前編に続いて合同会社フィンウェル研究所が2022年2月に行った、60代の都市生活者の満足度調査から、お金にまつわる分析結果をご紹介します。

今回は、「お金があれば幸せなのか?」と聞かれたときに何と答えたらいいのかを一緒に考えてみましょう。2019年に話題になった「老後2000万円問題」は記憶に新しいことでしょう。個人的には思うところがありますが、多くの人たち、特に若い人たちの資産運用に対する意識を高めた点では評価されるのではないでしょうか。その騒ぎの中、マスコミは街頭インタビューで「2000万円という大きな資金が必要だということにどう感じますか」と聞いて、年金だけでは足りないことへの批判だけではなく、「お金があれば幸せなのか」という反論も引き出されました。

アンケートでは、60代の6,486人に、5つの満足度について、それぞれ5段階で評価していただきました。60代といえば、既に退職している方もいれば、まだ現役として働いている方もいますが、そのほとんどが退職後の生活を意識している世代です。退職世代と言っていいでしょう。

5つの満足度とは、「生活全般の満足度」、「健康状態の満足度」、「仕事・やりがいの満足度」、「人間関係の満足度」、そして「資産水準の満足度」です。「生活全般の満足度」は総合評価のようなもので、残りの4つはそれぞれの項目の満足度を聞いたものです。その結果を、「満足できる」=5点、「どちらかといえば満足できる」=4点、「どちらでもない」=3点、「どちらかといえば満足できない」=2点、「満足できない」=1点と数値化しました。

浮かび上がった「資産水準」に対する厳しい目線

以下の図表は各満足度の平均値をグラフに示したものです。「生活全般の満足度」は3.17点と真ん中の「どちらでもない」よりは少し「どちらかといえば満足できる」に寄った結果となりました。また「健康状態の満足度」、「仕事・やりがいの満足度」、「人間関係の満足度」の平均値は、いずれも3点を上回り、かつ「生活全般の満足度」よりも高くなっています。

残念なのは「資産水準の満足度」で2.80点と、「どちらといえば満足できない」側に寄った結果でした。各項目別の平均値で「生活全般の満足度」を下回ったのは「資産水準の満足度」だけということで、「生活全般の満足度」を押し下げていることが窺えます。想定していた以上に、60代は資産水準に厳しい目線を向けているようです。

【図表】
出所:「60代6000人の声」、合同会社フィンウェル研究所、2022年

「資産水準の満足度」が「生活全般の満足度」に最も影響

これらの結果をもう少し深く分析するため、2つの数字の関連性をみる相関係数を使って、「生活全般の満足度」に対する残り4つの満足度との関連性の大きさを数値化しました。相関係数は0~1の間の値となります。0だと全く関係がないことを示し、1だと同じように動くことを示します。その間にあって、1に近いほど相関度が高いと見ることができます。

「生活全般の満足度」に対して、「健康状態の満足度」との相関係数は0.48、「仕事・やりがいの満足度」は0.51、「人間関係の満足度」は0.51、そして「資産水準の満足度」は0.65でした。どの数値も相対的に高く、それぞれの満足度が高いほど、「生活全般の満足度」が高くなることを示しています。数値がすべてプラスでしたが、その中で最も影響度が大きかった(相関係数が最も高かった)のは、「資産水準の満足度」です。

満足度平均値では最も低い値となった「資産水準の満足度」ですが、その満足度が一番大きく「生活全般の満足度」に影響を与えていることがわかりました。つまり、退職後の「生活全般の満足度」を高めるためには、「資産水準の満足度」を上げることが特に重要だということです。

現役時代から資産形成を行う大切さの意味

さらに同アンケートでは別の設問にて、「資産の金額水準」や「資産運用をしているかどうか」についても聞きました。そして、それぞれが「生活全般の満足度」にどう影響するかを分析しました。資産水準の満足度が影響しているので、当然かもしれませんが、結果は「保有している資産額が大きくなるほど生活全般の満足度が高まり」、「資産運用している人ほど生活全般の満足度が高い」ことがわかりました。

改めて「お金があれば幸せなのか」という質問にどう答えるのかを考えてみます。アンケート結果からは、退職後の生活全般の満足度は、健康であったり、やりがいであったり、人間関係であったりと多くの要素に支えられていますが、その中でも資産水準の影響が最も大きいことがわかりました。そのことから、「お金があれば幸せなのか」という問いに対して、「お金がなくても幸せに暮らせるものの、お金があることでさらに満足度が高まる」という考えが浮かびます。

ただ1つ気にかけていただきたいのは、健康、やりがい、人間関係は60代になってからでも改善することができますが、資産水準は退職してから向上させるのは簡単ではないということです。だからこそ、現役時代から、少しでも早く資産形成を始めた方が良いでしょう。「資産形成は退職後の生活のため」という味気のないものではなく、退職後の生活の「満足度を高めるため」という、少し“輝きのあるもの”であるように思います。