モトリーフール米国本社、2022年10月11日 投稿記事より

主なポイント

・複数の非中核事業を売却したことにより、AT&Tは合理化が進んだ通信事業者に
・経常収入と堅調なフリーキャッシュフローにより、債務を返済しながら株主には手厚い配当を還元
・Tモバイルは手強い競合相手だが、AT&Tの株価は競争上の脅威をすでに織り込み済み

低リスク、高配当利回り銘柄として検討に値するAT&T

入念に選択した配当株は、不安定な経済環境下における投資ポートフォリオの重しとして機能します。また、株価が下落から回復するのを待つ間、配当は確実なインカム源になります。

通信大手のAT&Tは、配当重視の投資家の間で以前から人気の高い銘柄です。理由は簡単です。現在、AT&Tの配当利回りは7%に達し、S&P500指数構成銘柄の中で最も配当利回りが高い銘柄の1つとなっています。

同社の事業を取り巻くファンダメンタルズに着目し、長期投資先として足元の株価が魅力的かどうか見極めてみましょう。

AT&Tにとっての好材料

ワイヤレスやブロードバンドといったインターネットサービスは、今や多くの人の日常にとって不可欠なものとなりました。そのため、通信事業者は契約者数や収入の基盤が比較的安定しており、潤沢なフリーキャッシュフローを安定的に生み出すことができる傾向にあります。これはAT&Tにもおおむね当てはまり、同社は着実なキャッシュフロー創出力と高水準の現金配当で投資家に好まれています。

しかし、同社は2018年にタイム・ワーナーを買収した際、中核となる通信事業から逸脱してしまいました。買収額は850億ドルに上り、AT&Tは数百億ドルもの追加債務を背負うことになりました。さらに悪いことに、経営陣が約束した成長とコスト削減は、ほとんど実現しませんでした。

その後、ジョン・スタンキー新CEOの下、AT&Tは再び主力事業に注力するようになりました。2022年4月にはワーナー・メディアの資産を売却し、メディア企業のディスカバリーと統合させました。新会社のワーナー・ブラザース・ディスカバリー(WBD)はその規模により、メディア業界で力強さを発揮する有力企業に発展する可能性があります。

ワーナーやその他の非中核資産の売却により、AT&Tは5Gワイヤレスネットワークやブロードバンド事業への投資が容易になりました。その成果は早くも出始めています。AT&Tのポストペイドの携帯電話契約者数は、第2四半期に81万3,000人増加しました。ポストペイドとは月額で料金を支払う契約者で、ワイヤレス通信事業者にとって最も収益性の高い顧客層です。今回の増加数は第2四半期として過去10年超で最高の水準であり、これにより、6月末時点のポストペイド携帯電話契約者数は6,830万人となりました。

一方で、高速光ファイバーインターネットの契約者数は31万6,000件増加しました。その結果、6月末時点の光ファイバーインターネット契約者数は前年同期比22%増の660万人となりました。

投資家が考慮すべきリスク

AT&Tは、第2四半期末時点で1,319億ドルという巨額の純負債となりました。金利が上昇し続ければ、莫大な負債はますます負担が重くなります。このリスクを軽減するため、AT&Tは配当支払い後の余剰フリーキャッシュフローの大半を債務の返済に充てる計画です。2022年のフリーキャッシュフローは140億ドル、配当支払額は約80億ドルと予想されることから、60億ドル近くを債務削減に回すことができるはずです。コスト削減の取り組みやさらなる資産売却により、債務負担はさらに軽減される可能性があります。

投資家にとってさらに心配なリスクは、競争の激化です。2020年に競合のTモバイルUS(TMUS)がスプリントを買収して強力な5Gネットワークを構築したことで、それまでAT&Tが維持していたネットワーク品質の優位性が崩されました。AT&Tは周波数帯や他の資産に多額の投資を行い、自社の5Gネットワークの強化を図っていますが、5Gネットワークの強化にはコストがかかります。

その上、AT&Tがポストペイド携帯電話契約者の獲得に向けたTモバイルとの競争に勝つために、大幅な割引やプロモーション活動を続ければ、同社の利益率が一段と圧迫される可能性があります。

AT&T株は割安

とはいえ、これらのリスクの多くは、低迷している株価にすでに織り込み済みと思われます。AT&Tの株価は52週安値に近い水準にあり、実績株価収益率(PER)は約7倍です。2022年市場予想利益に基づくと、予想PERはさらに魅力的な6倍まで低下します。

現在、ダウ工業株30種平均とS&P500指数の予想PERがどちらも17.8倍付近であることと比べると、AT&Tは極めて割安と言えます。こうした低いバリュエーションと高い配当利回りを考えると、AT&T株のダウンサイドリスクは限定的と思われます。

さらに、もしAT&Tが大幅な増収増益を実現できなくても、株主は配当だけで7%という大きなリターンを得ることができます。ちなみに、経営陣は2022年の増収率が1桁台前半にとどまると予想しています。将来的に同社の1株当たり利益(EPS)が、前年比でわずか3%でも成長すれば、株主にとってのトータルリターンは10%に近づく可能性があります。

ではAT&T株は買い時なのか

AT&Tには、5Gワイヤレスサービスや光ファイバーインターネットという収益性の高い事業機会があるため、利益成長は上振れのサプライズとなる可能性があります。事業構造の合理化が進み、財務管理の規律が維持されれば、投資家へのリターンはさらに押し上げられるかもしれません。

競争上の脅威は見過ごせませんが、AT&Tの株価にはすでに織り込み済みと見られます。そのため、高利回りでありながら比較的低リスクの配当銘柄を求める投資家にとって、AT&Tは検討に値する銘柄と言えます。

免責事項と開示事項  記事は一般的な情報提供のみを目的としたものであり、投資家に対する投資アドバイスではありません。元記事の筆者Joe Tenebrusoは、記載されているどの銘柄にもポジションを保有していません。モトリーフール米国本社はTモバイルUSとワーナー・ブラザース・ディスカバリーの株式を推奨しています。モトリーフールは情報開示方針を定めています。