高齢者の労働力人口増加

2050年の日本の人口は、現在から約23%低下した計9,500万人、65歳以上の人口は約4%低下した計3,700万人と試算されている。

また、65歳以上の労働力人口は緩やかな上昇傾向の中、2006年に施行された改正高年齢者雇用安定法を受けて急伸、今後も定年延長が想定されることから上昇が見込まれる。しかし、人口減少により全体的な労働力人口は2022年以降減少傾向にある。

【図表1】日本の労働力人口推移
出所:総務省、国立社会保障・人口問題研究所

経済成長を支えるのは “イノベーション” 

ここで、経済の成長には何が必要か考えたい。様々な要素があるが、全要素生産性(Total Factor Productivity = TFP)が1つの鍵となってくる。供給サイドに関して、設備などの資本、労働力、生産性の要素から算定した潜在成長率において、TFPは資本や労働といった量的な生産要素以外の成長要因として扱われる。

そして、TFPの上昇はイノベーションと効率の改善による(※1)。実際に、過去の潜在成長率を資本投入量、労働投入量、TFP上昇率に分解すると、TFP上昇率の寄与度が高く、経済の成長にイノベーションは必要な要素の1つであると言える。

【図表2】潜在成長率とその寄与度
出所:内閣府、厚生労働省

高齢化 × テクノロジー = Age-Techというイノベーション 

高齢化市場に対するイノベーションとして注目を集めているのが「Age-Tech」だ。高齢者や介護従事者のニーズや課題に沿ったソリューションを提供することが目的であり、新しいプロダクトやプロセスの創出などイノベーションを起こすテクノロジーを指す。Age-Techは主に3つのサービスに分けられる。

【図表3】Age-Techの3つのサービス分類
出所:「エイジテック2021アワード」入賞企業などから丸紅経済研究所作成

それぞれのサービスや商品ごとにターゲットや事例が異なるが、中でも今後注目すべき分野は(3)だ。内閣府の試算によると65歳以上の1人暮らしの割合は増加傾向にあり、65歳以上の人口に占める割合は2000年に17.9%、2020年に22.4%、2040年には24.5%(896万人)になると言われている。

また65 歳以上の1人暮らしを対象にしたアンケートでは、「普段の生活で楽しみにしていることは?」という質問に対し、1位のテレビ・ラジオ(78.8%)に次いで多かったのが、仲間や友人と話すこと(53.1%)だった(※2)。そのような状況を踏まえて、高齢者が他者と関わり孤独感を解消できるイノベーションの必要性が高まると思われる。

例えば、東京大学先端技術研究センターは、仕事、ボランティア、趣味などのあらゆる地域活動とそれらに参加したい高齢者を結んだ地域コミュニティ「GBER」を開発した。2016年に実証実験が始まったGBERだが、最近では地方自治体での活用も進んでいる。

実は、高齢者が日常生活で他者と関わるメリットは、認知症の発症予防という側面からも示すことができる。具体的には、5つの質問(配偶者がいるか、家族とのやり取りがあるか、友人との交流があるか、地域グループの活動に参加しているか、就労しているか)に対して、2つYesだと認知症発症リスクが14%低下、5つすべてにYesだと46%低下するという研究結果がある(※3)。

日本の65歳以上の認知症患者は2020年に17.5%、2040年には24.6%(953万人)になると言われており(※4)、そのような点からも(3)に関するイノベーションに注目だ。

2050年には人口に占める65歳以上の人口の割合が5人に2人となる。今後、高齢化市場へのAge-Techによる持続的なイノベーションが日本経済を支え、健康寿命が延伸することでまた新しいニーズや課題が生まれ、市場が拡大していくだろう。

※1 OECD  “The OECD Innovation Strategy : Getting a Head Start on Tomorrow” (2010)
※2 内閣府 ”一人暮らし高齢者に関する意識調査結果” (2014)
※3 国立長寿医療研究センター ”Influence of social relationship domains and their combinations on incident dementia: a prospective cohort study”(2017)
※4 内閣府 ”高齢社会白書” (2017)


コラム執筆:冨永 健悟/丸紅株式会社 経済研究所 産業調査チーム