1998年と今回の類似と相違
米ドル安・円高はどこまで広がるか
先週の米ドル/円は、注目された10日発表の米10月CPI(消費者物価指数)の対前年上昇率が予想を下回ったことをきっかけに、米金利が大きく低下したことに連れた形で下落が広がると、週末には一気に138円台まで一段安となりました(図表1参照)。では、この米ドル安・円高はどこまで広がるかについて、円安トレンドが終わると一転して円高へ急転換となった1998年のケースとの比較で考えてみたいと思います。結論を言うと、今回は1998年とは異なり、円高の拡大には自ずと限界があるのではないかと考えています。
類似点:米ドル/円の水準と米ドル/円の5年MA(移動平均線)かい離率
1998年は、長く続いた米ドル高・円安が147円で終わると、その後は約2ヶ月で110円割れ近くまで激しい米ドル安・円高の動きとなりました(図表2参照)。これまでのところ、今回の円安は10月の151円で終わった可能性が出ています。では、1998年のようにこのまま短期間で110円程度まで米ドル/円の急落は拡大に向かうのでしょうか。
今回と1998年は米ドル/円の水準もよく似ています。単に為替相場の水準だけでなく、例えば米ドル/円の5年MA(移動平均線)かい離率は、今回一時150円を超えて米ドル高・円安が進んだ中でプラス30%以上に拡大しましたが、1998年も同様でした(図表3参照)。
要するに、1998年は、記録的な米ドル「上がり過ぎ」の反動が、その後米ドル急落をもたらした一因と考えられたわけですが、その意味では、そんな1998年と同様に記録的な米ドル「上がり過ぎ」となった今回も、その反動から米ドル急落が広がるリスクは要注意ではあるでしょう。
1998年も今回も、記録的な米ドル「上がり過ぎ」が拡大する中で、米ドル買い・円売りは利益率の高い取引として急増したと考えられます。1998年の場合は、そんな米ドル高・円安が終了すると一転して米ドル安・円高に急激に振れたことから、米ドル買い・円売り取引で含み損が膨らんだケースも少なくなかったと思われます。そうした取引の損失確定の米ドル売りが米ドル急落を一段と広げる一因になったと見られました。
今回の場合も、10日のCPI発表からほんの2営業日で約8円もの米ドル急落となったので、含み損を抱えた米ドル買いポジションを保有したままの投資家は残っている可能性はあります。そういったポジションの手仕舞いに伴う米ドル売りが、米ドルを続落させるリスクに注意は必要でしょう。
それにしても、1998年の場合は、8月から9月にかけて147円から130円台までが米ドル急落の第一波、そして第2波は10月に起こったのですが、その1つのきっかけはFRB(米連邦準備制度理事会)による利下げでした。
相違点:FRBの政策方針
1998年は9月に大手ヘッジファンド危機が表面化し、金融市場は不安定になったことから、FRBは9月から11月にかけて3ヶ月連続の利下げを行いました。これが米ドルの反発を抑え、下落リスクを再燃させたと考えられます。10月は6~8日の3営業日だけで、130円台半ばから110円割れ寸前まで20円以上の米ドル暴落が起きたのでした。
この点が今回は大きく異なるのではないでしょうか。今回の場合、先週のCPI発表を受けて利上げ幅縮小の可能性は高まったでしょうが、それでも利上げが終了する、ましてや利下げを早期に行うといった見方にはなっていません。
米ドル高・円安に戻す可能性
そもそも先週後半の米ドル急落は、米金利との関係で見ると「下がり過ぎ」の可能性がありました。年末が近付く中で、米ドル買いポジションの手仕舞いが入りやすかったことから、米金利低下で説明できる範囲を大きく超えて米ドルが急落したということではないでしょうか(図表4参照)。
今のところ、12月FOMC(米連邦公開市場委員会)では0.5%の利上げが行われ、政策金利のFFレートは現行の4%から4.5%に引き上げられる見通しとなっています。そうであれば、これまで米ドル/円と高い相関関係が続いてきた米2年債利回りの低下は限られ、むしろ上昇する可能性もあるでしょう。以上のことから、米ドル/円も先週からの急落が落ち着くに連れ、米金利上昇に連れる形で米ドル高・円安に戻す可能性も出てくるのではないでしょうか。
こうした考え方を前提に、今週の米ドル/円の予想レンジは137~142.5円中心で想定したいと思います。