日本株の配当投資で月平均18.5万円を得ている長期株式投資さん。年間配当額がずっと右肩上がりで毎年、過去最高を更新しています。長期株式投資さんに18年間の投資経験を通じて構築した仕組みや、銘柄選びのポイント、ポートフォリオの管理術や日本株投資ならではの魅力をうかがいました。

●長期株式投資さんプロフィール●

「日本の配当株」専門の現役サラリーマン投資家。1977年、熊本県生まれ。2004年から株式投資を開始。リーマンショックで含み損を抱えた後、2009年にポートフォリオを大型配当株メインにシフト。以降は、安定的に資産を増やし、2021年の税引き後の手取り配当額は、223万3199円と過去最高を更新。著書『オートモードで月に18.5万円が入ってくる「高配当」株投資』(KADOKAWA)は発売半年で4万部突破。Twitterやブログ「配当再投資で資産形成」で自身の投資戦略などを発信。趣味は空手。

600万円の含み損から長期配当投資に目覚める

――どのようなきっかけで投資を始めたのですか?

就職して貯金が増えてきたものの、銀行に預けていても増えないので、何かしら運用しなければ…と思い、2004年から株式投資を始めました。当初は短期的な取引でキャピタルゲインを狙う投資スタイルで、収支はトントンでした。

翌2005年は、村上ファンドや堀江貴文氏が率いるライブドアが連日メディアを賑わせ、個人投資家の間でネット関連企業への投資が流行っている状況でした。そのため私もブームに乗ってサミーネットワークスやバンダイネットワークスなど新興銘柄に投資していました。しかし、2006年のライブドアショックをきっかけに新興市場が崩壊し、私の保有銘柄も断続的に下落。一番痛かったのは144万円投資していたサミーネットワークスが、10万円を切るまで下がったことですね。

それを機に新興株投資への熱が冷め、投資先を大型優良株にシフトしました。しかし、2007年に米国のサブプライムローン問題が表面化してから日経平均株価が少しずつ下がり始め、私の投資先企業の株価も下落の一途をたどりました。その後、とどめを刺すようにリーマンショックが起こり、含み損が600万円近くまで膨らみました。

――その時、市場から撤退しようと思いませんでしたか。

リーマンショックが起きた時はショックを通り越して、金融システム自体が崩壊するかもしれない…という恐さを味わいました。それでも私は資産を形成する手段として、株式投資しかないと思ったんですね。それに、「株価が全体的に安くなっている時こそチャンスだ」と思い、就職してから貯めていた財形貯蓄を全額解約して株式の購入にあてました。

著名投資家のウォーレン・バフェット氏に関する書籍を読み、彼の哲学である「株式は本来の企業価値と比べて株価が安い水準で売られている時に買うべきだ」という考え方を知っていたことが役立ちました。

――長期配当投資という投資スタイルに至った経緯を教えてください。

ジェレミー・シーゲル氏の著書『株式投資の未来』(日経BP)を読んだことが大きく影響しています。この本で割安な銘柄に投資すること、配当を再投資することによってリターンが加速することを学び、現在の投資スタイルを確立しました。

高配当株を選ぶ9つのチェックポイント

――高配当銘柄の選び方を教えてください。

投資経験と知識の蓄積から、どの業界にどのような会社があり、どれぐらいの利益が出ているかある程度、把握できています。そのうえで長期的に業績が安定しているか、配当は安定的に実施されているか、増配傾向にあるのかなどを主に9つのポイントを見ながら確認しています。ただ、これらのポイントすべてをクリアする企業はありません。複合的に見て「自分が納得して投資できるか」を判断します。

投資初心者の方々がこれらを一気に確認しようとすると大変でしょう。最初は、株式を少しずつ購入し、勉強しながら慣れていくのが良いと思います。

――年間200万円以上(税引後)の配当金を得ている長期株式投資さんですが、どれぐらいの期間をかけて、その仕組みを作られたのでしょうか。

配当に着目し始めた2008年から14年間かけて、少しずつ株式を購入すること、配当を再投資し続けることで現在のポートフォリオを構築してきました。

【図表1】2010年からの受取配当額の推移(税引き後)(2022年7月31日時点)
出所:長期株式投資さん作成

――どれぐらいの単位で保有株式数を増やしましたか。

2000年代当時は、端株で投資しようとすると手数料がかさんでしまうため、ある程度まとまった単位で購入していました。バンガード・グループの創始者であるジョン・ボーグル氏の書籍『インデックス・ファンドの時代』(東洋経済新報社)を読んで、手数料を抑えることの重要性を認識していましたので。

