モトリーフール米国本社、2022年8月30日 投稿記事より
主なポイント
・悪材料が山積する中、株式分割を好感する投資家がウォール街を支配
・テスラの株式分割は大きな話題となったが、同社が直面する大きな逆風は解消されず
・一方で、株式分割を実施した別の3社に投資妙味
米国では景気後退が懸念されるものの、株式分割銘柄に明るい兆し
ウォール街と個人投資家にとって、2022年は大変な年となっています。S&P500指数とナスダック総合指数は急落して弱気相場入りし、米国のインフレ率は40年以上ぶりの高水準に達し、さらにGDP成長率が2四半期連続でマイナスとなったことで、米国は景気後退が間近と思われます。
しかし、こうした悪材料の中で、投資家は株式分割銘柄に明るい兆しを見出しています。株式分割によって、上場企業は時価総額や事業に影響を及ぼすことなく、株価や発行済み株式数を変えることができます。個人投資家は、オンライン証券会社では端株を購入できないことがありますが、企業が株式分割を実施すると、名目上、個人投資家でも株式を購入しやすくなります。
投資家が株式分割を好感するのは、正しいことをしていない企業であれば、株式分割をするほど株価が高くなるはずはないと考えているからです。株式分割を発表/実施する企業の多くは、収益性が高く、革新的で、競合他社に対してある程度の競争力を維持しています。
テスラよりも投資妙味が期待される、株式分割を終えたばかりの3銘柄
2022年最も期待されていた株式分割の1つが先週実施されました。6月に株式分割の意向を発表していた電気自動車(EV)メーカーのテスラは、8月25日付で1対3の株式分割を実施しました。分割前のテスラの株価は900ドル近い水準でしたが、端株を購入することのできない個人投資家でも、今では300ドル未満でテスラ株1株を買うことができます。
テスラは以前から人気の高い銘柄です。生産台数は上向いており、2022年の生産/出荷台数は100万台を上回る見通しで、収益性も向上しています。株主は、イーロン・マスクCEOの歯に衣着せぬ発言を受け入れてきました。マスク氏のリーダーシップの下、同社はエネルギー製品やソーラーパネルの設置など収益源を拡大し、現在は4つのEVモデルが生産されています。
しかし、株式分割でさえも、テスラにとって最大の負債を隠すことはできません。その理由は、他ならぬマスク氏です。テスラ株は、市場予想1株当たり利益(EPS)に基づく株価収益率(PER)54倍という破格のバリュエーションとなっていますが、マスク氏が法的、財務的、そして経営的に大きなリスクを抱えているため、保有するには極めてリスクの高い銘柄となっています。
マスク氏はテスラを量産体制に導きましたが、新しい製品やサービスの発表に関する未来予想図はほとんど実現していません。これは深刻な問題です。テスラの割高なバリュエーションは、そうしたイノベーションがタイムリーに実現するかどうかにかかっているからです。
これらのことから、以下では、最近株式分割を実施し、今のテスラよりも投資妙味があると思われる別の3銘柄を紹介します。
アルファベット
FAANG銘柄の1つであるアルファベットが、投資妙味のある株式分割銘柄の筆頭であることに異論の余地はないでしょう。アルファベットはインターネット検索エンジンのグーグル、ストリーミングプラットフォームのYouTube、自律走行自動車のウェイモなど、多くの子会社を傘下に持っています。同社は7月18日に1対20の株式分割を実施しました。
最近は広告の低迷が懸念されており、アルファベットの広告主導のビジネスモデルへの影響は確実と思われます。しかし、そうした懸念は、景気後退や不況はそれほど長続きしないという事実を見落としています。アルファベットには競争優位性があり、また米国や世界の経済は、縮小する期間よりも成長する期間の方がはるかに長いという事実からも、広告を主体とした同社のビジネスモデルは好調が期待されます。
アルファベットの基盤は依然としてグーグルであり、調査会社グローバルスタッツによると、グーグルは過去2年間、世界のインターネット検索において91~93%のシェアを維持しています。インターネット検索市場を独占する同社にとって、広告主に対して強力な価格決定力を持つことは難しいことではありません。
しかし、アルファベットの中で将来の成長見通しが最も明るいのは、付随的な事業部門です。グーグルは今後も長期にわたってキャッシュフロー創出の中心であり続けるでしょうが、投資家は、YouTubeが世界で2番目にビジター数の多いソーシャルサイトに成長し、グーグル・クラウドが世界第3位のクラウドインフラサービスのプロバイダーとなったことに、大きな期待を寄せています。
グーグル・クラウドは現在、アルファベットの中で赤字の事業部門ですが、クラウドサービスの利益率は、広告の利益率よりも大幅に高いのが一般的です。2025年頃には、グーグル・クラウドはアルファベットの営業キャッシュフローの押し上げに重要な役割を果たすようになっているはずです。
