モトリーフール米国本社 、 2022年6月5日 投稿記事より

主なポイント

・シェブロンのCEOは、米国内に新たな製油所が建設されることはないとみている
・そのため、将来的に業界が精製品の需要に対応する能力に影響が予想される
・このことは、精製マージンが堅調に推移する可能性も示唆している

米国のガソリン価格高騰を緩和する手っ取り早い方法はない

石油メジャー、シェブロン(CVX)のマイク・ワース最高経営責任者(CEO)は、今後、米国内に新たな製油所が建設されることはないだろうとの見方を示しました。これは、ブルームバーグTVが行った最近のインタビューで、記録的高水準にある米国のガソリン価格を緩和するにはどうしたらよいかについて議論する中での発言です。

現在、シェブロンをはじめとする石油生産企業が増産しても、ガソリン、ジェット燃料、ディーゼルなどの石油製品の需要を満たすだけの十分な精製能力はありません。つまり、石油会社がこれまで以上に多くの原油を汲み上げたとしても、価格は高止まりが続くということです。

これは、消費者にとっては悪いニュースですが、精製企業にとっては良いニュースです。精製マージンが堅調に推移することを示唆しており、精製企業の業績好調を下支えしてくれる可能性があります。

ガソリン価格の高騰を抑制する手軽な解決策はない

全米自動車協会(AAA)によると、現在、米国の平均ガソリン小売価格は1ガロン当たり約4.75ドルとなっています。これは1年前と比べて45%高く、記録的高水準です。残念ながら、ガソリン価格の高騰に対処する手軽な方法はありません。ガソリン価格急騰の背景には原油価格の高騰がありますが、それだけが原因ではないのです。

もう1つの問題として、精製マージンがここ数週間で急上昇しています。ロシアと中国からの精製品の供給が減少していることに加え、国際航空便や中国の消費が依然として新型コロナウイルスのパンデミック前の水準に戻っていないにもかかわらず、精製品に対する需要が急増していることが原因です。精製は2番目に大きな投入コストであるため、高水準の精製マージンはガソリン小売価格に大きな影響を与えます。

精製マージンが上昇すると、原油価格の変動がガソリン小売価格に及ぼす影響度は低くなります。

そのため、シェブロンをはじめとする石油会社が原油の生産量を増やしたとしても(言うは易く行うは難し、ですが)、消費者が期待するほどガソリン価格の押し下げにはつながりません。すぐに新たな精製能力を追加することも不可能です。

ワース氏は、米国で今後、新たな精製所が建設されることはないと考えています。なぜならエネルギー企業にとって、現在の環境で精製所の建設を検討することは現実的ではないからです。ワース氏は、「精製所の建設には10年にわたって資本を投下し続けなければならず、さらに株主に利益をもたらすには数十年かかる。一方で、世界各国の政策環境は、『将来的に石油精製品を使用しない』方向に向いている」と指摘しました。つまり、シェブロンなどの企業が時間と資本を割いて精製所を建設しようと考えたとしても、よりクリーンな代替エネルギーへの移行を考えると合理的ではないのです。

精製企業にとって好機

精製品の需要が旺盛で、新たな精製能力が建設される予定もないことから、精製企業にとってまたとない好機が訪れています。これは、シェブロンの米国の川下事業の第1四半期業績を見ると明らかです。同社は第1四半期に4億8,600万ドルの利益を生み出し、前年同期の1億3,000万ドルの赤字から大逆転しました。需要の増加に対応するために精製所の稼働率を引き上げ、精製品の利益率上昇が業績向上に大きく寄与しました。

石油精製に特化したエネルギー企業の業績好調はさらに顕著です。例えば、独立系大手精製企業のマラソン・ペトロリアム(MPC)は第1四半期に、精製・販売から14億ドルの調整後の利払い・税引き・減価償却前利益(EBITDA)を生み出しました。前年同期のわずか2,300万ドルから大幅な増加です。精製マージンが2021年第1四半期の1バレル当たり10.16ドルから2022年第1四半期には同15.31ドルに上昇したこと、および設備稼働率が同期間に83%から91%に上昇したことが増益に寄与しました。

同じく独立系精製企業のバレロ・エナジー(VLO)も、石油精製市場の市況改善の恩恵を受けています。第1四半期の調整後営業利益は14億7,000万ドルとなり、前年同期の5億600万ドルの調整後営業損失から大幅に改善しました。

精製マージンがここ数週間で改善し、精製企業の稼働率がフル稼働に近づいていることから、石油業界は今後数四半期にさらなる利益の増加が見込まれます。こうした恩恵の大半は、増配や自社株買いといった形で投資家に還元されると思われます。精製企業は従来の精製能力の増強に資本を投下していないからです。その代わり、ほとんどの精製企業は既に、未来型燃料に焦点を移しています。マラソン・ペトロリアムは最近、20億ドルを投じ、再生可能燃料プロジェクトを推進するための合弁会社を設立しました。バレロ・エナジーは、ダイヤモンド・グリーン・ディーゼル(DGD)プロジェクトの拡張を加速させ、2022年第4四半期までの完了を目指しています。

精製ブームに投資するには

米国ではここ数十年、新しい精製所が建設されていません。現在の環境を鑑みると、すぐに新設されることもないでしょう。そのため、業界の生産能力問題をすぐに解決する方法はありません。

このことは、精製企業の好業績がしばらく持続することを意味します。シェブロンもこうした市場環境の恩恵を受けるでしょうが、同社にとって精製部門は事業のほんの一部にすぎません。そのため、投資家が足元の精製ブームに乗じるには、シェブロンのような石油メジャーではなく、バレロやマラソンといった精製専業企業に着目するのが良いかもしれません。精製マージンが堅調に推移すれば、これらの企業の株価の方が大幅に上昇する可能性があります。

免責事項と開示事項  記事は一般的な情報提供のみを目的としたものであり、投資家に対する投資アドバイスではありません。元記事の筆者Matthew DiLalloは、記載されているどの銘柄にもポジションを保有していません。モトリーフール米国本社は、記載されているどの銘柄にもポジションを保有していません。モトリーフールは情報開示方針を定めています。