<< <<特別インタビュー【1】米国株、長期保有銘柄の選び方、GAFAMの将来性

常に新しい技術に目を向ける重要性

岡元:御社のサイト上で、「Computing evolution: investing in the metaverse(コンピューティングの進化:メタバースへの投資)」というタイトルの記事を今年2月に書かれていますね。この「メタバース」というテーマの進化から恩恵を受けると思われる企業を教えていただけますか。

レヒト氏:記事を読んでいただきありがとうございます。ブルームバーグでは、メタバースの市場規模は最終的に8,000億ドル、あるいはそれ以上になる可能性があると報じられています。メタバースの恩恵を受ける企業は、メタ・プラットフォーム(META)やエヌビディア(NVDA)などはもちろん、おそらくマイクロソフト(MSFT)も、そちらに移行しているのでしょう。 

とはいえ、メタバースを記事で取り上げたのは、私たちがメタバースに大きな自信を持っているからでも、メタバース一辺倒のポートフォリオに移行しているからでもありません。むしろ、大型株のポートフォリオ・マネージャーとして、新しい技術にフォーカスすることが大切だと考えているからです。

新しい技術は潜在的に私たちにとって投資機会となる可能性もあれば、既に保有している銘柄を混乱させる可能性もあります。そのため、私たちは常に、世界のテクノロジーがどこへ向かっているのかについて、投資先企業と話し、また、このイノベーションの次の段階を理解するために、未上場企業とも話をするようにしています。

なぜなら、イノベーションを早期に理解することが、最終的に長期にわたってアウトパフォームし続けることにつながると考えているからです。

ヘルスケアセクターに注目する理由

岡元:テクノロジー以外で成長機会があると思われるセクターは何ですか?

レヒト氏:今、私たちはヘルスケアセクターに期待しています。ヘルスケアについては、魅力的な要素がいくつかあると思います。

まず、人口動態が挙げられます。現在、アメリカには65歳以上の高齢者が約5,400万人いると思います。そして10年後には7,500万人になると言われています。つまり、現在の5,400万人が7,500万人にまで成長するのです。高齢化が進み、医療へのニーズが高まっているのはご存じのとおりです。

第2に、全体として、ヘルスケアセクターは市場全体よりも低いPER倍率で取引されています。
現在、ヘルスケア関連銘柄は今年の1株当たり利益の約15倍で、S&P500採用銘柄全体では17倍弱で取引されています。つまり、このような長期的な人口動向の変化の中で、市場全体より割安な倍率で取引されていると考えられます。

最近では米国の景気減速への懸念が広がっていますが、ヘルスケア関連銘柄の収益は、歴史的に見てもかなり不況抵抗力があります。大不況の2007年から2009年にかけて、S&P500採用銘柄の収益はピーク時からボトム時までで48%か49%にまで落ち込みました。一方、ヘルスケアセクターは、同じ期間に14%収益を伸ばしました。つまり、長期的なトレンドを持つセクターが、極めて弾力的な収益の流れを持ち、安い倍率で存在しているわけです。

そこで、私たちはヘルスケアに注目しました。私たちはイノベーションに投資することに喜びを感じているので、ヘルスケアセクターから多くのイノベーションが生まれることを期待しています。 
 
例えば、デクスコム(DXCM)という医療機器メーカーの企業があります。同社は持続グルコースモニタリングを製造しており、糖尿病患者の生活をサポートしています。また、アライン・テクノロジー(ALGN)は、透明な矯正用マウスピースを製造しています。これらは従来の歯科矯正器具よりも優れた製品だと私たちは考えています。 

両社とも今年の市場規模は小さいですが、現在の標準治療よりも優れた製品を提供しており、時間が経てば市場シェアの大半を占めるようになると思います。このように、私たちは今日のヘルスケアセクターへの期待を高めています。

ポートフォリオは3種類に分けて管理

岡元:コロナ禍でポートフォリオの構成銘柄を変更しましたか?

レヒト氏:それほど大きくは変更していません。私たちは常にポートフォリオ全体に多くの多様性を持たせています。コロナ禍においても、私たちはポートフォリオを3種類に分けて管理してきました。バリュエーションと成長率に応じて分散しているのです。

1つ目は、私たちが「複利の成長」と呼ぶものです。複利の効果で成長が見込める企業がポートフォリオの70~80%を占めています。これらの企業は、参入障壁が高く、耐久性があり、競争力のある、典型的な成長企業です。そして経営陣の実績についても熟知しています。ビジネスモデルも理解しているので、大きなポジションで保有する場合が多いです。

2つ目は「ブルースカイ」と呼ぶものです。「ブルースカイ」は、新興成長企業のようなもので、通常ポートフォリオの10~15%を占めています。見た目のバリュエーションは高いかもしれませんが、潜在性を考慮すると必ずしも割高とは限りません。将来的に1株当たりキャッシュフローが、大幅に拡大する可能性を持つ企業を「ブルースカイ」と考えています。私たちは小さいポジションから保有する場合が多いです。

3つ目は「スペシャル・シチュエーション」と呼ぶものです。スペシャル・シチュエーションは、ライフサイクルの転換期を迎えている企業で、ポートフォリオの10~15%を占めています。例として、ウォルト・ディズニー(DIS)が挙げられるでしょう。昔は(映画やDVDを中心とする)リニアメディアの企業でしたが、現在はストリーミングファーストの企業として進化しています。「スペシャル・シチュエーション」に入る企業は借入が多く、何らかのテコ入れでイベントが起こる可能性もあります。

このような3種類の分類は、私たちの仮説を確認するのにも役立ちます。「複合の成長」に入れていた企業が「スペシャル・シチュエーション」に傾き始めたら、注意しなければいけません。これは、私たちの当初の仮説とは異なるもので、別の銘柄と入れ替えるべき時期であることを意味するからです。

米国株式市場の長期的な見通し

岡元:米国株式市場の長期的な見通しをどのように考えていますか。

レヒト氏:株式市場の長期的な見通しについては、建設的に考えています。過去100年間の米国株式市場の平均リターンは年率10%強でした。その100年の中で最悪だった1959年から1979年までの20年間は、大きなインフレもありました。この最悪の20年間でも、市場のリターンは平均で6.4%だったと思います。

さらにそれを最悪の15年まで縮めてみるとそれは2000年から2015年までの期間です。思い起こせば、この期間には2つの大きなドローダウンがありました。2000年から2002年にかけてのハイテク産業の低迷、そして2008年の世界金融危機です。このような時期でも、平均して年率3%以上のリターンを上げています。ですから、私たちは米国株式市場に対して高い確信を持っています。15年、20年という期間をかけて、持続性があれば、富の形成につながり、その忍耐は報われてきたからです。

そして、次の質問は、何がこのようなプラスのリターンをもたらしているのか、ということだと思います。米国には素晴らしい革新的な企業がありますし、イノベーションが減速しているとは考えていません。むしろ、イノベーションは加速していると思います。米国には素晴らしい経営陣がいますし、起業家精神に溢れる企業もあります。米国市場で持続的に株式を保有し続ければ、未来は明るいものだと考えています。

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本インタビューは2022年6月23日に実施しました。