>> >>「自分を過信しない」医師の堅実な投資術:人気ブロガー ちゅり男さん【前編】

通貨とアセット(資産)の分散で難局を乗り切る

――円安やインフレを乗り切るためのアドバイスをいただけますか。

円安で日本円の価値が大きく下がっている中、「ポートフォリオの全てが円建ての預貯金」という状態はリスクが高いと考えています。このリスクを低減するためには、通貨とアセット(資産)の分散が重要です。

通貨は、米ドルはもちろん、ユーロや英ポンド、人民元など様々な通貨に分散投資をすることが可能ですので、円以外の外貨建て資産をアセットアロケーションの一部に組み込んでいます。

アセットの分散においては、単に外貨を保有しているだけでは、インフレによる通貨価値の下落を回避することはできません。健全な資本主義経済ではマイルドなインフレが好ましいとされ、現金の実質価値は長期的には下落する可能性が高いからです。このリスクを低減するためには、株式や債券、不動産、コモディティなど他のアセットへの分散投資が有効です。中でも、長期リターンが最も優れているのが株式だと思います。

今後もインデックスの王道商品で積立投資

――今後の投資戦略をお聞かせください。

投資を始めてから15年の間にチャイナ・ショックや米中貿易摩擦、コロナ・ショック、ロシアによるウクライナ侵攻など、様々なピンチを経験しています。とはいえ、リーマン・ショック後の2010年代は全体としては大変恵まれた相場であり、その恩恵に預かって資産を増やすことができました。

資産規模が増えるにつれ、一発で大きなリターンを上げることより、大きな失敗をしないこと、つまり、リスク管理に重点を置く必要性を強く感じるようになりました。リスク管理の基本は自分の「リスク許容度」を正確に把握し、それに合わせたアセットアロケーションを組み、その資産バランスを維持することです。

投資対象は不祥事や倒産などの可能性がある少数の個別株ではなく、数百から数千の銘柄に分散できるインデックス型の商品がベストだと考えています。よって今後も「VT(バンガード・トータル・ワールド・ストックETF、ベンチマークはFTSE グローバル・オールキャップ・インデックス)」や「VTI(バンガード・トータル・ストック・マーケットETF、ベンチマークはCRSP USトータル・マーケット・インデックス)」といったインデックスの王道商品に積立投資していくことになるでしょう。

欧米で利上げが進んだことで債券価格も下がっています。ですので、アセットの分散という意味で、債券をポートフォリオに組み込むことも検討しています。しかし、長期投資の主役はあくまで株式なので、債券に投資するにせよ、少額に留まると思います。

FIREに興味はないが、4%ルールを1つの目標に

――今後の資産目標について教えてください。

株式投資で計画通りにお金が増えていくことはほとんどないので、「何歳までに何円」といった具体的な目標金額は定めていません。過去のデータに基づいて、株式インデックス型の商品で年平均4~5%のリターンを得ていければ…と考えています。

話題のFIRE(経済的自立と早期リタイア)では「4%ルール」が提唱されていますよね。年間生活費が総資産の4%以内に収まれば、非常に高い確率で資産を取り崩すことなく早期リタイアが可能というものです。私自身は神経内科医という今の仕事が好きなのでFIREは考えていませんが、この「年間生活費< 総資産の4%」を1つの目標にしています。

総資産1億円だとしたら、年間生活費は400万円未満ということになります。今は健康で仕事ができても、いつ、自分の病気やケガで労働収入が得られなくなるか分かりません。ですから、この4%ルールをクリアしておくと精神的に安心できます。ただ、年間生活費は子どもの成長やライフステージによって大きく変動するので、コントロールが難しい面もあります。

株式投資で資産を増やすことを体感

――ちゅり男さんにとって投資をするモチベーションは何でしょうか。

実質賃金が伸び悩んでいる日本では、毎月継続的に貯蓄するだけでも大変です。貯蓄を長期間継続するためには、貯蓄のモチベーションを高める工夫が必要になります。

私にとっては株式投資こそが貯蓄のモチベーションの原動力です。投資を始めてから無駄使いが減り、余計なモノを購入するくらいなら、そのお金で株式を購入した方がいいと考えるようになりました。20代のころは物欲もあり無駄使いも多かったですが、物を所有することによる満足度は長く続かないということに気づきました。もちろん節約ばかりしているわけではなく、家族との旅行や自己投資、子どもの教育など体験や経験することにはしっかりお金をかけたいと考えています。

投資を始めたことによってお金の使い方にメリハリが生まれ、家計管理が上手になりました。何より、労働によってお金を稼いでその一部を貯蓄に回すだけでなく、稼いだお金にも働いてもらって資産を増やすということを、投資で身をもって体感できたことは大きな収穫です。

「積立投資が常識という時代になってほしい」

――ブログやTwitterで積極的にお金や投資について情報発信をされています。背景にはどのようなお気持ちがあるのでしょうか? 

株式投資で重要なのは、できるだけ若いうちから始めて、複利の効果を最大限に生かすことです。しかし、周囲に投資をしている人がいて、直接教えてもらえる若者なんて、ごく少数ですよね。インターネットによる情報収集に長けている若者に、自分が良かったと思う情報を伝え、若い世代が投資を始めるきっかけになればいいと思い、ブログやTwitterを始めました。その中ではマニアックな投資情報よりもできるだけ再現性の高い、万人向けの手法を紹介するよう心がけています。

こうしたアウトプットを行うことによって、常に最新情報をアップデートする習慣がつきますので、自分自身にも役立っていると思います。サブスクで経済誌を読んだり、有識者などのネット記事から情報収集して、日々刺激を受けています。

――20~30代の個人投資家へのメッセージをお願いします。

日本社会では少子高齢化が急ピッチで進んでおり、公的年金だけで老後の生活を賄うことは難しくなっています。一人ひとりが若いうちから資産形成の必要性を自覚し、国に頼らず、自力で老後に備えなければならない時代です。

20〜30代の若い方は、つみたてNISAやiDeCoなど、税制優遇制度を活用してインデックス投資を始めるのがいいと思います。若い方の最大の武器は、投資期間を長く確保し、複利効果を最大限に享受できることです。毎月の給料から、少額でも投資用の資金を確保し、貯蓄の代わりに積立投資を始めてみてはいかがでしょうか。積立投資をするのが常識というような時代になっていくといいですね。

――ありがとうございました。

※本インタビューは2022年6月23日に実施しました。
※本内容は、個人の経験に基づく見解であり、当社の意見を表明するものではありません。
※投資にかかる最終決定は、お客様ご自身の判断と責任でなさるようにお願いいたします。