為替レートが金融マーケットで注目されています。英ポンドも前トラス政権が発表した財政政策で大きく変動しましたが、その後、最も注目されているのは米ドル/円です。

1ドル=150円台で為替介入せざるを得ない日本

日銀は9月22日に続き、10月も円買ドル売り為替介入により、急速な円安の進行を食い止めようとしています。他国を巻き込んだ協調介入ではなく、日本の単独介入のため、残念ながらあまり迫力が無く、複数回繰り返すうちにその効果はさらに減少していきます。

為替介入の効果が低下することを懸念し、最近では「覆面介入」と呼ばれる、介入したかどうかを明らかにしない方法まで取り始めたようです。

確かに、急激な円安は国内の物価上昇を招き、日銀の政策運営に対する国民や政府からの批判を浴びやすくなります。

しかし、日銀の金融緩和政策は2%を安定的に超える物価上昇率を引き上げることが目標だったはずです。円安はその政策目標を実現するにはプラスの要因と言え、緩やかな円安であれば阻止する必要はなかったはずです。

日銀の為替介入は財務省からの委託によるものです。つまり、政府と日銀の為替に対する考え方に違いがあることを示唆しています。

金融緩和継続と為替介入を続ける日銀

そもそも、為替介入には一時的な効果しかありません。日米の金利差拡大が、今後も継続するというマーケットの見方が変わらない限り、円売り米ドル買い圧力が弱まることはないでしょう。

また、日本の貿易赤字の拡大も実需の米ドル買い要因につながります。日本の経済成長率の低さも相まって円安要因として機能します。

本気で円安を阻止するのであれば、まず金利差をこれ以上拡大させないというメッセージをマーケットに送るのが最も効果的と言えます。

政策転換せず、日銀が異次元の金融緩和政策の継続に固執するのは、物価上昇に賃金の引き上げが伴っていないからだと説明されています。

賃金が上昇しなければ、現在の物価上昇に持続性は無いという判断です。日銀の黒田総裁は2023年に入ると日本の国内物価は緩やかに下落すると考えているようです。

長期金利までコントロールする日銀の思惑

日銀は長期金利の指標となる10年国債の上限金利を0.25%とし、それ以上の金利上昇を阻止するために制限なしに市場から国債の買い入れを行っています。

これは指値オペと呼ばれるもので、マーケットメカニズムによって、決定される長期金利を人為的に低めに押さえ込むオペレーションです。

日銀は為替マーケットで市場介入を行うだけではなく、既に国債マーケットにおいても市場介入により金利をコントロールしてきたのです。

「官製相場」の弊害できしむマーケット

これらの市場原理を無視した金融当局の過剰な価格決定メカニズムへの介入は、いくつかの副作用をもたらします。

為替介入は一時的な円高をもたらしますが、これは投機的な資金に米ドル買いの機会を与えてしまうことになります。為替取引による損益が、日銀から投機家に移転している状態です。

また、日銀による長期国債の買い入れは、長期借り入れをしている人たちにとっては大きなメリットになります。逆に資金を運用したい投資家にとっては低金利での運用が困難となり、長期国債からの金利収入の機会が奪われることになります。

あるシンクタンクによれば、現状の10年国債のあるべき金利水準(理論値)は、2022年9月末で1.5%台と試算されました。現状の金利は本来よりも約1.3%低い水準になり、市場に歪みが生じています。

さらに、この金利水準が正常化すれば、日銀や日本政府にも大きな問題が生じます。

大量の国債を買い進めてきた日銀は、金利上昇すれば保有する国債の価格下落リスクに直面することになります。

また、日本国政府は低金利によって、国債の利払い負担が減少し、財政に対する規律を弱めてしまったことで債務が膨らんでいます。金利上昇による、利払いの増大は財政状態の悪化につながります。

牽制機能がなくなった市場経済が辿る道とは?

為替市場とは、通貨を交換する役割を担っており、各々の国の政治、経済などの健全性によって判断をしているマーケットです。また、中央銀行の金融政策や財政政策によっても為替レートは変動します。為替レートが、各々の国の問題点を知らせてくれるアラーム機能を持っているのです。

国債マーケットも同様です。赤字国債の増発懸念が出れば、債券の増発からの供給過剰懸念によって、金利は上昇することになります。それが国債の安易な増発による財政膨張に歯止めをかける役割を果たしています。

政府や中央銀行がマーケットへ介入することにより、これらの牽制機能が働かなくなれば、その副作用により、将来大きなマーケットの混乱がもたらされるリスクが出てきます。

マーケットメカニズムを無視したやり方は、長期的に問題を解決するとは思えません。むしろ、拡大してきたマーケットの歪みが修正される過程において、想定外の大きな混乱が起きないか心配です。