外国の株式、債券、不動産などに投資する投資信託の商品名を見ると、「為替ヘッジあり」「為替ヘッジなし」という言葉が記載されていることがあります。為替ヘッジとは、ひと言でいうと、為替変動による値動きの影響を避けることを言います。つまり、「為替ヘッジあり」と名前がついている商品は、為替変動による値動きの影響を抑えることができるということです。

このコラムを執筆している時点で、1ドル144円という歴史的に見ても超円安水準の今、為替に注目する人は多いことでしょう。今回は、投資信託の「為替ヘッジあり」と「為替ヘッジなし」をどう考えるのが良いか一緒に考えていきたいと思います。

外国資産に投資する投資信託の値動きは「資産自体」と「為替」の値動き両方を踏まえて決まる

私たちが普段使っている円の価値は、日々変動しています。ニュースでよく「今日の外国為替市場、1ドル=140円…」などと耳にします。これは、円と米ドルを交換した時の比率(為替レート)を表しています。

投資信託は、投資家から集めたお金を1つにまとめ、ファンドマネージャーと呼ばれる投資のプロが、投資家の代わりに株、債券、不動産などといった資産に投資して運用する金融商品です。

投資信託が外国の資産を買う時には、その資産のある国の通貨を投資実行時点の為替レートで購入します。

投資家から預かった円を米国の米ドル、EU圏のユーロ、イギリスの英ポンドなどといった外国の通貨に両替する必要があります。反対に、それらの資産を売ると外国の通貨で戻ってきますので、投資家に返す場合には日本円に両替する必要があります。

買う時の両替と売る時の両替で、為替レートがまったく同じであれば、為替変動の影響はありません。しかし実際には、まったく同じという可能性は低いでしょう。すると、資産そのものの値動きによる利益・損失の他に、為替変動による利益・損失が生まれることになるのです。

例えば、投資信託の中で米国株1万円分を買うとします。この時、1ドル=100円であれば、100ドル分買ったとも解釈できます。この投資信託が10%値上がりしたら、110ドルになります。つまり、この値上がりした時に売却すると10ドル分の利益を得られます。

では、この投資信託で一体何円の利益を得られることになるでしょうか。それは、為替レート次第です。利益が出た金額(米ドル)にその時点の為替レートをかければ、算出することができます。

もし、1ドル=100円のままならば、10ドル×100円=1000円なので、利益は1,000円になります。それに比べて、1ドル=110円(円安)になったら10ドル×110円=1,100円となり、為替レートのおかげで100円多く利益が出ます。しかし、逆に1ドル=90円(円高)になっていたら、10ドル×90円=900円で、100円損をするのです。

為替レートの変動で得られた利益を為替差益、損失を為替差損といいます。一般的に、買う時よりも売る時のほうが円安になると為替差益、円高になると為替差損が生まれます。

「為替の値動きを抑える」には相応のコストがかかる

為替ヘッジがある投資信託は、為替変動の影響をなくすようにしています。逆に、為替ヘッジがない投資信託は、為替変動の影響を受けることになります。どちらを選ぶのが良いのでしょうか。

結論から言うと、私自身としては「為替ヘッジあり」の投資信託はおすすめしません。なぜなら、為替ヘッジは先物取引や信用取引といった特殊な手法を使うため、相応のコストがかかるからです。為替ヘッジコストは外国の短期金利と円の短期金利の差がベースとなります。

【図表1】円の短期金利が外国通貨の短期金利より低い場合
(株)Money&You作成

現在、円金利は超低金利となっていて、投資先が金利の高い国であればあるほど、為替ヘッジコストは高くなり、運用成績を下げる要因となります。また、為替ヘッジありの投資信託は為替ヘッジなしと比べ、信託報酬が高い場合があります。

為替ヘッジコストの「あり」と「なし」で、どれくらい運用成績が異なるのか見ておきましょう。あくまでも過去の運用成績であることにはご留意ください。

つみたてNISAで購入できる外国株式投資信託のうち、先進国株式と外国株式を投資対象としている例でみていきます。これらの商品は投資対象は同じですが、「為替ヘッジあり」と「為替ヘッジなし」のものが存在します。

【図表2】先進国株式を投資対象としている場合
出所:マネックス証券ウェブサイトより筆者作成
※ データは2022年9月30日時点
【図表3】外国株式インデックスを投資対象としている場合
出所:マネックス証券ウェブサイトより筆者作成
※ データは2022年9月30日時点

いずれも為替ヘッジがある場合、リターンが低くなっています。この辺り、シャープレシオ(リスクに対するリターンの度合い)を見ても判断ができます。

2022年は一気に円安が進んでいるので為替差益によるリターン向上の寄与効果は大きいとは思いますが、為替ヘッジコスト分が運用成績を下げている要因もありそうです。なお、図表2の通り為替ヘッジありとなしでは、信託報酬に差が生じる場合もあります。

ところで、市場の「平均への回帰」を考えれば、今後円高局面になることが予想されます。その円高に備えて「為替ヘッジあり」の投資信託を購入したいという方もいるかもしれません。確かに、為替変動による損失を抑えられるかもしれませんが、為替ヘッジコストが大きいことも忘れてはいけません。

外国資産の王道として米国が挙げられますが、米国はさらに利上げする方針を示していて、円ドルの為替ヘッジコストは今後も拡大する可能性が高いでしょう。そうなると運用成績への影響が一層大きくなります。

値動きと上手く付き合いながらお金を増やすためには、分散投資が重要です。分散投資には、「資産の分散」「地域の分散」「銘柄の分散」「業種の分散」「時間の分散」がありますが、忘れてはいけないのが「通貨の分散」です。

為替ヘッジがなければ、為替変動の影響を受けやすくなりますが、余計なコストがかからず、為替差益を受け取ることもできます。そのため為替ヘッジのない投資信託を選ぶのが個人的には無難だと思います。1つの考え方として、皆様の投資行動のご参考になれば幸いです。