みなさん、こんにちは。日経平均は揉み合いが続きながらも、徐々に下値を切り下げている印象です。

企業業績改善ピッチのスローダウン懸念、世界的な金利上昇、エネルギー価格上昇、ロシア・ウクライナ情勢の長期化など懸念材料は目白押しであり、なかなか上昇トレンドへ転換するきっかけが見え難いというところなのでしょう。

ただし、円安の影響は要注意です。一般的にはエネルギー価格の上昇もあって「悪い円安」とされますが、この円安メリットを享受できる企業もまた少なくないことを忘れてはいけません。相場の全体感を把握していくことは重要ながら、当面はかなり個別銘柄の動きに注目しておく必要が高まっていると私は考えます。

重要性が増すサプライチェーンの在り方

さて、今回は「サプライチェーン」を採り上げてみましょう。サプライチェーンとは読んで字のごとく、製品を作るまでに必要な部品部材の供給網のことを指します。

現在、ほとんどの工業製品は素材、部材、部品、製品で分業体制が成立しており、どこかの段階で供給に支障が発生すると、そこから下流に位置する生産が(その企業に問題はなくとも)一気に影響を受けてしまう構造となっています。

サプライチェーンは今や世界的に張り巡らされており、バタフライ効果よろしく、どこか外国の出来事があっという間に日本企業に影響を与えるということになるのです。実際、かつては日本における東日本大震災がそういったサプライチェーンを寸断し、世界的な影響が発生しました。そして今現在も、半導体の供給不安が自動車生産に大きな影響を与えているのです。

多くの企業はそういった事態の発生を回避するため、あるいはその影響を緩和するため、複数のサプライチェーンを用意するなどしていますが、前述の半導体不足のように、何かの素材、部材、部品が世界的に足りなくなってしまった場合はその分散効果も限定的なものとならざるを得ません。

直近では半導体に限らず、エネルギー、物流でも目詰まりが顕在化しつつあるうえ、これに地政学リスクの急速な台頭も加わっています。そのため、いつになくサプライチェーンの重要性は増してきているのです。

サプライチェーンは国内回帰に向かうのか

こういった状況を受け、多くの企業はサプライチェーンの見直しを進め始めています。物流の停滞リスクや地政学リスク、さらにはSDGs対応や為替対応なども加わり、サプライチェーンにおける国内比率を高めようという流れです。

コスト安などこれまで海外を組み込むメリットが人件費上昇などで薄れ、むしろ物流時間の長期化や地政学リスク対応などがデメリットとして台頭してきたということなのでしょう。海外へシフトしてしまった部品、部材や組立工程を日本に呼び戻す動きも散見されるようになってきたのです。

現在はまだ「散見」という段階ですが、今後世界情勢の混迷が継続すれば、こういった動きが奔流のように進展する可能性は十分あると予想します。

そういったタイミングで、先日は経済安全保障推進法も成立し、今後施行される見通しとなりました。この法案が直接対象としていない分野でも、こういった概念の浸透により、様々な事業の国内回帰が促進されるだろうとも想像します。

1980年代の円高を契機にサプライチェーンのグローバル化を一貫して推進してきた日本の企業群ですが、2020年代に入ってその流れにも転換点が訪れつつあるのかもしれません。

株式投資の観点から押さえておきたい2つの視点

株式投資という観点からは、2つの視点が重要になってくると考えます。1つは、この流れは企業の収益力に直接的には寄与しない、ということです。もちろん、昨今の物流コスト上昇や円安などを考えれば国内回帰がコストダウンに直結する可能性は十分あります。

しかし、それも「今後発生する(だろう)コストの抑制」であり、「現在のコスト競争力の向上」という位置付けには基本的にありません。上記のような要因を背景としたサプライチェーンの見直しは、リスクの抑制といった意味合いが大きいと認識しておくべきでしょう。

もちろん、これは長期的には企業の持続的成長に資するアクションであり、時間をかけて株式市場に評価されるものであろうことに異論はありません。

もう1つの見方は、新しいビジネス機会の創出です。サプライチェーンの終端に位置する最終製品の競争力への影響は中立であったとしても、これまで海外にあったビジネスの国内シフトがあるとすれば、そこにビジネスチャンスが発生するのは明らかです。

特に、これまで冷徹な国際競争に晒され、その結果として衰退を強いられてきたオールドファッション型の産業には形勢逆転のきっかけとなるかもしれません。既に「終わった」と目されてきたような産業が改めて脚光を浴びるというシナリオです。

現時点ではまだこのような見方は一般的ではありませんが、こうした構造的な変化が起きれば、息の長い相場のテーマになっていくものと期待します。