長期株式投資さん流ポートフォリオ管理術
――投資先をどのように分散していますか。
投資先のセクターを分散させています。圧倒的なトップが君臨している業界もあれば、2、3社がしのぎを削っている業界もあります。例えば、総合商社ですと大手3社がそれぞれの強みを持っていますので、三菱商事(8058)、三井物産(8031)、伊藤忠商事(8001)に分散するのが合理的だと考えています。
また、リターンが同じであれば分散した方が良いという観点から、通信業界においてもNTT(9432)とKDDI(9433)に分散しています。損保業界については東京海上ホールディングス(8766)が圧倒的な地位を築いているので、競合他社には投資していません。分散のために利益水準が相対的に低い企業にあえて投資する必要はないという考えからです。
――リバランスについての考え方を教えてください。
「株価が安い時こそ買い」という観点から、ノーセルリバランス(比率が高い資産クラスは売却せずに、比率が低下した資産クラスを追加購入することで目標とするポートフォリオバランスを保つ方法)が良いと考えています。リバランスのタイミングは決めておらず、株価が下がった時に端株を買い増すかたちで行っています。
――最近、ポートフォリオに追加した銘柄があれば教えてください。
5月から7月にかけて積水ハウス(1928)へ追加投資を行い、保有株数を増やしました。同社はハウスメーカーとしてブランドを確立しています。財務基盤が強く、自己資本比率が50%を超えており、ここ10年ほどの利益水準が堅調でした。経営陣の増配することへの意思の強さや株主還元の意識の高さがうかがえますし、株価も納得できる水準でしたので。
8月には三井住友フィナンシャルグループ(8316)の株式を買い増ししました。同社の配当利回りは今のところ5.2~5.3%ですが、これほど業界トップクラスの企業が累進配当を公表していて、着実に増配している企業の株式を配当利回り5%台で今後も購入できるのだろうか…と考え、今のうちに増やしておこうと思いました。
――個別株について、何銘柄ほど保有するのが適切だと思われますか。
アンシステマティックリスク(資産の数を増やすことにより軽減されるリスク)を軽減させるという観点から20銘柄ほどで十分かと思います。
――株式売却の判断基準はありますか。
私が主力投資先と考えている銘柄については、株価が下落した場合も基本的には買い増ししています。ただ、5~10年後を見据えて市場環境が変わりそうな場合や、経営者の交代で企業体質が変わる場合は売却を検討します。例えば、以前、武田薬品工業(4502)に投資していましたが、経営陣が変わり、M&Aを繰り返して財務基盤が弱くなったためすべての保有株式を売却しました。これは稀なケースですが…。
――減配・無敗リスクには、どのように備えていますか。
累進配当を公表している銘柄や実質累進配当となっている銘柄を選択することで、リスクを抑えることができると考えています。ただし、累進配当を公表している企業は限られています。「安定配当を目指す」としている企業の中にも減配していない企業が多く見られます。業績が安定していて配当性向がある程度抑えられていれば減配リスクは低いと判断しています。
――日々、どのように情報収集していますか。
主力投資先の約20銘柄については、会社四季報や決算短信で業績の推移を確認して、各企業のIRサイトで掲載されている個人投資家向け説明資料を読み込んでいます。更新されていない場合もあるのですが、IR情報は最低でも週に一度は確認しています。その他の銘柄については、株価が下落したときなどにその要因をチェックする程度です。
最悪の事態として「最大ドローダウン」「3年続く下落」を念頭に
――暴落時の対処法を教えてください。
具体的な対処法としては、これまで通りの投資を続けることです。また、事前に歴史を学び、最大ドローダウン(最大資産からの下落率)はどの程度になるか、株価回復までの期間はどの程度になるかを知っておくことが精神的なダメージを緩和してくれると思います。
――長期株式投資さんは、どの程度の下落率を想定していますか。
正確なデータは取っていませんが、リーマンショック時の下落率が日本株で62%ぐらい、米国株で57%ぐらいだったと記憶しています。当時円高が進んだこともあり円建てで米国株を保有していた場合、平均で75%ほど下落したとも言われています。そのような状況も最悪の事態として想定しておく必要があるでしょう。同時に、数年後には回復するということも知っておくべきだと考えています。要は、暴落時にも買い増しを続けることで回復するまでの期間が早まることと、暴落は買い場であるということです。
――株価回復までの期間としての目安は?
暴落時、株価が底を付いて上がり始めると精神的に楽になります。最近は相場の動きが早くなっているので、ITバブル崩壊のように3年程度かけてジリジリと底値を切り下げていくパターンは今後起こりにくいように思います。ただ、最悪の事態として、ITバブル崩壊のような3年程度下落し続ける可能性を念頭に置いています。
――さて、日本は将来的に人口が減ってGDPも下がるといったネガティブな見方も多いですが、日本の株式市場に対してどのような見通しをお持ちですか。
株式市場の期待リターンとGDPの相関関係については議論が分かれるところで、私は相関が低いと考えています。つまり、GDPが下がっても、それによって株式のリターンが下がるとは考えていません。日本の人口減少が経済全体の縮小につながるのは間違いないでしょうが、2050年にも日本のGDPは10位以内には入ると予測されており、ある程度の経済規模は保たれると思います。日本に対する期待値が低い分、日本株には割安感があると言えるでしょう。
「株式市場で生き残ることが大事」
――これから投資を始めようと考えている20代、30代の方々へのアドバイスをお願いできますでしょうか。
株式市場で生き残ることが大切です。生き残っていればリターンは自ずとついてくると思います。焦らずにじっくりと長い目で投資と向き合ってください。長く続けることで様々な知識も積み上がり、投資の練度も向上していきます。そのことはきっと人生の大きな財産となってくれるでしょう。
●「株式市場で生き残ること」が最優先
● 常に最悪の事態を念頭に置いておく
● 長期保有を前提に株数を増やして配当を積み上げる
● 焦らずにじっくりと長い目で投資と向き合う
投資を始めるにあたって、若ければ若いほどいいと思っています。と言うのも、どんなに上手に運用できる人でも飛びぬけた成績を長く続けるのは困難です。長期的に運用していくとリターンは平均値に収束していくと思います。つまり、できるだけ期間を長くとった方が期待値に近づく可能性が高くなります。ですので、若いうちから長期にわたって安定的に運用していくことをお勧めしたいです。
――最後に、会社員として無理なく投資を続けるヒントを教えていただけますか。
会社で勤めていると、頻繁に売買している時間がありません。ですので、キャピタルゲインを狙うのではなく、長期保有を前提にして、株数を増やして配当を積み上げていく意識で相場に臨んでいくと、長く続けられると思います。
――ありがとうございました。
※本インタビューは2022年8月26日に実施しました。
※本内容は、個人の経験に基づく見解であり、当社の意見を表明するものではありません。
※投資にかかる最終決定は、お客様ご自身の判断と責任でなさるようにお願いいたします。