その上、予想PERおよび予想株価キャッシュフロー倍率という観点で、アルファベット株が今ほど割安だったことはありません。つまり、辛抱強く成長を求める投資家にとって、絶好の買い場となっているのです。
デクスコム
テスラよりも投資妙味のある株式分割銘柄として次に紹介するのは、医療機器メーカーのデクスコムです。デクスコムは持続血糖測定器(CGM)システムで知られる企業で、6月13日に1対4の株式分割を実施しました。
同社にとって最大の問題はバリュエーションです。弱気相場になると、ウォール街や投資家は、バリュエーションが割高な企業に対する興味をすぐに失います。デクスコムの場合、2022年予想PERは100倍を上回ります。
では、バリュエーションがそれほど高いデクスコムが、テスラよりも選好されるのはなぜでしょうか。それにはいくつかの正当な理由があります。
まず、ヘルスケアはEVと異なり、非常にディフェンシブなセクターです。株式市場や米国経済がどれだけ不調であっても、また、どれだけインフレが高進しても、人々は処方薬や医療機器、医療サービスを必要とします。株式市場がほんの数ヶ月低調だったからといって、糖尿病患者が治療を必要としなくなるわけではありません。
また、デクスコムの潜在的な患者層は拡大し続けています。米疾病予防管理センター(CDC)の最新統計によると、3,730万人の米国人が糖尿病を患っています。さらに9,600万人が糖尿病予備軍と推定され、治療せずに放置すると糖尿病になる可能性があります。つまり、これらの数字に基づくと、米国の成人人口のほぼ半分が将来的に顧客になる可能性があるのです。
デクスコムは長年にわたり、CGMの世界シェアで1位または2位を維持しています。何世代ものCGMを世に送り出してきた革新性と、世界的な糖尿病患者数の増加により、同社は20%の成長率を難なく維持してきました。
デクスコムの株価は割高ですが、それだけの価値があるということです。
アマゾン・ドットコム
最後に紹介するのは、eコマース大手でFAANG銘柄でもあるアマゾンです。同社は6月6日に1対20の株式分割を実施しました。
アマゾンといえば、オンラインマーケットプレイスの代表格として、多くの人に親しまれています。調査会社eマーケターが2022年3月に発表したレポートによると、2022年の米国小売売上高のうち、アマゾンは40%近くをもたらすと推定されています。この市場シェアは、2位企業の5倍以上であり、2~15位までの合計シェアと比べても8%ポイント超上回ります。
アマゾンのマーケットプレイスが買い物客を集めるのに苦労していないというのは間違いなく好材料ですが、アマゾンの未来は、付随的な売上チャネルに大きくかかっています。というのも、ネット通販の営業利益率は一般的に極めて低いからです。
例えば、アマゾンプライムの会員数は世界全体で2億人を上回ります。彼らはプライム会費として年間139ドル、または毎月14.99ドルを支払っています。会費収入は利益率が高く、アマゾンは配送の特典や独自コンテンツへのアクセスと引き換えに年間350億ドル近くを得ています。同社はここで得たキャッシュフローを、急成長する物流ネットワークや利益率の高い他の事業に再投資することができます。
調査会社カナリスのレポートによると、第2四半期の世界のクラウドサービス支出のうち、アルファベットのグーグル・クラウドのシェアが8%と推定されるのに対し、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)は31%という圧倒的なシェアで市場を牽引しています。AWSはアマゾンのネット売上高のわずか6分の1を占めるにすぎませんが、営業利益では一貫して50%超を稼ぎ出しています。AWSは、今後4年間で同社のキャッシュフローを3倍に引き上げると予想されます。
また、アルファベットと同様に、アマゾン株も上場以来、予想株価キャッシュフロー倍率の観点で、今ほど割安だったことはありません。
免責事項と開示事項 記事は一般的な情報提供のみを目的としたものであり、投資家に対する投資アドバイスではありません。アマゾンの子会社であるホールフーズ・マーケットのCEO、John Mackeyは、モトリーフール米国本社の取締役会メンバーです。アルファベットの幹部であるSuzanne Freyは、モトリーフール米国本社の取締役会メンバーです。元記事の筆者Sean Williamsは、アルファベット(クラスA)およびアマゾンの株式を保有しています。モトリーフール米国本社はアルファベット(クラスA)、アルファベット(クラスC)、アマゾン、テスラの株式を保有し、推奨しています。モトリーフールはデクスコムの株式を推奨しています。モトリーフールは情報開示方針を定めています。