資産運用の伝統的な投資対象は、株式と債券でした。主に値上がり益(キャピタルゲイン)を狙う株式と、金利収入という定期収入(インカムゲイン)を得られる債券という2つの金融資産の組み合わせ。それによってリスクをコントロールしたポートフォリオを作る手法が、資産運用の基本でした。

ところが最近は新しい投資対象を資産運用に組み入れる動きが広がっています。伝統的な資産運用に対しオルタナティブ投資と呼ばれるもので、その代表が不動産です。

不動産価格上昇の代表は米国の居住用不動産

不動産に投資対象としての注目が集まっている理由は、価格の堅調な上昇です。その代表は米国の居住用不動産です。

米国では、居住用不動産の年間価格上昇率が全米平均で10%を超え、高い州では30%という異常な上昇となっています。それにつれて家賃も上昇を続けています。

これは米連邦準備制度理事会(FRB)の金融緩和政策により、住宅ローンや投資用ローンの借り入れ金利が下がったことが影響しています。

それだけではなく、新規住宅の供給数が増えない中でコロナ禍によって住宅需要が高まり、需給関係がタイトになったことで、価格上昇につながっている側面もあります。

日本の不動産もバブルを超える高値に

日本でも都心部を中心に居住用のマンション価格が上昇しており、東京都心部のマンションの平均販売価格は1億円を超えています。都心の物件は、給与所得だけでは手が届きにくい水準になりつつあります。

投資用の都心ワンルームマンションも価格が上昇し、賃貸利回りは低下しています。

日本では家賃の上昇は米国ほど大きくありませんが、今後ニーズの強いエリアの賃貸マーケットにも価格上昇の波が広がってくると予想されます。

不動産の相対的な優位性とは

投資対象としての不動産の魅力は、安定した家賃収入、つまりインカムゲインです。

金融緩和により市場金利が下がり、米国の長期金利は3%まで上がってきましたが、日本では依然として0.2%前後。債券の金利収入が期待できなくなりました。

現状のマーケット水準では、不動産は債券よりも相対的に高いインカム収入が得られ、立地の良い場所であれば空室率も低く、着実に家賃収入を確保できます。

安定したインカムゲインと値上がりによるキャピタルゲインの両方が得られる資産として投資家から注目されているのです。

インフレが不動産投資を加速する

世界的なインフレの加速により、不動産価格の上昇もさらに加速する可能性もあります。

新築物件の建設コストは木材価格の上昇や輸送価格の引き上げによって、以前に比べ上昇しています。新築住宅の価格上昇が、相対的に割安になった中古物件価格の引き上げにもつながっています。

将来の家賃や価格上昇というインフレ懸念から、不動産を買い急ぐ動きも広がっており、需給関係も価格上昇に寄与しています。

不動産価格や家賃の上昇によって、不動産保有の有無による資産格差が広がっている状況です。

金利上昇が与える影響を注視

有利な投資対象に見える不動産ですが、懸念材料は金利の上昇です。

金融引締めによって住宅ローンや投資用ローンの金利が上昇すれば、借り入れをして購入する人の数が減り、不動産価格にマイナスの影響が出てきます。

現に米国では、利上げの影響で住宅ローンの金利が2021年末から2倍近くに上昇しています。今のところ価格に対する大きな影響は出てきていませんが、販売戸数は2022年に入ってから減少しており、需給関係から価格に影響が出てくるかどうか注意が必要です。

一方、日本では日銀の金融緩和が続いており、金利上昇に対する影響は今のところありません。

とはいえ、日本でも今後インフレが加速すれば日銀の金融政策が転換することもあり得ます。そうなれば住宅不動産市場へのマイナス影響は避けられないと思われます。

投資対象に不動産という選択肢を

税制優遇のあるNISAやiDeCoといった制度が一般に知られるようになり、金融資産を中心とした資産運用が日本の個人投資家に広がりつつあります。私はそれに加えて、投資対象としての不動産にも目を向けることが大切だと考えています。

REITと呼ばれる不動産投資信託を使って不動産投資を行う方法もありますが、実物不動産とは商品性に大きな違いがあります。また、実物不動産には借入による購入ができるというメリットもあります。

日本でも機関投資家がオルタナティブ投資として不動産投資に注目する動きが広がっている状況です。

日本の個人投資家もより効率的な資産運用を追求するべく、不動産にこれまで以上に注目し、投資対象として組み入れることを検討すると良いと思います。