――ボーグル氏の影響を受けたとのことですが、インデックス投資への興味はいかがですか。

個別株と並行して、複数のインデックス・ファンドにも投資していました。ただ当時はインデックス・ファンドの選択肢が現状のように豊富ではなかったので、個別株投資が主流でした。今では全世界の株式に分散できるような商品もありますので、私もつみたてNISAを活用して、「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」の積立投資を行っています。

臆病者の方が意外と長続きする?

――株式市場に長く居続けるために必要なことは何だと思われますか。

想定外の出来事が起こり得るということを念頭に置いています。自分が描いたシナリオを過信することなく、どこかに穴があるのではないかと常に疑い続けることが大切です。株式投資は臆病者の方が向いているのではないでしょうか。自信満々だと破滅するのではないかと思いますので。

――資産額が増えると、自信過剰になったりしませんか。

投資の世界に長くいればいるほど、分からないことだらけだということに気づかされます。例えば、投資を始めて間もない方が最初の数年間、自分の思い通りに相場が動いたら自信が持てるでしょう。しかし、10年以上投資をしていても、すべて思い通りに進むことはないと思います。できることは、不確定な要素が多い中で少しでもリターンを高めるにはどうしたらよいかという手法を身につけることぐらいです。

――ご自身で描いた投資シナリオを検証することはありますか。

私が長期的に保有している17銘柄について、投資先の決算資料を読んだうえでの感想をブログ上に書き残すようにしています。四半期ごとに自分の描いたシナリオを振り返ることもできますので。ブログで公開することで、読者の方々がご自身のシナリオを見直す際の参考にしていただければ…と考えています。

【図表2】長期株式投資さんの永久保有銘柄17選
出所:長期株式投資さん作成(2022年8月27日時点)

日本株投資にこだわる4つの理由

――日本株への投資が良いと思う理由を教えてください。

私が主に日本株に投資している理由は4つあります。

(1)バリュエーションの観点から安い

実績データで比較すると、先進国の中でも日本は低PER・PBRで配当利回りが高く、相対的に割安な傾向が見られます。成長性を加味した場合の評価は分かれるところですが、企業価値の観点から割安であることは評価できると思います。

(2)税制面で有利

日本株については「配当控除」という制度があり、配当所得があるときには、一定の方法で計算した金額の控除を受けることができます。一般的には年収900万円以下の場合は配当控除を受けた方が得になると言われています。このような税制上有利な制度を活用できることは特に若年層でこれから資産形成していきたい方々にとって、魅力的ではないでしょうか。外国株式の配当金について、外国税額控除を受けることも可能ですが、そのためには確定申告を行う必要があり、投資初心者の方々にはハードルが高いのではないかと考えています。

(3)母国語で情報収集できる

企業が出している財務諸表や個人投資家向けの説明資料を日本語で確認できるのは大きなメリットだと思います。そのような地道な行動が知識の蓄積と投資技術の向上につながっていくと考えています。

(4)株主優待も楽しめる

株式投資は数字が動くだけの無機質な世界ですが、株主優待が届いた時にはリアルな喜びが味わえます。株主優待は投資を継続するうえでのモチベーションにもなります。

――印象に残っている株主優待があれば教えていただけますか。

もらって嬉しかったのは、長瀬産業(8012)のNAGASE優待カタログで選んだ「鯖缶」、KDDI(9433)のカタログギフトで選んだ「鰻」です。私は株主優待を目的として投資することは少なくなりましたが、長瀬産業は業績も申し分なく、株主還元を向上しようとする経営陣の姿勢が感じられますので、保有株数を100株から300株に増やしました。

同じ業界で言うと、稲畑産業(8098)も300株保有しており、オリジナルQUOカードをもらいました。同社は配当も増配しているので、気に入っています。

>> >>【後編】配当投資を無理なく継続する仕組み

※本インタビューは2022年8月26日に実施しました。
※本内容は、個人の経験に基づく見解であり、当社の意見を表明するものではありません。
※投資にかかる最終決定は、お客様ご自身の判断と責任でなさるようにお願いいたします。