インフレ抑制で利上げ継続。ジャクソンホールで注目されたパウエル議長発言
注目の「ジャクソンホール」で米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が放った数々のコメントに、得も言われぬ“危うさ”を感じたのは私だけでしょうか。
パウエル議長は「インフレ抑制策をやり遂げる」という強い決意を滲ませた上で「家計と企業にsame painをもたらす」と認めました。講演前に市場で囁かれていた「景気を犠牲にしてもインフレと戦う意思を示す可能性」について、それを一部肯定した格好となるわけです。
米景気の後退懸念やハードランディングの可能性についての言及はなかったものの、歴代議長の例を引き合いに「歴史の教訓」を持ち出してきたことには、かなりの違和感を禁じ得ないものが個人的にありました。
市場の一部からは「0.75ポイントの追加利上げで講演内容の裏付けをしなければ、パウエル議長は自身の言葉の価値を貶めることになる」との声も聞かれます。しかし、それならば7月開催分の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録にあった「必要以上に引き締めるリスク」という重要ワードの価値を貶めない政策行動とは一体どのようなものなのでしょう。
8月18日、カンザスシティー連銀のジョージ総裁は「我々の政策決定がしばしば遅れて効果を発揮することがある点に注意する必要がある」と述べ、急激な引き締めに対して、より慎重な姿勢を促していました。
実際、既に米住宅市場などでは目に見えて販売件数や価格の伸びが落ち込み始めています。パウエル議長の講演前に発表された7月の米個人消費支出(PCE)コアデフレーターは、想定していた通り弱めの結果となりました。そして、9月13日には8月の米消費者物価指数(CPI)の発表も控えています。
パウエル議長は7月のCPIが低下したことについて「単月の改善では十分と言える状況からほど遠い」と述べていましたが、仮に8月分のデータも明らかな低下傾向を示すものであった場合、それについて一体どのような見解を示すのでしょう。
もっとも、9月の米利上げ幅については、あくまでも「入手するデータと変化する見通しの全体像に左右される」というスタンスを維持するとしており、結局、9月のFOMCを通過するまでは、まだ幾度か市場の見立てが大きくぶれる可能性もあると見ておく必要がありそうです。
米ドルは買いが強まる。140円処を試しに行くか
パウエル議長の講演を受けて当然、市場では米ドル買いの動きが強まりましたが、米ドル/円の値動きは比較的落ち着いたものに感じられました。もちろん、事前に「タカ派寄りの講演」が相当程度織り込まれていたということもあるでしょう。
実際、パウエル議長の講演後には一旦「材料出尽くし」といったような反応も見られていました。また、講演前に7月のPCEコアデフレーターの結果によって一旦米ドル売りが進んだことと、そのために米ドル高の発射台が低くなっていたことも見逃せない点ではありました。
いずれにしても、目下の米ドル/円が50日移動平均線(50日線)と一目均衡表の日足「雲」上限という2つの重要なチャートポイントによって下値を支えられていることに変わりはありません。
また、7月14日高値から8月2日安値までの下げに対する76.4%戻しの水準(=137.27円)を上抜ける動きとなっていることも見逃せません。
同水準を明確に上抜ける動きが見られれば、そこからは7月14日高値=139.39円処が再び強く意識されるようになるでしょうし、同水準をも上抜ければ、やはり140円処を試しに行くことになると思われます。
一方、再びパリティ(1.00ドル)を割り込んだユーロ/米ドルについては、先週を通じて幾度か1.00ドル台に値を戻す場面も見られていました。再度、直近安値の0.9900ドル近辺まで下押す場面があれば、そこはもう一度打診買いを入れるスタンスで臨むのも一手であると思われます。もちろん、ポジション管理は厳格にしておきたいところです。