その後は縮小する動きとなっています。これを見ると、基本的には越年前のポジション整理の動きと考えられ、今のところ米利上げが年明け後も続く見通しとなっていることからすると、教科書通りならその動きは年内で一段落し、年明け以降は米金利上昇を手掛かりとした米ドル買いが再開する可能性があるでしょう。

米ドルの短期的な「下がり過ぎ」

1998年の円安から円高へのトレンド転換から分かること

最近にかけての米ドル安・円高はいつまで続くかを考える上で、次は相場水準などが今回と似ている1998年の円安から円高へのトレンド転換のケースについて検証してみたいと思います。

1998年は、8月に147円で米ドル高・円安が終了すると、その後はほんの1ヶ月で130円を割れるまで、一気に20円近くも米ドル安・円高へ大きく動きました(図表4参照)。今回はこれまでのところ、10月の151円から1か月余りでやはり20円近くも米ドル安・円高となっているわけですから、両者のプライス・パターンは似ていると言っていいでしょう。ところで、1998年の場合、9月に入り130円割れで米ドル急落は一息つくところとなりましたが、その一因は米ドルの短期的な「下がり過ぎ」だったのではないでしょうか。

【図表4】1998年の米ドル/円の推移
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

米ドル/円の90日MA(移動平均線)かい離率はマイナス10%前後に拡大すると、短期的な「下がり過ぎ」懸念か強くなります(図表5参照)。1998年9月にかけて、米ドルが一時130円割れまで急落する中で、同かい離率は終値ベースでマイナス7%程度まで、ザラ場ベースではマイナス8%以上に拡大しました(図表6参照)。以上のことから、1998年に円高トレンドに転換した直後の米ドル急落が一巡したのは、米ドルの短期的な「下がり過ぎ」懸念が一因だった可能性があるでしょう。

【図表5】米ドル/円の90日MAかい離率 (1995年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成
【図表6】米ドル/円の90日MAかい離率 (1998年)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

2022年12月の米ドル/円は130円の大台を割れるかが大きな分岐点

さて、米ドル/円の90日MAは、12月2日現在で141.6円程度ですから、この日一時133円台まで米ドルが急落したところでは、同かい離率はマイナス5%以上に拡大したと考えられます。その上で、目先において130円に向かうようなら、同かい離率はマイナス8%程度まで拡大し、短期的な米ドル「下がり過ぎ」懸念が一段と拡大する可能性がありそうです。

12月は、米11月CPI発表や12月FOMC(米連邦公開市場委員会)が、年内最後の注目イベントとなりそうです。それまでに米ドルの短期的な「下がり過ぎ」がさらに拡大し、130円の大台を割れるかが大きな分岐点ではないでしょうか。年明け以降、米金利上昇を手掛かりとした米ドル買い再開となるかは、130円割れを回避し、パニック的な米ドル安・円高が安定を回復できるかが目安と考えられます。

以上を踏まえると、12月の米ドル/円の予想レンジは、130~137.5円で想定したいと思います。